AGL.02

「こいつらが不運な連中か」

 4月4日、国立敷島学園 第11分校 北校舎 戦術航空科 2年 666組。

 その広い段上教室に、1人の女教師が入ってきた。長くてウェーブがかった茶髪、すらっと長いおみ足、パンツスーツ。

 彼女の姿を見て、生徒達は自分の席に着いた。

「はいはいチューモクー。ここの担任になった、多円 依子、愛機はF-1Bだ。始業式で知った奴もいるだろう? で、ここは第11分校、エリア11。敷島学園の北の果て、更にここはその北ときた。さながら懲罰部隊じゃないか」

「じゃあ先生の機体には三本線が描いてあるんですか?」

 1人の男子生徒が口を開いた。

「まさか。だけど、見事にばらばらな連中が集められたなぁおい。F-1CCVにF-15、F-4、F-14、F-18、F-22、F-35、MiG-29、MiG-31、Su-27、ねぇ? あ? スーパーツカノ? A-4とかクフィルとか、センス渋すぎだろ、嫌いじゃないけど」

 そう名簿を見ながら、女教師――多円 依子――が愚痴る。そして、名簿を閉じた。

「さて、初日いきなりだが、爆撃任務だ」

『は?』

 生徒60人が目を丸くした。

「だいたいさぁ、1人で60人見ろって無茶だろー。普通30から40が妥当ってもんでしょ。それなのに本校の連中はよー……ということで、腹いせに本校を吹っ飛ばす」

「……正気どすか?」

 着物を着た、黒髪おかっぱの女子生徒が口を開く。

「勿論」

「なら私、降ります」

 茶髪セミロングの女子生徒が手を挙げた。すると、何人かがそれに続いた。しかし、多円 依子はニヤリと笑った。

「却下だ。これは全員強制参加である。あぁー、あとそれと、編成表。こっちで勝手に組んでおいたからこれに従うように。なぁに、誰も友軍誤射なんて想定していない、余裕さ。地対空ミサイルも迎撃機もいない、その上ポイントも割り増し。これ聞いて断る奴は?」

