第117話 思い出話。

「おーい!凛子ちゃん。 久しぶり!  いやあ、5~6年ぶりくらいかね?」


「あ、もしかして上原さんですか!? お久しぶりです! まだ赤城走られてたんですね~ 紅いS2000も元気そうで何よりです」


そう、私は走り屋時代お世話になった先輩、上原圭市先輩に再会したのだ。


上原先輩は、この赤城山を走る走り屋のリーダー的存在で、この赤城山では一番速いと言われていた人物であった。 彼とは、赤城山を走り始めたばかりの頃から良き先輩として、ドラテクや、レース中の駆け引き、そしてたまにコーヒーを奢ってもらうような仲であった。ちなみに、志熊自動車を紹介してくれたのも上原先輩である。 


・・・・そして、私は、20歳になった年の秋に、彼を赤城の下りで打ち負かしたのだった。


そして、そんな彼の相棒が、この赤い前期型S2000だった。 見た目こそ、フロントにアミューズのリップスポイラーと、ホイールを無限のGPに、そしてリアにGTウイングを付けている以外はノーマル然とした見た目になっているが、サスペンションから、ブレーキ、そしてエンジン周りにまで大幅に手を加えた、完全武装の一台なのだ。


新車で買ってずっと乗り続けていると聞いているから、多分20年近くも乗り続けているのだろうに、赤い塗装は全く褪せておらず、手入れが行き届いている事は明白であった。


そんな彼と、彼の相棒S2000を眺めながら、話は弾んだ。


「いやあ、実は赤城に来たのほんと久しぶりでね・・・・多分半年ぶり位になるんじゃないかなって感じなのよ。この頃、子育てと仕事でいっぱいいっぱいでさ・・・・」



「なるほどです。 そう言えば、上原先輩、家業の造酒業を引き継いだんでしたっけ。大変そうですよね」


「ああ・・・・まあな。 最初は正直潰れそうになってて本当大変だったけど、今はなんとか経営も順調でね。 子供も最近小学校上がったけど、何事もなく元気に育ってくれて何とかなってるよ。 ・・・・で、まあやっとエスニにかまう暇ができたってわけさ」


そう言いながら、先輩はS2000を軽く撫でた。


「そうなんですねえ・・・・ いやあ、未だにピカピカで凄いですね!先輩のエスニは」


「そんなことないよ! よく見りゃ飛び石やらなんやらで傷もあるし。 ・・・・ところで、凛子ちゃんはまだミラージュ乗ってたんだ。 色は赤に塗り替えたの?」


「いえいえ、実はあれは代車でして・・・・今、私はパジェロエボに乗ってるんです!! 白い5速MTの」


「おお!?!?マジで!! やったじゃん! 前からずっと乗りたいって言ってたもんね。 それはよかった。 ・・・・しかし、このミラージュを代車で出すなんて、あそこのオヤジは確信犯だなあ・・・・」


そう言って、ケラケラ彼は笑っていた。


暫く話が弾んだのち、上原先輩はボソッとこんな事を呟いた。


「・・・・なあ、凛子ちゃん。実は今ちょっと悩みがあってさ・・・・」


続く。

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