第108話 砂の上を舞う紫の影
開会のあいさつがあった後、すぐに私たちは練習走行へと移った。
初めて走るコースという事もあって、私はまず綺麗に一周することを心がけて丁寧に走行を重ねた。 コース自体はそれほど広くなく、事前に聞いていた通りかなりテクニカルな印象を受けた。 テクニカルなコースが大好きな私は、コツさえ掴めれば、結構イケるんじゃないかという謎の手ごたえを得ていた。
相棒のパジェロエボは、今回特に何かを変えてきたというわけではなかったが、前に赤城で走った時のように、軽やかかつ、強かにコースを駆け抜けていけた。
暫く走り込んだ後、コースサイドに行き、他の選手の走りを観察していると丁度涼とマリが順番にスタートをするところであり、私は興味深くそれを眺めていた。
涼のパジェロがスタートする。 彼女自身もこのコースをしっかり知っているという事もあって、持ち前のクレバーさが活きた、極めてスムーズで無駄のない走りが印象的であった。
派手さはないが、しっかり車を前へ前へと進める涼の走りをしっかりと目に焼き付けていると、遂に女帝のパジェロは現れた。
スターターの合図と共に、獲物に飛び掛からんばかりの勢いで、紫のパジェロはロケットダッシュを決めた。 かなりの勢いでスタートをしたのでコース外の土手に突っ込むんじゃないかと不安になったが、そんなことは全くなく、綺麗にブレーキングをしてターンインし、ロングボディとは思えないほどの切れ味を持って一つ目のコーナーを抜けていった。
涼の派手なアクションはないが、綺麗に車を前に進ませる走り方とはまた違う、一つ一つのアクションは大きいけれど、しっかり最短ルートで車を走らせる、アグレッシブな走りが印象的であった。 V78型パジェロのグラマラスな車体を、自在に大きく振り回しながら、土煙を上げてコースを走る様はまさしくじゃじゃ馬な女帝を連想させるに足るものであった。
紫の影は、人々の目線を一気に奪いながら、圧倒的な走りを見せつけてコースをあっという間に駆け抜けた。
続く。
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