第134話 予選前のほんの一瞬
そして、あっという間に予選日がやってきた。 早朝のツインリンクもてぎは、少し肌寒い感じがした。 冷たい空気をゆっくりと吸い込んで、こうしてサーキットに佇んでいると、身が自然と引き締まるような気分だった。
今日も以前と同じように、ユリのシビックに同乗してやってきたのであったが、ユリは前日かなり色々準備をしていて寝不足だったらしく、今回は私がもてぎまでの道中運転してきていたのだった。 ユリ・・・・本当にお疲れ様です・・・・
とりあえず各自でレーシングスーツに着替えて朝のミーティングになった。 流石にこの時にはユリはかなりシャッキリしていて、皆に確認事項や流れを説明、確認した。
Joy耐では、予選をAドライバー、Bドライバーと二人のドライバーでタイムアタックを行って、そのタイムを合算して、順位を決める形となっている。 そのため今回は、4人の中でも特に経験の深い私たち二人で担当することとなったのだ。
こういう時のユリは本当にオーラがあって、眼鏡をかけて、髪をそのまま下した、いつもと違う恰好というのもあり、ものすごくリーダー感があった。
ミーティングが終わって、ピット裏にある椅子に腰をかけ、コース図を見ながらイメージトレーニングをしていると
「はい、凛子。 今コーヒー淹れてきたけど飲む?」
そう言いながら、紙カップをこちらに差し出してきた。
「あ、ありがとう。ユリ! それじゃ、いただきます」
カップに注がれたコーヒーをゆっくりと口の中に含む。 スッと口と鼻に心地いい香りと、すっきりとした苦みが広がる。 凄く本格的なコーヒーだった。
「ユリ、これ凄く美味しいね!」
「フフっ、でしょ。 最近うちの店舗で導入したコーヒーメーカー持ち込んだの! 豆もアタシが色々吟味したスペシャルなの! こだわりの一杯よ!」
「流石ユリだなあ・・・・そこまで拘るなんて。 こんなに美味しいコーヒー飲んだら、この後のタイムアタックも頑張れそうだよ」
「そう、それならよかった。 今回アタシがコーヒーメーカーのも、凛子がよく勝負事前にコーヒー飲んでたから、こういうの持ち込んだらいいかな~、と思ってさ。 ま、アタシもコーヒーよく飲むし、ケータリングに使えそうってのもあるんだけれど」
ユリは得意げな顔をしてそう言った。 やたら人の事をよく見てるんだなあ・・・・と思いつつも、そんなユリの優しさと気遣いが嬉しく感じた。
「さ、もうすぐで練習走行して予選だし、お互い頑張ってこ。 よろしく、凛子」
「うん、よろしく」
そう言って二人で拳を突き合わせてから、残ったコーヒーを飲み干した。
そろそろマシンに乗り込む準備をしなくては
続く。
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