第70話 幻の心臓
「しかもこれ、ただの3代目パジェロじゃないんだなあ・・・。ボンネット開けてみ?」
ボンネットを指さしながら、不敵な笑みを浮かべて社長は呟く。
ははーん、これは本当にタダモノじゃなさそうだなあ・・・。 そんなことを思いながら、ボンネットオープナーを操作して、「ドゴっ」っと重い音を立ててボンネットのロックを開け、んっしょ・・・と持ち上げると、この子の心臓が姿を現した。 ・・・これは、初めて見る奴だ。
「こりゃまた初めて見ましたよ社長・・・よくこんなの持ってましたね・・・。」
「はははっ。だからこその秘蔵っ子なわけよ。 これの3.8リッター車なんてイリオモテヤマネコ級にレアなんじゃないかな。ヤマネコだけに。」
社長渾身のギャグにちょっとフフっとなりつつも、私はまだまだ目を真ん丸くして、そのエンジンに見入っていた。
この3代目パジェロに搭載されていたのは、国内向け3代目パジェロ最後の10か月間に設定されていたエンジン、3.8リッターV6の6G75型エンジンだったのだ。
このエンジンは元々北米からの要望で開発されたエンジンで、既存であった3.5リッターの6G74型エンジンをベースに回転バランス等を考慮して+300cc排気量が加算されたものとなっている。 シングルカムながら、最高出力は219馬力、最大トルクは34.3kg・mと強力なものとなっており、更にスペック以上に中低速域でのトルクは向上しており、パジェロのボディを軽々と引っ張り上げるモノになっている。
ちなみに四代目パジェロでもこのエンジンは継続採用されていて、四代目に搭載されているものは三菱のお家芸MIVECが追加され、更にパワーアップが図られている。ちなみに、私の良きライバルである四ノ宮涼ちゃんが乗っている四代目パジェロのエンジンも正にこの仕様である。
更にこのエンジンで特筆すべきところは、2004~2007年に参戦していたパジェロエボリューションラリーカーのエンジンのベースとなっている事である。ラリーでも通用する性能と、素性を備えたメカニズムが市販車にも生きているというところがパジェロらしい。
そして、このエンジンを搭載したパジェロは僅か国内に約170台しか販売されていないという正に幻と言っていい存在なのであった。
こんな贅沢な車ばかり借りていいんだろうか・・・と、ここに来るたびに思うが、折角気になっていたモデルを貸してくれると言ってくれるので、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
と、言うわけで私は志熊社長から鍵を受け取り、改めてそのドライバーズシートに滑り込んだ。
世代を経ても面影のしっかり残るインパネがパジェロらしい。
キーを捻ってその心臓に火を入れると、ドスの効いたサウンドを響かせて、それにこたえてくれた。
「じゃ、社長借りていきますね!パジェロエボのメンテ、よろしくお願いします!」
「おう、任しとけ。・・・じゃ、楽しんできな。」
サムズアップをする社長に、私は敬礼をして答えてみせた。
シフトレバーをDレンジへと入れると、私は薄暗い倉庫から、パジェロを外へといざなった。
続く。
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