AGL.04
4月5日、敷島学園 第11分校 北校舎 302教室。ここに、戦術航空科 2年666組、セクメト飛行隊60人が集まっていた。
「全機損失、生還機は0、撃墜数8……ま、当然の結果か」
手元の資料をペラペラと捲りながら、依子は言った。その一方の生徒達は不機嫌な顔だった。
「最初からやられる前提の作戦を立てるなんて、教師失格じゃないですか?」
飛行隊長の藤峰 大希が口を開く。すると、依子はニヤリと笑って言葉を発した。
「どーしてここに60人も集められたか、知ってるか?」
「知ったこっちゃありませんよ」
「ま、後々分かるさ。さて、新しい機体は全員届いた事だし、DACT(異機種間空中戦闘訓練)をやってもらう」
突然の発表に、ブーイングが沸き起こる。
「録に謝罪もせず何様のつもりだ!」
「このろくでなし!」
「おいそれと指示聞けるか!」
「もう信用ならねぇぞ!」
しかし、依子は聞く耳を持たなかった。
「開催日時は明日1300。場所はここから南西へ20kmのプラタリア渓谷上空、相手は本校戦術航空科 3年602組、コールサイン・スナーク。使用機種とパイロットの最低限の情報は教卓に置いとく。ちなみに逃亡したら、2ヶ月間の操縦士資格停止、つまり飛べなくなる。それではさいなら」
その後、しぶしぶと生徒達はスナーク飛行隊のデータを見始めた。
真子も、自分の席でスナーク飛行隊の一覧表を見る。
(要注意はSu-47とF-22、それ以外は普通か)
「F-22のステルス性能を生かせば、瞬きする間に皆殺しに出来るのに」
「馬鹿言え。第5世代機はレーダーリフレクター(電波反射板)の装着が義務付けられてんだ。空中接触を防ぐ為とか、学校間の戦力差を均衡させる為とか言ってるけど、ステルス性能の無いF-22なんてタダのカカシだよ」
F-22A ラプターのパイロットである藤峰 大希と金髪ショートのレイラ=ハリソンが愚痴る。
「向こうにもラプタードライバーがいるのか」
「だとすりゃ上等だ。あたしの餌にしてやる」
「何言ってやがる。俺が落とす、他を漁ってろ」
一方、F-4EZ改 ファントムⅡのコンビである西川 辰巳と水沢 美香も表を見ていた。
「ドラケンかぁ……」
「このハリアーⅡも、昨日うちらを撃ち落とした機体やろうね」
その頃、敷島学園 本校 21L滑走路から複数の航空機が離陸していった。Су-33 マスコイクランやСу-27ЛЛ プラボーニクラン、Су-47С ベールクト、F-22A ラプター、F-15E ストライクイーグル、JA-37D ビゲン、МиГ-23МЛД リャグーシュカパイマーナといった様々な戦闘機、更にСу-25СМ3 グラーチュ、A-11B ギブリ、AV-8B+ ハリアーⅡ等の攻撃機も離陸した。
4月6日、敷島学園 第11分校 駐機場。
52機もの戦闘機や攻撃機が空対空ミサイルや増槽を搭載し、機関砲弾や燃料が入れられていく。
新品のF-15MZ イーグルが今、真子の目の前にある。まだ新しい為、敷島連邦空軍のと同じ灰色の制空迷彩のままだ。翼下には4発のAAM-5短距離空対空ミサイルと2本の増槽、胴体下部には4発のAAM-4B視程距離外空対空ミサイルが吊るされている。その隣の青いСу-27СМ3 フランカーの翼下には4発のAAM-5短距離空対空ミサイルと4発のAAM-4B視程距離外空対空ミサイル、胴体下部には4発のAAM-4B視程距離外空対空ミサイルが吊り下げられている。
真子は梯子を登り、座席に腰掛ける。シートベルトを装着、ロックを確認する。整備員がヘルメットを持ってきて、彼女はそれを頭に装着、左手で電子スイッチを入れる。その間に整備員が真子の着ているパイロットスーツを機体のコネクターに接続した。そして、機体のすぐ側の高出力コンセントから供給される電力を使って機体の電子装置を起動、多機能ディスプレイで兵装を確認する。[AAM-5×4 AAM-4B×4 20mm×940]、次にミッション管理画面に切り替える。[AIR COMBAT]、異常無し。ヘルメットと酸素マスクを接続、ヘッドバイザーが起動する。射撃管制装置とヘッドバイザーをリンク、シーカー捕捉可能円や高度計、速度計が表示されたのを確認する。
