AGL.05

 52機の大編隊が高度8000メートルの高空を飛ぶ。

〔23、02、敵機は何処だ?〕

〔23、ネガティブ、反応無し〕

〔02、ノージョイ、こっちも。本当に方位190?〕

〔逃げ出したんだろ、俺達に恐れ慄いて――〕

〔11、私語は慎め〕

 セクメト11こと、第5分隊 4番機――開成重工 F-2A バイパーゼロ――のパイロットである柿里 尚哉が藤峰 大希に注意された。

〔でもよぉ藤峰。事実、レーダーにもFLIR(前方熱源索敵センサー)にも反応が無いんだ、居ないようなもんだろ〕

〔だけどなぁ――〕

〔何が『幻影のスナーク』だよ、大した――〕

 直後、彼の乗った灰色の航空迷彩が施されたF-2A バイパーゼロが爆ぜた。

〔柿里ぉ!〕

〔セクメト11、イジェクト! 畜生、今年に入って6機目のバイパーが!〕

〔命があるだけマシと思え! 何処からミサイルが来た!?〕

〔ヴィジュアルコンタクト! イレブンオクロックロー、渓谷の間だ!〕

 F-15H スラムイーグルに搭載されたスナイパーXR照準ポッドに内蔵された熱源索敵センサーが渓谷の間を縫うように飛ぶスナーク飛行隊を捉える。

〔こんなに近距離で……? 全機、ドッグファイトに備えろ!〕

 セクメト飛行隊の51機は一気に増槽を捨て、スライスロール、急降下する。


 そして、上昇してきたスナーク飛行隊とすれ違う。散り散りになり、敵味方が入り乱れる。

「美香、見失わなんといてや!」

「バッチリやで!」

 灰色のF-4EZ改 ファントムⅡはループ機動、灰色にシャークマウス(機首にサメの顔を描くノーズアートの一種)を施したF-4S ファントムⅡを追尾する。

 F-4S ファントムⅡの後ろにF-4EZ改 ファントムⅡがついた。主翼下に搭載されたAAM-3短距離空対空ミサイルの熱源センサーが機影を捉える。しかし、F-4S ファントムⅡはフレアを撒いた。

 2機はそのままシザース機動へ移る。しかしそこへ、AV-8B+ ハリアーⅡが加わり、F-4EZ改 ファントムⅡをロックオンした。

〔逃げるな、私の獲物!〕

 MiG-29SMT ファルクラムEがAV-8B+ ハリアーⅡを追尾、AV-8B+ ハリアーⅡはブレイクした。MiG-29SMT ファルクラムもそれを追い掛けるが、その後方にJ-35J ドラケンが食らいつく。


 真子のF-15MZ イーグルは、黄色のF-15MZ イーグルを追尾していた。

 バイザーに表示されたシーカー捕捉可能円の中に機影を捉え、ジーという音が鳴る。そして、一つ高い音に変わった。

「セクメト12、フォックスツー」

 灰色のF-15MZ イーグルの右主翼から、1発のAAM-5短距離空対空ミサイルが発射された。黄色のF-15MZ イーグルはフレアを撒いて回避機動、しかしAAM-5短距離空対空ミサイルのシーカーは見逃す事無く、正確に近付いて近接信管を作動させた。


 ミラージュ2000-5Mk2、殲-10A 猛竜、2機のJAS-39C グリペンの計4機は一斉に散開、黄色のJA-37D ビゲン、紅色のJAS-39D グリペン、黄緑色のクフィルC10、オレンジ色のミラージュ2000-5とドッグファイトに突入する。

 殲-10A 猛龍は急激な旋回、JAS-39D グリペンを追い掛ける。

〔グッドトーン、セクメト56、フォックスツー!〕

 殲-10A 猛竜の右主翼端からAAM-5短距離空対空ミサイルが発射される。JAS-39D グリペンはフレアを撒き、スライスロールで急降下する。AAM-5短距離空対空ミサイルのシーカーはフレアに惑わされ、JAS-39D グリペンを見失う。殲-10A 猛竜もそれを追う。が、その後方にミラージュ2000-5が食い付いた。更にその後ろをミラージュ2000-5Mk2が追い掛ける。

