第133話 ユリの策略

「ねえ、ユリ。 改めて聞くのもあれなんだけれど・・・・今回、レースに出ようと思った動機って何だったの? いや、まあ誘われたのも、いつものみんなと走るのも嬉しいんだけども・・・・」


すると、ユリはシレっとした顔でこう言った。


「そんなの簡単よ、みんなと一緒にレースを楽しんでみたかったから・・・・それだけ」


ほんとに単純だったなあ・・・・と逆にちょっとびっくりしたような顔をしつつも続く話を聞いていると


「まあそりゃ表向きの理由は、会社の宣伝とか、今の横浜の店舗のイメージ戦略とか、色々言っちゃいるけどね・・・・ でも、本来の目的はこっち。 アタシ、みんなのお陰でこんなに成長したり、楽しめてるのに、みんなにその感謝を返せてるのかなってふと思ってさ。 アタシ、昔から変わってる性格だから、周りに友達なんて殆どいなくて。上京してからはただただガムシャラに生きてきてたけど、まだ満たされなくて。 そんな中、私がやっと見つけた心を許せる友達が、凛子やリドっちゃん、莉緒だったからさ。 これがお返しになってるかどうかはわからないけど、みんなで楽しめることがしたかったの」


「そんな、返せてないだなんて・・・・私はユリからいつも刺激をもらってるよ。 色んな話を持ち掛けてくれたり、誘ってくれたりさ。 いつもありがたく思ってるよ」


私が言った言葉にユリはちょっと照れたように、ま、まあそれは・・・・嬉しいけど・・・・と顔を赤らめた。 かわいいな、こいつ。


「と、とにかく、私が今回レースにみんなで出ようと思った理由はそれ! 今回は優勝狙ってくからよろしく頼むわよ!」


「うん、こちらこそ、よ!」


そう言って、二人でハンドシェイクを交わした。


ユリの手は小さいけれど、触るだけでも強い生きる熱があった。


夜の高速道路を流しながら、私たち二人はもうすぐに迫ったレースについて、語り倒しながら帰路についた。


続く。

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