第142話 順当な出足

綺麗なスタートを決めたユリの駆るフィットは、1コーナーへと突っ込んでいった。


他のクルマが沢山いてゴチャついている中でも、接触をせずにまとめているのは、流石首都高ですり抜けをしまくっている首都高ランナーユリの片鱗を感じた(?) 流石だな、ユリ。


同じフィットのクラスの中では比較的上の順位でスタートしたこともあって、クラス内順位は変わらなかったものの、他のクラスのクルマたちが激しく競り合ってアクシデントが発生したりしたので、総合順位は3つ上がって22位まで来た。


私はサインボード係を莉緒、セリカとやりながら、その戦況をモニターで見ていた。


「おっし、莉緒。 ボードを4周目にしておいて。 あと、前まで7秒差ってしてね」


「オッケー、凛子! 今やるね・・・・はい、どうぞ!!」


莉緒は手際よくボードの数字を差し替えて私に渡してくれた。


ぼちぼちユリがホームストレートまで戻ってくる。 金網の切れた所からサインボードをササっと出しておくと、私たちのチームのフィットの姿が見えてきた。


ニッと笑って、サインボードをコース側にササっと軽く振って見せると、ユリはこちらを確認しがてら、手を一瞬上げて合図してくれた。 どうやら順調に走れているようだ。


とりあえず、この最初のスティントはユリ曰く手堅く行くそうだから、予定していた周のピットインまで無事に行くことを祈るばかりだ。



その頃のユリはというと・・・・


「ふう・・・・何とか今のところ上手くいってるわねえ・・・・  運よく総合でもシングルでフィニッシュ出来たらな~なんて思うけど、意外といける・・・・かも?」


と一人でボソボソぼやきながら、コースを疾走していた。




その後も、つぶさにタイヤマネジメントをこなして、燃料もうまくセーブしながら周回を続けた。 


燃費のいいフィットは、想像以上に燃料が減らず、これなら予定通り次のピットインの時は燃料を給油せずに出れそうだとも、ユリは確信していた。


そして、予定通りピットインする予定であった週に差し掛かったので、ピットボード係を務めている私たちもボードに「P」の文字を出した。


「さて、じゃあセリカちゃんの出番だね・・・・頑張っておいで」


「・・・・はい! 頑張ります。 ユリにいいとこ見せられるといいな」


「大丈夫、大丈夫。 セリカちゃんは練習でも速かったんだから。 落ち着いていってきなさいね」


「はい、頑張ります!」


人生の先輩(?)である私と莉緒の励ましで、少し緊張が和らいだ様だった。 そして、そのままピットの方へと駆けだしていった。


最初のピットイン、無事にいくといいのだけれど・・・・


続く。

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