第149話 MINIバカとの遭遇と莉緒へのバトンタッチ

そしていよいよ、私の順番でのラスト1周となった。淡々とペースを保ち、最終ストレートに差し掛かったその時だった。フィットの横に何やら幅寄せをしてきたマシンがいた。


・・・・横から何やらヘラヘラした視線を感じた。そう、今回MINI-JCWのレーシングカーで参加していた、私の大学時代の友人、石後ミニバカアレサであった。今日のレースでは現在、ぶっちぎりの総合トップでもあった。


あーのやろ・・・・そういえば、アレサと走る順番被ってたんだな。なんか挨拶してやるか。


そう思った私は、窓越しに手でジェスチャーをしてみた。


(こんちは~お疲れ様っす)


(こんちは。凛子、調子はどうよ)


(まあまあよ。あんたは?)


(絶好調!パワーもめーっちゃあるしね!)


(ふーん・・・・で、前向かないと事故るんじゃない)


あ、そうだったわ、というような顔をしたアレサは、もう一度敬礼のポーズをして前に向き直ると、MINIのアクセルを全開にして、ターボ車らしい野太い排気音と共に、あっという間に視界から消えていった。遊んでないでしっかり走れや。


アレサとのランデブーを終えると、私はピットロードへと一直線へ駆け抜けていった。


自分らしい走りとマネジメントができて、中々満足だぜ・・・へへへ


車内で1人ぼやきながら、ピットの自走可能な所までススーっと進んでいくと、チームメンバーが一気に駆け寄ってきた。 それに合わせて窓を開けると、爽やかな笑顔をしたユリが窓に手を伸ばして、私の頭を軽く揺すってきた。


「やっっっーーーたじゃない凛子!!! 2位まで上がってくるんだから。流石、うちのエースドライバーね!」


「何言ってんのユリ。監督の名采配とよくできた車のお陰でしょ。気持ちよく走れて楽しかったわ。ありがと」


「ま、それならよかったわ。次は莉緒の番ね。よろしくね、莉緒」


「う、うん。任せといて! どうにか最後のユリまでクルマを無事に運んでみせるよ!」


莉緒もそれなりに緊張はしていたようだったが、ヘルメットから見える目は微笑んでいたようだった。


ピットの手押しゾーンでチームメンバーみんなが給油エリアまでフィットをグイグイと押していき、辿り着いたところで私はフィットから降り、莉緒が代わって乗り込んだ。


乗り込んでからシートベルトを締める手伝いをし、莉緒に少しアドバイスをした。


「莉緒、大丈夫?」


「ええ、まあ大丈夫・・・・練習走行ではそれなりに走れたし・・・・少し緊張はしているけれど」


「莉緒は、この間のオートテストでもあんなにきれいに速く車を走らせられてたんだから大丈夫よ! ケツはユリが持ってくれるんだし、莉緒はとにかく楽しんで走ってきなよ!」


「そうよね、わかった。初めてのレースだし、自然体で、フィットちゃんと楽しんでこようかな。ありがとうね」


莉緒は少し落ち着いた様子で、目を微笑ませてみせた。


待ち時間の間にガソリンはなみなみと補給ができ、莉緒もかなり心が落ち着いていたようだった。規定時間もあっという間に終わりに近くなった。


再スタートの時間は刻一刻と迫ってきた。


5・・・・4・・・・3・・・・2・・・・1・・・・規定時間を超えた。


「よし、再スタートよ!莉緒、よろしくね!」


監督のユリの掛け声に応じるように、車内で莉緒はコクンと頷いた。


スタッフ皆でフィットに駆け寄ると、せーの、と掛け声を上げ、フィットを自走可能エリアまで押していった。力持ちのスタッフのお陰で、その感触は思ったよりも軽かった。


自走可能エリアのラインが見えると、私たちは手を放し、フィットの心臓に火が入る瞬間を見届けた。


ヴオオオオオーーーんっと4気筒エンジンらしい軽快な排気音が鳴り響く。


「莉緒、気をつけていってらっしゃいね!」


私が声を少し大きくして投げかけると、フィットの窓から手が振られた。


莉緒が乗り込んだフィットは、そのままコースへと帰っていった。いよいよ、後半戦の始まりだ。


続く。

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