〔タワーよりセクメトスコードロン、ランアップを開始せよ〕
無線からの指示で、真子はタービン始動スイッチを入れた。次に左スロットルレバーを押し、左エンジンを始動させる。R&M/OHI F100-OHI-220Eターボファンエンジンが甲高い音を生み出す。回転計を確認し、左エンジン出力を一旦下げて右エンジンを始動させる。2基のターボファンエンジンが唸り、イーグルの翼に命が吹き込まれる。車輪止めが外れれば、今すぐにでも走り出しそうな感触に包まれる。
やがて、車輪止めが外され、誘導員の指示に従って自走、02R滑走路へ向かう。
滑走路の端に、4機――F-15MZ イーグル、Су-27СМ3 フランカー、F-15H スラムイーグル、Su-30MKB ストライクフランカー――が並ぶ。皆空対空ミサイルをフル装備している。
〔セクメトサードスクワッド、クリアードフォーテイクオフ〕
4機のフットブレーキが解除され、勢いよく走り出す。フラップフルダウン、機首上げ、機体がふわりと浮き上がる。ギアアップ、戦闘空域へと上昇していく。
セクメト飛行隊の52機は上空で合流、編隊を組んで戦闘空域を目指す。
〔やぁ皆、依子先生だよー?〕
〔くたばれクソ女郎〕
〔ナチュラルに暴言? 酷いなぁ全く。スナーク隊について、説明いる?〕
〔全員女、第3世代から第5世代までバラバラで、戦闘機のみならず攻撃機もおる……それ以外になんか?〕
〔スナーク飛行隊、戦術航空科 3年602組は我が敷島学園きってのエースが集められた精鋭部隊だ〕
〔そりゃ600番台最初の方だもんな〕
〔キルレシオ(撃墜・被撃墜割合)はトップクラス、中には1度たりとも撃ち落とされた事の無い奴が何人かいる。口だけは達者なトーシローばかり集めたお前らに勝てるかな? じゃ、私は本校に上げる報告書が溜まってるんで〕
〔……なんつー教師だ。文部省に言いつけてやる〕
〔止せよ、あの女の胸見たか?〕
〔ああ、2700リットル増槽みてぇなあれか〕
〔馬鹿、そりゃタダの脂肪だ。あの女、ウィングマーク(操縦士資格)の他にコブラも付けてた〕
〔コブラ? ……おいまさか――〕
〔アグレッサー(仮想敵部隊)の元パイロット……〕
〔アグレッサーが何だ、あんなちゃらんぽらんに務まるかよ〕
〔アグレッサーの恐ろしさを知らねぇのか? たった2機のF-4で6機のF-3を撃ち落とした連中だぞ? しかも目視距離外戦闘も含めてだ〕
〔F-3を? 敷島連邦と開成重工が総力上げて作ったステルス制空戦闘機だぞ?〕
〔きっとレーダーリフレクターでも付けてたんだろうよ。それなら納得だ〕
〔AAM-4BとAIM-7Fじゃ根本的な性能が違い過ぎる。いくらなんでも無茶だ〕
〔それがアグレッサーの恐ろしさだって〕
無線でそんなやり取りが交わされる。真子はそれを静かに聞いていた。すると、誰かが真子を呼んだ。
〔真子さん?〕
「誰?」
〔ニーカ=レービナ、同じ分隊なのに『誰?』は無いですわ〕
「人の顔と名前と声を覚えるのが苦手なの」
〔あらそう……何機落とすつもりかしら?〕
「何で言わなきゃなんないの」
〔教えてくれても構わないでしょう?〕
「結構、私に構わないで」
〔……孤独者なのね〕
その時、無線に新たな声が響いた。
〔スナーク、セクメト、戦闘空域への到着を確認。セクメト隊、12時方向だ。以後、グレースワッチは無線封鎖に入る。グッドラック〕
遥か上空を飛ぶ早期警戒管制機・パシフィックエアロプレーンプロダクツ E-767MZ アマノサグメからの無線だった。
〔セクメト42、ウィルコー。全機、ダンスの時間だ〕
そして、マスターアームスイッチが押された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます