第118話 楽しむって?

「え・・・? 走るのがなんだか楽しめてない・・・・?」


「ああ・・・・まあ、そうなんだ。なんだか、たまにこうして走りに来ても、何も感じなくなってきたんだ。 あの時と同じくらいの走り方はできてると思うんだがね」


どうやら、上原先輩は以前のようにクルマを乗ることを楽しめていない事が悩みだったようだ。 子供がいる今はもう、昔のように夜な夜な峠を攻めるとまではいかないものの、たまにこうして仕事の休憩時間に走りに来ているようなのだが、それとなく気持ちのいいペースを保てるものの、その走る事そのものを楽しめていないようなのだ。


「まあでも、先輩はもう所帯持ちですし、色々心境の変化とか、そんなようなもんじゃないんですかね」


「ん~まあ、そうと言えばそうなのかもしれないが。 今は家庭用に別のクルマも持っているし、コイツを持ち続ける意味もある意味ないと言えば、ないんだが・・・・」


「・・・・でも、それで割り切るには、少し違うな・・・・と感じているわけですね」


まあ・・・・そうだな。 そう言って、先輩はS2000をもの悲し気な表情で見つめた。


「・・・・別に、深い事考える必要なんてないんですよ。 もっと自然体で、ただクルマの声に耳を傾けて、思うままに走ればいいと思うんです。 たとえ速いペースが保てなくたって、普通に走る時にだって、そう考えて駆け抜けていればいいと思うんです」


「クルマの声に・・・・耳を傾ける?」


「ええ、そうです。 もっと頭を空っぽにして、ゆったりと楽しめばいいと思うんです。 

先輩、この後時間あるようでしたら、一緒にまた走ってみませんか? もちろん、昼間ですし、飛ばしはしませんけど」


「んん・・・・まあ・・・・かまわんが。 でもなんだ、そんなに突然」


「別に深い意味はないですよ。 とにかくまあ、楽しく1セット走ってみましょう!」


こうして、私と先輩は約5~6年ぶりに、つるんで走ることになったのだった。

続く。

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