第101話 走りの個性
コースを大分覚える事が出来た私は、次の練習走行ではさっきより少しペースを上げて、本番を想定した感じで走り抜けた。
細かく練られたコースを、ダンスステップを踏むように、ステアリングを、アクセルペダルを、ブレーキを、リズミカルに、かつ正確にコントロールして、パジェロエボリューションを華麗に舞わせた。 こうした小さいコースではあるけど、キッチリと相棒と心を通わせ、こうして走り抜けるのはやはり、何事にも代えがたい楽しさがあった。
気持ちよく走り終え、コースサイドに車を止めると、私は続く二人の走っている様子を眺めていた。
まず走り出したのは、ユリのシビックタイプR。 思ったより大人しいスタートダッシュを決め、最初の360°ターンに飛び込んだ。 豪快な走り方を特徴とするユリらしく、低いギアを有効に使ってとにかくキレよくターンインやスラロームを決めていた。 とはいえ、そこは以前に比べて成長したユリである。 シャープはしっかりと維持しつつも肝心なところで乱れた動きを出さない、クレバーさも徐々に備わってきていたようだった。 しかし、まだまだ線マタギからの車庫入れのような場面はまだぎこちなくて、そこはまだ改善点があるように思えた。
そして何より、一番びっくりしたのが、莉緒の走りだった。 元より綺麗にクルマを走らせるタイプだった莉緒なのだが、ここにきてその実力が炸裂していた。 見た目に派手さはないのだが、とにかくスムーズ&クリーンなのだ。 まるで一筆書きをするようにポルシェ911を狭いコースの中で踊らせていた。 最初のターンから、スラローム、そして線マタギから車庫入れまで、途切れ感を感じさせずに綺麗に駆け抜けていた。
以前から、運転の丁寧さを実感させられる機会が多かったけれど、こうして正確性を求められるオートテストで、完全に見せつけられたような気がした。 これは今回、かなりいい順位いけるんじゃないか?
・・・・なんて考えていると、後ろから走行を終えて車を降りた二人がこちらに来ていた。
「おーい、凛子! こんなとこにいたの~ こっちでお昼一緒に食べよ!」
ユリが口に手をあて、そんな事を叫んでいた。
「おけおけ、今向かうよ!」
私も小走りでふたりの元へ駆け寄った。
予め注文しておいた弁当に舌鼓を打ちつつ、私とユリと莉緒の三人で、また会話に花を咲かせていた。
「ねえねえ、どうだった?凛子。 アタシの走り」
「中々よかったよ~! ユリ、持ち味活かしつつも、本当に各部の動きが丁寧になってたもの。 後は線マタギからの車庫入れとかをスムーズにできればね~・・・・」
「そこなのよ・・・・アタシ、どうにもあそこでテンパっちゃって・・・・」
「午後にあと一回練習あるみたいだし、そこで改善出来たらいいね。 ・・・・あと、莉緒。今回めちゃめちゃ凄いね! 本当に綺麗で速かった」
「本当!? ありがとう! 実は今日の私乗れてるな~って、少し思ってたの。 こういう細々したコーナーの連続は得意でね~。 かなり楽しめたよ!!」
莉緒は満面の笑みでそう答えた。
「そっか~ それならよかったよかった! ・・・・私も、午後からの本番は本気でいかなきゃ」
「アタシも・・・・ 弱点克服して、更にスムーズに走ってやるんだから!!」
それぞれしっかりと目標を定めて、午後の本番に備えた。
続く。
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