第62話 忍び寄る白い影
「ささ、どうぞ。 鍵なら開いてるから。」
アレサに促されるまま、私はミニの運転席へと滑む。着座点が低い上、シートがサーキット走行に対応させた張り出しの大きいものだったので体をかなり折り込むような姿勢になりながらも、腰を痛めずに何とか乗り込んだ。
ミニの中に座り込むと、サーキット走行を見据えたレーシーさと、ミニ独特のクラシカルな世界観のある内装デザインにまず圧倒された。 センターメーターをイメージした中央のモニターパネルに始まり、単車のメーターのようなコラム上に取り付けられたメーターパネルに、センターパネルに備えられたトグルスイッチに代表される装備は、正に最新技術とミニらしさが上手く融合した巧みな物であった。さながら、クルマというよりミニという世界に乗っていると言っても過言じゃないくらいだ。
「えーっとエンジンスタートは・・・・。」
と手をモゾモゾさせていると、そっとアレサは『センターコンソールの赤いトグルスイッチよ。』と教えてくれた。
ほんのり紅くLED照明の色に染まったその赤いスイッチを軽く押すと、小さな
ドドドド・・・と重低音を奏でるマフラーに気分を高揚させつつ、私はシフトレバーをDレンジに入れ、ゆっくりと駐車場を後にした。
「折角この辺来たから榛名の方にでも向かってみる?」
「いいね~! いこいこ!」
アレサからもいい返事をもらったところで、私は榛名山の方へとミニを走らせた。
乗り心地は明確にハード目で、段差を乗り越えると「ゴツン」とショックが来るものであった。ただ、ボディ自体はかなりしっかりしていてショックは大きくとも不快感は全くなかった。エンジンとミッションも普通に走っている分には殆ど回転を上げずにスムーズに車速を上げていくジェントルな印象であった。榛名の山に向かっていくほど高まる傾斜もものともせず、ミニはグングンと登っていった。
伊香保の温泉街を抜け、いよいよワインディング区間に入る。
「いいよ~踏んでみても。この子の実力見てみて。」
とアレサはニヤリと笑いながら呟いた。
「ほほーん・・・じゃ、お言葉に甘えて。」
シフトレバーをマニュアルモードに入れ、シフトダウンし、アクセルをグッと踏みこみ、私はミニにムチを打つ。
「おおおおおお!?」
ミニは獲物を目の前にした獣のように、派手なエキゾーストノートを奏でながら猛然とダッシュを始めた。2速、3速とどんどんシフトアップしていくとあっという間にヘアピンカーブが迫ってくる。すぐにブレーキングして、ギアをどんどん落とすと、レーシングカーさながらの「バリバリ」というアンチラグのような音を立てた。 ステアリングを切り込むと頭をすぐにインに向け、ミニは恐ろしいほどの勢いでカーブをスルッと抜けてしまった。
このモデルにはトルセンLSDが装着されているのだが、その効果もてき面で、切れ味深いフットワークをより高めていた。ミニの走りはしばしば「ゴーカートフィーリング」と言われることが多いというが、このミニJCW-GPに至っては「フォーミュラーカーフィーリング」と言ってもいいのかもしれない。次のコーナ―、また次のコーナ―とミニはグランプリコースを駆け抜けるように一気に駆け上がっていく。
「どう?楽しいでしょこの車。」
「うん・・・ほんと可愛い顔してこの走り・・・。恐ろしさすら感じるよ。」
そんな会話を交わしながら榛名山をグングンと登っていると、後ろから白い影が忍び寄ってきて、後ろにピタリとついてきた。
「なんだろあれ・・・地元の走り屋かね・・・。とっとと先行かせるか。」
「え~行かせちゃうの? せっかくならぶっちぎっちゃえばいいじゃん。」
いやいや、これあんたの車だから。と私はすかさずツッコミを入れた。流石に仲の良い友人のとは言え無茶な事をするのは気が引けるし。 と、言うわけですかさずミニを登板車線に寄せた。 どんな奴が貼りついてきたのか気になったので横をチラ見すると、なんと『白い影』に乗っていたのは織戸芹香とユリだったのだ。
「「「あ」」」
と三人は目を真ん丸させて互いを見つめた。
続く。
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