第68話 ツールド山岡家いざフィニッシュラインへ。
一方メイドペアの方はというと、思わぬ壁に引っかかり苦戦を強いられていた。そう、一車線区間で大型トラックに引っかかっていたのだ。
ハンドルを人差し指でトントンと叩きながら、ムーっとした顔をして芹香はぼやく。
「うーん・・・早く二車線区間にならないかなあ・・・全然踏めないじゃない・・。」
「んねえ・・・・。幹線道路とはいえ、夜中だからかっ飛んでいけるかなあ・・・・と思ったんだけれど・・・。」
「・・・まあ、とはいえ距離的にも、信号潜る数にしてもこっちのがずっと有利なはずだから、どうにかやってみるよ、ユリユリ。」
苦虫を噛んだような顔をしながらも、綺麗に車間を保ってトラックの後ろに付き、着々と芹香は視界が開くのを待ち構えていた。
そして、地元勢コンビである私とアレサは気持ちよく前橋の街をクルーズしながら、学生時代の話だったり、近況の話だったりに花を咲かせていた。気の置けない友人とこうして近い距離で他愛もない話をするのは何とも楽しい瞬間なのであった。
「ほんとさ、こうしてこの街を抜けてるとさ、色んなことを思い出すよねえ・・・。」
「そうだね。部車で榛名の草ラリー行って、帰ってくるときのこととか、アレサのMINIがトラブルこいて急遽私がミラージュで駆けつけて路肩で修理した時の事とか、ここのアーケードのお店でご飯を食べて帰った時の事とかさ・・・。」
「あ~あったねえそんな事も・・・。ここを通ってると、なんだか昔に帰れちゃうような気がするよ。」
「不思議と気持ちが返ってくるよね・・・。タイムマシンみたいだなあ、この街は。」
学生時代、一緒に駆け抜けた前橋の商店街の光をまといながら、二人を乗せたMINIは駆け抜けた。
そしてその頃、メイドペアの方もようやく二車線区間に突入し、視界が開けた。
すかさず芹香は右車線へとGRヤリスを進め、一気にアクセルを踏み込んだ。
「っしゃああ!!開けたああ!!行くよおおお!!ユリユリ!!」
「うん、頼むよお!!」
GRヤリスはあっという間に50号との合流地点に達し、即座に分岐を駆け下りて、信号が青になったのを見かけると、
「一発かましたるぞおお!!」
と芹香は叫びながらサイドブレーキを引いて、GRヤリスを真横に向けてラリードライバー顔負けの豪快なドリフトをかましながら、猛ダッシュで前橋方面に向かっていった。
私たちは順調に前橋市街を抜けて、50号線に合流し、バイパスを駆け抜け、山岡家の目の前の交差点で信号待ちをしていた。駐車場にメイドペアたちの姿は見えない。
「下で来てたからひょっとしたら向こうのが速く着いてるもんかと思ったけど、そういう事もなかったみたいでよかったわ・・・。」
「ふふっ、そうね。あたしの作戦が上手くいったみたいでほんとよかったわ。・・・これで何とか勝てそうね。」
「ほんとにありがと、アレサ。・・・ん?なんか凄い轟音が聞こえてくるんだけど・・・あ・・・」
そう、反対方面からメイドペアたちのGRヤリスが猛スピードで迫ってきていたのであった。
「・・・・あ~、あの子たちももうこっちまで来てたのね・・・。とはいえ、あっちは反対車線だから何処かでUターンしなきゃいけないし、こっちの勝ちは確定ね。さ、凛子。信号が青になった進んで。」
あ、いけね。私はそう言いながらMINIをゆっくりと発進させた。ゴールまであと数十メートル、しかも向こうは反対車線。これは決めたな・・・。と思ったその時だった。
「そうはさせるかああ!!!」
芹香のGRヤリスは、フィギュアスケートを舞うように白煙をまといながらくるっとサイドターンを決め、私たちのMINIにならんできていたのであった。
まずい!私も 急いでアクセルをグッと踏みこみながら、山岡家へとアプローチしていく・・・・!!
MINIは内側をスッとアプローチしながら、そしてGRヤリスはそれに覆いかぶさるようにアプローチ、二台は並んだまま山岡家の駐車場に滑りこんだ・・・!!!
そしてこの時、凛子の中にある疑念が生まれた。
・・・これ決着付けづらくね?
二台仲良く車を並べてから、私たちは審議になった。
「山岡家アプローチした時、私のが内側だったから私たちの勝ちでしょ。」
「いいや、違うね。アタシたちの方がド派手にサイドターン決めてたんだからあたしたちの勝ちっしょ!!」
「はあ!?何それ!!私のプレ塩・・・」
「まあまあ、そんな揉めないの!いいよ、ここは奢ったげる!! 折角こうして出会えたんだもん。親睦深めましょ。」
「「「・・・ありがとうございます」」」
機転(?)を利かせてくれたアレサのおかげで、3人の審議は無事終わり、美味しいラーメンにありつけることになったのであった。
・・・しっかし中々接戦になったな・・と私は回想しつつ、またこうしてみんなで仲良く車談義ができたらな・・・と思った。
真夜中に食べる温かいラーメン。また一つ、思い出になりそうな気がした。
続く。
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