第123話 バイト帰り
あっという間に赤城の頂上へと登りついた二台は、そのまま連なるようにビジターセンター横の駐車場へと入っていった。
並んで駐車したのち、ミラージュから降りて上原先輩が下りてくるのを待つ。
ベルトを外し、ゆっくりとドアを開けて降りてきた上原先輩は、まるで現役時代だったころのように明るかった。 眩いばかりの笑顔と共に、子供のように目をキラキラさせて、こういった。
「やっば、凛子。めっちゃ楽しいわ・・・・ 思い出したよ!」
その顔が見たかったんだ。
「それならよかったです! 私の狙い通りです」
シンプルに私は告げた。
「私も昔、先輩がS2000であれだけ楽しそうに駆け抜けてきたのをずっと見てきてましたし、こんなさみしい終わり方をするのはちょっともったいないな・・・・と思ったので、いい刺激になったなら何よりです!」
「ああ、本当にいい刺激になったよ。 ・・・・なんというか、クルマを走らせるのって、こんなに楽しいことだったんだなって。 ただああやって流しているだけでも、ステアリングの感覚やら、色々なものを感じ取って走るのは、こんなに楽しいことだったんだなあ・・・・ってようやく思い出せたよ。 凛子、今日はありがとう!」
「いえいえ、とんでもないです! 少しでも先輩がその感覚を思い出してくれたならよかったです! また、なにか機会があったら一緒に走りましょう!」
「おう! また何かあったら連絡するわ・・・・ それじゃ!!」
そういって、上原先輩は再びS2000に乗り込み、甲高いエキゾーストノートを響かせながら、北面方面へと走っていった。
「さて、私も帰路につきますかね」
ミラージュのうっすらと温かいボンネットをさすって、私はそう呟いた。
しばらくのんびりした後、私も志熊自動車の方へと向かった。
工場につくと、いつも通り社長がニヤニヤした顔を浮かべて、待ち構えていた。
「どうよ、リっちゃん。かなり程度よかったでしょ!」
「はい!とても。 さっき赤城走ってきたんですけど、本当エンジンもグングン回りますし、足も結構しっかりしててよかったです! ・・・・思わず、また欲しくなっちゃいました(笑)」
「はははは。 なら、買ってってもいいんだよ!!・・・・まあ、それは冗談として、今日はお手伝いありがとうね! はいこれ、バイト代!」
そういって、社長は金一封と缶コーヒーを手渡してくれた。
「ま、また何かあったら声かけさせてもらうよ! リっちゃんもクルマに何かあったら言ってね!」
「はい、もちろんです! ではまた!」
そうして、私は相棒パジェロエボと共に家路についた。
後日、上原先輩から写真付きでメッセが届き、「息子ちゃんをS2000助手席に乗せてドライブしてます!!」ときた。 なんだか、見ていて微笑ましい気分になった。
先輩とS2000がこれからも長く続きますように・・・・そんなことをついつい祈ってしまっていた。
続く。
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