第146話 凛子、出陣。


そして、いよいよピットインする週になった。


私もヘルメットを被り、グローブを付けて準備は万端だった。


「じゃ、そろそろ行くよ!」


ユリの号令と共に私はピットエリアまで一気に駆け出して行った。 走っていく中で、さっきまでピークに達していた緊張が逆に、チームの為に最高の走りをしてくるぞ・・・・!という意思に変わっていった。 


いよいよフィットはピットエリアへと進んでくる。 サイン係が「こっちこっち」をして誘導すると、マシンは目の前で止まった。


急いでドアを開けると、さっきまで力走を続けていたセリカが耳打ちして


「クルマは全然調子いいですよ。 思いっきり行ってきちゃってください!」


と言って肩を叩いてきた。 それに応えるように、私も敬礼のポーズを返す。


もちろん、思いっきりやってくるさ。


フィットに乗り込むと、4点のシートベルトを締めて、はね上げてあるステアリングをはめ込み、いつでもスタートできる状態にまで持ち込んだ。


よーし、よろしく頼むよ、フィット君。 ステアリングをトントン叩いて「念」を込める。


さてここからいよいよピットアウト・・・・にはまだならず、もう一つの関門があった。 


そう、燃料補給である。 このJoy耐では給油エリアまでは車を人の手で押して移動させ、最大給油量と最低滞在時間が決まっており、とっとと給油してとっととずらかる・・・・と言った事ができないという面白いポイントがあるのだ。


その為、私が乗り込んでセットし、クルマのダメージがない事を確認してからはチームの皆がフィットを手押しして給油エリアまで運んでいった。



「よっし、行くよ~せーの!」


ユリの掛け声と共にフィットは手押しで動き出した。 ユリと莉緒と、後は屈強なメカさんたちの力でフィットは給油エリアまで動き出し、そして辿り着いた。


フィットは燃費がいい事もあって、燃料は極端に減っておらず、決められた給油量でも十分な補給をする事が出来た。 これだけ燃費がいいなら確かに上位争いもできるんだなあ・・・と車内で謎の納得をしていた。


最低滞在時間も並々と残っていたので、ピットの皆と窓越しに少し雑談をした後、私はフィットを勢いよく発進させた。


「いよーっし一仕事してくるぞ!」


ピットロードからフィットをリリースした私は、フィットの様子を確かめながらコースを回り始めた。

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