第109話 女帝の風格

結局、練習走行の段階では私のいるNクラスの平均タイムは1分42秒ほどで、私も練習走行を重ねて、最終的に出したベストタイムは大体それと同じくらいのモノであった。


ちなみに涼は1分37秒と二番手のタイムを叩き出し、それだけでも凄いのに、今日はそれ以上の化け物が今回の大会にはいたのだ。 そう、女帝のV78Wパジェロだ。


なんと今回が約5年ぶり復帰戦だというのに、いきなり1分35秒というぶっちぎりのトップタイムを叩き込んできていたのだ。 もちろん、まだ練習走行という事もあってみんなまだ全力で出しているわけではなさそうではあるが、今日いるメンバー内でも明らかに走っている時の勢いがよかったのは明白だった。 


本番が楽しみでもあり、自分も少しは爪痕の残せる走りをしたいな・・・・という闘争心も沸々と煮えたぎっていた。


昼休みになり、私と涼は一緒に昼食を取って談笑をしていた。


「いやあ・・・・速かったね。増岡さんのV78パジェロ。ロングボディなのにめちゃめちゃ動き軽いし、派手に振り回してるのに、車はグングン前に進んでいくし・・・・マシンも、ドライバーも超一級品ね」


「まったくね。わたしは小さい頃からあの人の走り見てたけど、あの時から本当に変わってないわ・・・・いや、むしろもっとキレが増してるかもしれない。 しかも、あのパジェロも、ロングだけどリア部分の内装オミットして、尚且つ外板部品もCFRP製のとかに変えてるらしいし、とんでもなく手が入ってるのよ」


「そうなの!? ほんとに凄いんだねあの人」


「うん。 ちょうど、うち離れてから、自分のショップを立ち上げて色々やってるらしいんだけど、そのノウハウが全て注がれてるのは間違いないわ。 ・・・・私も午後からの本番はもっと本気出していかなきゃ」


「そうね。私も初めて走るコースだけど、せめて今できる全てを出し切らなきゃ」


そんな事を話しながら、あっという間に昼休みは過ぎていった。


そして、午後からの本番に備えて相棒のパジェロエボの点検と確認をしていると、何やら一つの影が近づいてきていた。


「篠塚さん、ごきげんよう。改めて挨拶をさせていただきますわ」


「・・・んおお!??・・・って、増岡さんですか。わざわざありがとうございます! 決勝はお互い頑張りましょう!!」


「ええ、もちろん。私も思いきりいかせていただきますわ・・・・ では、また」


スカートを両手でつまんでサッと上げてお辞儀をすると、彼女はいい香りを漂わせながらその場を後にした。


本番では少しでもあの人に食らいつくぞ・・・!!そんな気持ちが巻き起こっていた。


続く。

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