 教室に沈黙が流れる。

「はいじゃあ早速。既に全機Mk82とAAM(空対空ミサイル)を取り付けさせているから。それと、飛行隊長は藤峰、頼んだよ」

「え、俺っすか?」

 紫髪おかっぱの男子生徒が目を丸くした。

「1年でも飛行隊長任されたんだろ? 西川と悩んだけどな。ま、上手く纏めておくれ。さらば」

 そう言い残し、多円教官は教室を出ていった。




 編成表が60人全員に渡され、それぞれの分隊ごとに集まった。

 茶髪セミロングの女子生徒を初め、5人が集まった。

「おひさしー。相変わらずの無表情っぷり」

「そうね、治す気も無いけど」

 黒髪ロングの女子生徒が、茶髪セミロングを弄る。そして、黒髪ロングは口を開いた。

「紫門 美希(しもん みき)、愛機はF-15H スラムイーグルよ。よろしく」

「タム チェファ、F-15HのWSO(兵装士官、ウェポンオペレーター)をしているわ。つまりこいつの相棒」

 黒髪ポニーテールの女子生徒が自己紹介した。

「あたしのパートナーよ、昼夜問わず」

「誤解を招く言い方しないで頂戴」

「えー、何でよー。事実でしょー? 事実婚的関係でしょー?」

 チェファが美希を殴る。

 次に、オレンジ髪ショートの女子生徒が手を挙げた。

「私いい? ジーナ=ローリングズ、Su-30MKBのパイロットだよ。こっちはディミトリー=トルストイ、RIO(電探迎撃士官、レーダーオペレーター)なの」

「よろしく」

 その隣のベージュ髪の男子生徒が頭を下げた。

「ニーカ=レービナ、Su-27SM3に乗っていりますの。よろしくですわ」

 白髪ロングの女子生徒が明るく言う。そして、全員が茶髪セミロングを見た。

「風矢 真子(かざや まこ)、F-15MZ乗り。よろしく」




 国立敷島学園 第11分校 駐機場に、52機もの飛行機が並んでいた。片っ端から230kg Mk82航空爆弾や空対空ミサイルが搭載されている。

 真子のF-15MZ イーグルの主翼の増槽用ハードポイントに三連装ラックが装着され、そこに230kg Mk82航空爆弾が計12発、更にAAM-5短距離空対空ミサイルが4発、胴体下ハードポイントに4発のAAM-4B視程距離外空対空ミサイルと1本の増槽が装着された。

 他の飛行機も軒並み爆弾とミサイル、増槽が装着されていき、燃料が入れられていく。




 夕焼けが第11分校を照らす中、真子達は機体に乗り込む。機体のエンジンに火を入れ、ジェットの音が響き渡る。誘導員が指示を出し、車輪止めが外れる。

 たくさんのジェット機が自走を始め、滑走路へ向かう。

〔セクメトファーストスクワッド、クリアードフォーテイクオフ〕

 2機のF-22A ラプター、殲-11B フランカー、Су-33 マスコイクランが加速し始める。

 そして、第2分隊のF-4EZ改 ファントムⅡ、F-14D スーパートムキャット、トーネードADV EF.3、МиГ-31БМ ゴンチャヤが滑走路へ動き出す。


 第2分隊が離陸していった後で、真子達第3分隊の飛行機が滑走路に侵入する。

 開成重工 F-15MZ イーグル、スマローコフエアクラフト Су-27СМ3 ジュラーヴリク、HAI(ハングクエアクラフトインダストリー) F-15H スラムイーグル、BAL(バラティアエアロノーティクスリミテッド) Su-30MKB ストライクフランカーが横に並び、フットブレーキを全開、同時にエンジン出力を上げた。

〔セクメトサードスクワッド、クリアードフォーテイクオフ〕

 4機のフットブレーキが解除され、走り出す。エンジン出力をミリタリーへ、フラップフルダウン。アフターバーナーを焚き、機首上げ。機体が浮き上がった所で降着脚を上げる。ピッチ+30°で上昇、上空の編隊と合流した。




〔あぁ、そうだ〕

 ある程度飛んだ所で、多円教官が無線で呼びかけた。

〔何です?〕

〔IFFトランスポンダを交換しておいた。ドッグファイトになっても敵味方の識別はできるよ〕

〔ちょい待っとおくれやす。それって、遠慮無う攻撃されるっちゅう事どすか?〕

〔そーゆー事だね。後は頑張れよー、オーバーアンドアウト〕

 無線がぶち切られる。

 その後、3分間生徒達の罵詈雑言が無線で飛び交った。




〔こうなっちゃ仕方ない、ファーストスクワッドは上昇して敵迎撃機を撃ち落とす。セクメト42より全機、ついてくる奴は爆弾を切り捨てろ。残りは低空飛行を続け、本校を爆撃だ〕

 全体に炎のデカールを施したF-22A ラプターが主翼下の12発の230kg Mk82航空爆弾と胴体兵器倉(ウェポンベイ)内部の2発の450kg GBU-32衛星誘導爆弾を切り捨てる。それに続き、赤と黒のモザイク模様のF-22A ラプター、濃紺色の殱-11B フランカー、全体は黄色でエアインテーク周りだけ真っ赤なСу-33 マスコイクラン、灰色に黒のストライプを各所に施したF-14D スーパートムキャット、茶色の荒地迷彩のトーネードADV EF.3、真っ青なF-15MZ イーグル、赤橙色のСу-27СМ3 ジュラーヴリク、水色のJA-37D ビゲン、桜色のМиГ-23-98 リャグーシュカパイマーナも爆弾を捨て、積載能力の問題から空対空ミサイルのみ搭載した深紅色のМиГ-19СФ フィエルマも上昇する。

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