AGL.03

 次々と、各地の分校から様々な戦闘機がスクランブル発進していく。敷島連邦空軍の新旧機の他、生徒が自由に選んだ戦闘機も離陸していく。

〔キルシュコントロールからティフィン隊、敵編隊はエリアGY-3891をベクター17、マッハ0.8、高度180メートルで移動中。最低でも40はいる。――いやちょっと待て。一部が上昇、エスコート(護衛戦闘機)か。現在250メートル〕

〔ティフィン16、コピー(了解)。反乱部隊を迎え撃つ、エンゲージ!〕

 開成重工 F-2A バイパーゼロ、アベレージダイナミクス F-16ADF ファルコンインターセプター、ウェスティンハワード F-20A タイガーシャーク、スベンスカエアプレーン JAS-39C グリペンが一斉にマスターアームスイッチを入れ、AAM-4B視程距離外空対空ミサイルやAIM-120C アムラーム視程距離外空対空ミサイルを発射する。


〔本当に遠慮ねぇな! ブレイク(散開)!〕

 第11分校 戦術航空科 2年666組、セクメト飛行隊の護衛機として名乗りあげた戦闘機達は一斉に増槽を投棄、電磁妨害を行いながら散開していく。

 真子も、チャフを撒きながら低空を飛ぶ。そして辺りを見渡し、ミサイルの噴煙航跡を探す。すると彼女は、いくつかの航跡を見つけた。しかし彼女は何も言わなかった。


 殱-11B フランカーに乗った男子生徒――鈴原 陶太――は首を回し、ミサイルを視認する。電子妨害を止め、チャフを撒いて操縦桿を右へ倒す。急激な遠心力が掛かり、息が止まる。視界が一気に暗くなっていく。

 しかし、AAM-4B視程距離外空対空ミサイルのアクティブフェイズドアレイレーダーシーカーは逃さなかった。近接信管が作動、指向性散弾を殱-11B フランカーに浴びせた。


 真子は操縦桿を引き、機体を上昇させる。熱源索敵センサーに反応、レーダーを長距離索敵モードに入れ、敵機の位置を正確に把握する。数機の敵味方識別信号に反応が無い目標を捕捉、スキャン中追跡モードに切り替えてAAM-4B視程距離外空対空ミサイルを連続発射した。

 セクメト飛行隊の生存機も次々と視程距離外空対空ミサイルを発射していった。




 同じ頃、敷島学園 本校から迎撃機が離陸していく。ミハイロフグラズノフエアプレーン МиГ-31М ゴンチャヤ、アベレージダイナミクス F-106A デルタダート、スマローコフエアクラフト Су-15ТМ ボリシャヤブティールカ、ウェスティンハワード F-14B トムキャット、コーチャンマリエッタ F-22A ラプターといった大量の戦闘機が飛び上がっていった。

〔こちら、敷島学園 本校教務会。第11分校 戦術航空科 2年666組、コールサイン・セクメトが反乱を起こし、本校を爆撃しようとしている模様。本校及び近隣の分校の迎撃機、並びに防空砲兵科の学級はこれを迎撃されたし〕




 爆弾を抱えたセクメト飛行隊の爆撃隊が低空で編隊を組んで飛ぶ。

 白地に紅葉のデカールを施した、敷島連邦空軍の旧式戦闘爆撃機・開成重工 F-4EZ改 ファントムⅡの前席に座ったおかっぱ頭の女子生徒がコクピット右側にある電子戦スコープを見た。その上方に[14]という数字、その上菱形に囲われている。その他にもいくつかの数字や文字が並んでいた。

「美香、お客はんが来られたな」

 それに、後席のウェポンオペレーターである、明るめの茶髪の女子生徒が応えた。

「分かってる。セクメト38より全攻撃機、12時方向からお客さんやで。F-14にMiG-31、Su-15、F-22もおるなぁ。分が悪ない?」

「分悪おして結構。その方が燃えるやん?」

「……これやさかい山城の女は好かんのや」

「せやったらのんびり空中散歩しても構わへんよ?」

「私がもっと好かん事知ってるかい? 途中で投げ出す事や」

「それやったら、最初からひよこみたいに言わへんでもらえる?」

「……つまり、ピーチクパーチク言うなって事ね、分かったで」

 その時、F-4EZ ファントムⅡのコクピットに甲高い音が鳴った。

「ほら、来たで!」

 攻撃隊の戦闘機達は増槽を投下、チャフを撒いて散開する。




 一方、紫色のF-14D スーパートムキャットはAIM-54C+ フェニックス視程距離外空対空ミサイルを6発同時発射、それにМиГ-31М ゴンチャヤもР-37М アロー視程距離外空対空ミサイルを発射して続く。




 次々とAIM-54C+ フェニックス視程距離外空対空ミサイルがセクメト爆撃隊に飛来、先頭を飛んでいたF-15H スラムイーグルやF/A-18F スーパーホーネットに命中し、機体が爆散、パラシュートが宙に浮かぶ。