 4機はシザース機動を繰り返す。

〔美鈴、どけ! 射撃できない!〕

〔どけって何よ! それで撃てないのはただの馬鹿だよ!〕

〔言ったな!?〕

 ミラージュ2000-5Mk2に乗った緑髪三つ編みのソフィー=ペルサキスが怒鳴る。そして、目の前のヘッドアップディスプレイのガンレクティカルを、オレンジ色のミラージュ2000-5に合わせた。そのまま、彼女はガントリガーを引いた。

〔フォックススリー!〕

 ミラージュ2000-5Mk2の機首に搭載された2門の30mm DTAT554回転機関砲が唸り、30×114mm DTAT-B弾が発射される。そしてそれらは、ミラージュ2000-5と殲-10A 猛竜の主翼を裁ち切った。


 殲-10A 猛竜の機内に激しい警告音が鳴り響く。そして、機体はジェットコースターより激しい右ロールを繰り返す。殲-10A 猛竜のパイロット・林 美鈴(リン メイリン)は諦めたように、センタースティック付け根にある真っ赤なエマージェンシーハンドルを引いた。

「セクメト56、イジェクト!」

 キャノピーが吹き飛び、座席が打ち上げられる。


 緑色のF/A-18F スーパーホーネットの後ろに、灰色のF-15MZ イーグルが食らいついた。真子が被ったヘルメットのヘッドバイザーに表示されたシーカー捕捉円がF/A-18F スーパーホーネットと被さる。そして、甲高い音が鳴った。

「フォックス――」

 そう言いかけた時、警告音が鳴り響いた。

【Warning, warning. Too close, too close.】

 視界一杯に水色の機体が現れ、彼女の体が激しく揺さぶられる。それは、僚機であるニーカのСу-27СМ3 ジュラーヴリクであった。

「あなた、空中接触でも起こす気!?」

〔あら、ぶつからなかったのだからいいでしょう? 貴女なら下手に動かないと踏んでおりましたが、その通りで良かったですわ〕

「っ……あなたねぇ!」

〔それより、自分の後ろを見たらいかが?〕

 そう言われ、真子は振り返る。するとそこには、オレンジ色のСу-27ЛЛ プラボーニクランがいた。真子はスロットルレバーのスイッチを押し、フレアを撒く。そして、スピードブレーキ最大展開、フラップフルダウン、操縦桿を思い切り引いて意図的な失速状態へと機体を陥れる。急激な機首上げによる減速、プガチョフコブラ機動で追い越させようとする。が、Су-27ЛЛ プラボーニクランもコブラ機動をやり返す。2機は上を向いたまましばらく水平飛行をする。しかし、F-15MZ イーグルが先に機首を下げざるを得なくなる。


 ハイヨーヨーで旋回したСу-27СМ3 ジュラーヴリクのニーカが被ったヘッドバイザーのシーカー捕捉円にСу-27ЛЛ プラボーニクランが被る。甲高い音が鳴り、ニーカは操縦桿の兵器発射ボタン(ミサイルレリーズ)を押した。

「フォックスツー」

 Су-27СМ3 ジュラーヴリクの左主翼下から1発のAAM-5短距離空対空ミサイルが発射される。Су-27ЛЛ プラボーニクランはフレアを撒きながらクルビット機動、AAM-5短距離空対空ミサイルを回避する。

 即座にニーカは兵装選択ボタンを押して、[РМД]から[ПУШ]に切り換える。

「フォックススリー、これで落ちろ!」

 Су-27СМ3 ジュラーヴリクに搭載された30mm 9A-4071K機関砲が唸り、Су-27ЛЛ プラボーニクランの機体を抉る。


 一方の真子は、ニーカが発射したAAM-5短距離空対空ミサイルから逃げていた。急降下、フレア放出、しかしミサイルはF-15MZ イーグルの機影を追いかける。

【Pull up, pull up.】

 対地接近警報、みるみると渓谷が迫る。谷間へダイブ、操縦桿を引いて機体を引き起こす。AAM-5短距離空対空ミサイルのシーカーは機影を追うも、ミサイル本体は急旋回できずに地面に突っ込んだ。

 真子は操縦桿を引き、機体を上昇させる。辺りを見渡すと、何かが近付いてくる。そちらへと向かうように左旋回、目標と相対する。

 その時、ミサイルの噴煙を視認した。そしてそれは、真っ直ぐ向かってくる。

 右急旋回、フレア放出。ミサイルを回避する事に専念する。しかし、回避するのが遅かった。超音速で迫るAAM-5短距離空対空ミサイルは近接信管を作動させ、破片をばらまいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る