第113話 研ぎ澄ませ。

「それでは、カウント始めます!!」


スターターの大きな掛け声を聞いて、私は少し構えた。 二人とも振り切れた走りを見せていたから、私も負けないくらいいい走りを、それも楽しんでやってみせるぞ・・・!!と意気込んでいた。


不思議とエンジンも軽く回る気がするし、クルマも人間も乗れている気がする。


次も思いきり楽しむぞ!! と心の中で唱えながら、私はエンジンを吹かし、神経を研ぎ澄ませた。


5・・・・4・・・・3・・・・2・・・・1・・・・


「スタート!!!」


スターターの声と同時に旗が振りあがり、私はパジェロエボをクラッチミートを決め、アクセルを思いきり底まで踏みきり、思いきりダッシュを決めた。


2速、3速とギアを上げていき、コーナーに飛び込んでいく。 コースはもう大体覚えきってしまっていたから、一周目以上にペースを上げていた。 シートから、ステアリングから伝わってくる路面や、クルマの情報を上手く読み取りながら、アクセルワーク、ブレーキワーク、ステアリングワークをこなした。


増岡さんの豪快でアグレッシブな走り、涼の精密でクレバーな走り。 どちらも研究して、それぞれの良いところを取り入れながらも、私にしかできない、私とパジェロエボでしかできない走りを・・・・!!


私は、無我夢中でコースを駆け抜ける。 一つ一つのコーナー群を線と線でつなぐように、パジェロエボ綺麗に旋回させ、そして力強く立ち上がった。


「思いきり乗れてる・・・・イケる!!」


車内でそんな事をボヤキながら、最後のコーナー群を切り抜ける。


あと4つ、3つ、2つ、そして最終コーナー・・・・!


綺麗な四輪ドリフトを決めながら力強く立ち上がって、ゴールへと駆けこんだ・・・・!!



「・・・・っっ やり切った」


私は、思いきり全力を出し切って走れた、そんなことにまず満足した。


後はタイムがどうなのか・・・・ ちょっとは伸びてたらいいな。


そんな事を思いながら、静止する車内で放送が流れるのを待っていると、遂にタイムが読み上げられた。


「ただ今の篠塚さんのタイム・・・・1分35秒1!! 1分35秒1!!」


おお~!!と思わず車内で拍手をしてしまっていた。 増岡さんのタイムは流石に破れなかったものの、自己ベスト更新。クラス2位。 それも初めて走ったコースで。


やり切れた感が気持ちよかった。


その後、順位は確定し、PNクラスは増岡さんのV78パジェロ、私のパジェロエボ、涼のV87パジェロとなった。


全力を出し切って、心から気持ちのいい走りを満喫できたことに満足しながらも、いつかは増岡さんにも負けないくらい速く走れるようになるぞ・・・・! と密かな闘志を燃やしていた。 この日の帰り道は、疲れていたけれど、不思議と身体が軽く感じた。


続く。

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