第103話 莉緒の本気
私が走り終わった後、数台を挟み、今度はユリのシビックタイプRがスタート位置に付いていた。 車内から、私はその様子を眺めていた。
カウントの合図と合わせてシビックのエンジンは唸りを上げる。 そして、旗が振りあがると同時に、シビックは派手なスキール音と共にスタートを決めた。
・・・・が、そんな派手なスタートとは裏腹にユリのその後の走りはクレバーそのものだった。 最初の360°ターンも綺麗な線をなぞって駆け抜け、パイロンスラロームも無難にまとめ、線マタギも綺麗にその後の車庫入れは・・・・
ご・・・・ギャギャギャギャーーーーンっ、グおおおオオ!!
と、一瞬クラッチワークをミスったような感じで、若干ギクシャクはしたものの、何とか切り抜けて、車庫から出ると、次のスラロームも無難にこなしてゴールイン・・・・!!
放送を聞いていると、どうやらタイムは33.2秒らしい。ユリの出たクラスでは文句なしのトップタイムだった。 まだまだな部分もなくはないが、ユリのドラテクの上達具合を感じることのできる一瞬だった。
そして、続いてくるのは莉緒。練習走行での強烈な走りを見させてもらっていただけに、私はかなり注目をしていた。 スタート地点に立ち、スターターの合図に合わせて911の甲高いエキゾーストノートが、サーキット中に響き渡る。運転席に座る莉緒の顔もチラと見えたけれど、完全に目に力が入っていた。 ・・・・これは本気だ。
「スタートっ!!!」
と大きい掛け声と共に、莉緒の911は黄色いボディをきらめかせながら、スムーズなスタートダッシュを決めた。 その後の走りも、とにかくスムーズかつ、スピーディなものだった。
360°ターンから、スラロームまでエンジン音が綺麗な線を描くように途切れず響き続け、そして車体も全くぶれずに車速を維持しながら、黄色いボディが水すましのようにあっという間に駆け抜けていった。 線マタギ、からの車庫入れも全く淀むところがなく、シームレスにこなし、最後のパイロンスラロームまでそれは乱れることなく続いていった。
動きに派手さは全くないものの、とにかく基本に忠実で、車の動きがつぎはぎのようにならずに動きを綺麗に繋げている莉緒の走りは、本当に見事なものだった。
そして、タイムがアナウンスで流れると、会場にどよめきが起こった。
なんと、タイムは30.4秒。部門でも総合でもぶっちぎりのトップタイムだった。
以前から莉緒はスムーズな運転をする方だったけれど、その実力はこの場で炸裂していた。
一走目が終わり、私たちはインターバルの間に再び集っていた。
「莉緒の走りヤバすぎるでしょ!! まっさかトップタイム取ってくるとは思わなかったわ・・・・」
「私もびっくりしたよ・・・・ 莉緒は練習走行から調子よさそうだったけど、まさかここまで凄い走り見せつけられるとは・・・・ 流石ね」
「いやあ、私も、まさかこんないい感じに行けるとは思ってなかったよ・・・・ でもまあ、確かに練習の時から手ごたえは少しあったんだけれどね・・・・二走目も、更に気合入れていくわよ!」
「アタシも! 次はバックでミスらないようにしないと!!」
「私ももっとスムーズにこなせるようにしなきゃ・・・・!!」
それぞれまた二走目までの抱負を持ちつつ、また愛車の元へと戻っていった。
続く
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