第122話 やっと気づけた。

下って行ったところにある駐車場に入り、今度は上っていこうという時に、私は少し間を開けて、上原先輩を横に入れさせ、ジェスチャーで「先に行ってください」と合図をした。


少し呆気にとられたような表情をした先輩であったが、すぐに何かを理解したのか、ニッと笑って、サムズアップをしてきた。 


フフフ・・・・これで先輩も忘れていた何かに気が付いたのかな・・・・そんなことを考えながら、2走目は始まった。


S2000とミラージュは、小気味よいエンジンサウンドを響かせて、曲がりくねった道をグイグイと登っていった。 先ほどまで、ぎこちなかった上原先輩のS2000は明らかに下りの時よりも動きのキレが増し、見違えるように綺麗に走っているように見えた。


現役時代のような、スムーズでシュアな走りが蘇っていたのだ。 


私の走りを後ろから見て、何かを感じ取ってほしい・・・・という狙いは、どうやら成功したようだった。 ただアクセルを強く踏んで、ハンドルを抉って曲がるのではなく、色々なものを感じ取りながら、アクセルをジッと調整しながら踏み込み、ハンドルを切り込む・・・・様々な身体のセンサーを駆使しながら、運転をする楽しさ。 それを私は伝えたかったのだった。


それに気づいた上原先輩は、心からの満面の笑みを浮かべてS2000を操っていた。 まるで、初めて自転車を買い与えられた子のように。


カーブ前でスムーズに減速し、コーナーにアプローチし、綺麗に線を描きながら立ち上がっていく・・・・! それほど飛ばさず、気持ちよく流れに乗って走っているだけだったが、それでも楽しさは段違いに上がっていた。


「そうか・・・・!あいつはこれに気づいて欲しかったのか!」


車内でそっと、上原先輩はつぶやいていた。


そのまま、2台は綺麗にランデブーをして、赤城山を登って行った。


まるで、数年前の走り屋時代を彷彿とさせるように。

続く。

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