 そんな中、F-4EZ改 ファントムⅡはアフターバーナー全開で飛び抜ける。МиГ-31БМ ゴンチャヤが横に並び、F-4EZ改 ファントムⅡを追い越した。

 しかし直後、МиГ-31БМ ゴンチャヤが爆散した。見れば、銀色のスベンスカエアプレーン J-35J ドラケンが上方で旋回していた。

「ここはうちらがやる!」

〔じゃあ先に行かせてもらうぜ友達!〕

「何が友達やで」

 オレンジ色のF-5S タイガーⅡがアフターバーナー全開で駆け抜け、F-4EZ改 ファントムⅡは上昇して旋回、J-35J ドラケンとドッグファイトに突入する。

 F-4EZ改 ファントムⅡは右急旋回、J-35J ドラケンはインメルマンターンで上昇旋回する。F-4EZ改 ファントムⅡのパイロット――西川 辰巳――とレーダーオペレーター――水沢 美香――は首を回し、銀色の機体を視認、辰巳は左ラダーペダルを踏み込んで上昇させる。J-35J ドラケンはシザース機動、F-4EZ改 ファントムⅡもそれに続く。

 しかし、そこでF-4EZ改 ファントムⅡの後方警戒レーダーに反応が出た。

「美香!」

「分かってる! セブンオクロックにハリアー! あのカラーリングは味方ちゃう! 右にブレイク!」

 F-4EZ改 ファントムⅡの後ろに、黄色と緑色のストライプ柄のイングランドエアロスペースシステムズ/パシフィックエアロプレーンプロダクツ AV-8B+ ハリアーⅡが食らいついた。辰巳は操縦桿を右へ倒し、機体を右ロール、スロットルレバーを[MAX]まで押し込み操縦桿を引いて上昇旋回させる。しかしAV-8B+ ハリアーⅡも続き、胴体下部の25mm GAU-12 イコライザー五砲身機関砲を発砲した。

 放たれた25×137mm C142榴弾の連なりは、F-4EZ改 ファントムⅡの左主翼を抉った。垂直尾翼の後方警戒レーダーや受動警戒アンテナが破壊され、左主翼端が脱落する。

「ここまでか……」

「もう持たへん、イジェクトやで!」

 2人は頭の上のカーテンハンドルを引き、防護カーテンで顔を覆う。直後、シートベルトが限界まで巻かれ、キャノピーが吹き飛んだ。美香の座席に仕込まれたロケットブースターに点火、上方へ射出される。そこから間を置いて辰巳の座席も射出された。




 真っ青なF-15MZ イーグルが、緑地迷彩が施されたJAS-39C グリペンを猛追する。JAS-39C グリペンは急激なピッチアップ、ハイループ機動へ。真子も操縦桿を引き、続く。

 右旋回を始めたJAS-39C グリペンに続いて右旋回、バイザーのシーカー捕捉円内にJAS-39C グリペンを捕捉、「ジー」というミサイルシーカーが熱源を捉えた事を示す音が耳に入る。そして真子は、操縦桿の兵器投下スイッチを押した。

「フォックスツー」

 F-15MZ イーグルの左主翼下のランチャーレールからAAM-5短距離空対空ミサイルが発射された。

 JAS-39C グリペンはフレアを撒いて上昇、更にそこからローリングして急激な降下に入った。それによって、AAM-5短距離空対空ミサイルのシーカーは目標を見失い、唯のロケット弾となった。

 F-15MZ イーグルもJAS-39C グリペンを追って降下、スロットルレバーの兵装選択スイッチを[SRM]から[GUN]に切り替える。ヘッドアップディスプレイにガンレクティカルが表れ、目標との距離を示すレンジスケールが射程距離内と示した。

「フォックススリー」

 ガントリガーを引き、20mm ZM61A1バルカン六砲身機関砲が唸る。[940]という残弾表示が800に達した所でガントリガーから人差し指を離した。見れば、ヘッドアップディスプレイの向こうでJAS-39C グリペンから黒煙が上がっていた。

 ふと、コクピット計器盤の左側にある多機能ディスプレイに目をやる。そこには兵装管理画面が表示されており、残りの弾数と燃料が映し出されていた。AAM-5短距離空対空ミサイル、AAM-4B視程距離外空対空ミサイル共に残数0、20mm弾は残り793発、燃料はまだ充分ある。

 その時、後方警戒レーダーに反応、更に「レーダー照射を受けている」という意味の甲高い警告音が鳴り響いた。すぐに操縦桿を右へ倒し、首を回して確認する。

 夕陽の眩しい光に目を細める。すると、光に照らされて浮き上がる細い機影――F-20A タイガーシャーク――が見えた。そして、右主翼端のランチャーレールからAIM-9L サイドワインダー短距離空対空ミサイルが発射された。

 即座に急激なピッチアップ、同時にフレアを放出して上昇する。

 しかし、フレアの残弾が尽きた。そして、AIM-9L サイドワインダー短距離空対空ミサイルは無慈悲に近付いてくる。

 真子は諦め、緊急脱出ハンドルを引いた。

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