第69話 銀色のおてんば猫様

ある土曜の昼間の事。私はまたドライブで故郷の群馬に来ていた。


・・・とは言っても、今日来ているのはいつもの赤城や榛名の方ではなく、妙義山の方であった。


元々前に住んでいた地元からも若干離れていることもあって、あまり来ることのなかった妙義ではあるが、久々に来ると改めてその景色に圧巻されていた。


日本三大奇景の一つにも数えられる妙義山は、数々の岩が連なったような形で構成されている岩山で、岩肌がむき出しになったその荒々しくも、見る人を圧倒するような荘厳な美しさのある景観が魅力の山だ。 秋になれば紅葉が包み込み、より美しい景観になる。


そんな美しい妙義山であるが、登山となると非常に難しい山として知られていて、しばしば滑落事故が発生する非常に危険な山でもある。


そんなまるでバラの花のような危うくも美しい山の景観、そしてそこに張り巡らされた美しい道をなぞるために今日ははるばる来ていた・・・のだが、そんな妙義のふもとの駐車場で困難に見舞われていた。 そう、相棒の心臓エンジンに火が入らないのである。


「えええ~~!?ちょっ・・・うそでしょおお・・・・何もこんな出先でこんなことに並んでも・・・ええええ・・・・・。」


慌てふためく私。自分でも色々探ってはいたものの、原因は全くつかめずにいた。とりあえず、いつまでも駐車場にとどまっているわけにもいかないので、私はいつもお世話になっている志熊社長に急遽助けに来てもらう事にした。


妙義山を死んだ魚のような目で眺め続ける事数十分、志熊社長は積載車に乗って表れた。


「おお~い!リっちゃん!!助けにきたぞい!」


「あ~~~社長ありがとうございます!! ガチで助けてください。」


半べそを掻きながらも、私は元気よくそう答えた。


とりあえず、何とか引っ張り上げるようにして相棒パジェロエボを積載車に乗せると、私たちはそのまま志熊自動車の工場へと向かった。




それから1時間ちょっとくらいの間、いつものちょっと埃と油が混じったような匂いのする待合室で、コーヒーを飲みながら待っていると、志熊社長が現れた。


表情から察するに、多分思ったよりか何とかなる感じではあるようだった。


「一応一通り見たけど、バッテリーとかその辺は全く問題なかったね。 原因はセルモーターだったよ。」


「なるほど~!セルの方でしたか!どうりで電圧とかは問題なかったわけだ・・・。」


セルモーターとは、エンジンを始動するためにあるモーターの事で、ここが劣化して回らなくなっていたらしい。


幸い他にダメになっている個所はなかったようで、ここのみ交換すれば問題ないことは分かったのだが、部品が取り寄せるのに時間がかかること、そして念のための予防整備と、そして思い切って一部をモディファイすることにしたので相棒は暫く入院する運びとなった。


そこで私はまた代車を借りることにしたのだが、そこは志熊社長。またも面白い車を用意してくれていたのだ。


銀色に妖しく光る起伏に富んだグラマラスなボディが美しいその一台は、薄暗い工場の中でも抜群の存在感を放っていた。


そう、三菱パジェロの3代目後期モデルである。


パジェロマニアの私にとってはその姿を見るだけでもよだれモノだったのだが、更にその個体は、より特異な物であったのだ。



続く。

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