第60話 旧友の誘い
夏ももう終わりに近づこうとしていた頃。私は会社からお盆代わりの長期休暇で実家の群馬に帰省し、スマートフォンを見ながらゴロゴロしながら過ごしていた。
夏の群馬は猛烈に厚く、日中は40度を越える。帰ってきたところで無駄に外を動き回る気にすらならず、先祖の墓参りの時とコンビニまでアイスを買いに行く時以外は家にこもっていた。それに、アラサーの私に夏の強い日差しはシミの天敵になるからできる限り出たくはなかったのだ。
・・・とはいえ、折角地元に来てこのまま休みを潰すのは嫌だなあ・・・なんて心の中では思っていた。何か楽しい事起きないかなあ・・・なんて思いつつ、結局何もしないまま一日が過ぎよう・・・としていたのだが、その時携帯から『ピロンっ♪』と通知音が鳴った。
何だろう、と携帯の画面を見るとコミュニケーションアプリの通知欄に懐かしい名前が浮かび上がった。 大学時代、寝食を共にしたある同期であった。
おお、っと少し興奮気味に通知をタップしてメッセージ欄を開くと、このようなメッセージが入ってきた。
『凛子っーー!! お久しぶり。丁度こっちに帰ってきてると聞いてメッセ送らせてもらいました。今日の夕方暇かな? 見せたいものがあるんだ。』
何もやることがなくて暇だった私はすぐに『いいよ~! じゃあ、何処にする?』と返信を返した。 久しぶりの再会に、ワクワクしながら支度を進めていた。
そして、待ち合わせの時間。それなりに小綺麗な格好をして相棒パジェロエボと共に渋川市にある『道の駅 こもち』に来ていた。 伊香保温泉街や榛名山がほど近いこの道の駅は、昼間なら多くの人が行きかう場所である。
日もすっかり落ちて少し涼しくなってきたなあ・・・と少しぼやいていた時、派手なエキゾーストノートと共に彼女はやってきた。
丸目の愛くるしいヘッドライトが目立つボディに、ド派手なエアロパーツが目立つその車は、一目で目に付くものであった。
「やっほー!凛子!! おっ久しぶり~元気してた?アッハハ。」
勢いよくこちらにやってくると華麗にすぐ横に駐車し、彼女は颯爽と降りてきた。
「おひさ~。相変わらずカッコいいなあ・・・アレサは。」
アレサとハイタッチを交わして私はそう言った。
相変わらずの黒っぽいバンギャファッションに、黒と赤のメッシュが目立つ短くまとめられた髪が似合う若々しさとカッコよさは相変わらずであった。
彼女の名は石後アレサ。かつて大学時代同じ自動車部で切磋琢磨していた友人である。大のミニ好きで学生時代からずっとミニを乗り継いできている猛者だ。 特に学生ジムカーナ大会では無類の強さを誇っていて、私と競技ではいつも良きライバルとして競い合ってきた。
大学卒業後は群馬でミニを中心に扱う輸入車専門店を開き、手厚いサービスとマニアックな品ぞろえで評判になっているらしい。
今日は新しく車を買ってそれを見せるために呼んでくれたのだ。
私のパジェロエボを見るや否や、アレサはハハー・・・と言いニヤニヤしていた。
「しかし凛子も遂に買っちゃったんだねえ・・・念願のパジェロ。やるねえ・・・カッコいいねえ。」
「フフっ、ありがとう。すっごく気に入ってるんだ、この子。」
「だろうねえ。ずっとニコニコしてるもん。やっぱこう・・・好きな車って、心の良いビタミンになってくれるもんね。」
本当にその通りだと、私も深く頷きながらそう思った。あれだけ家にこもってる時はウジウジしていた気持ちも、乗ると一瞬で吹き飛んで笑顔にさせてくれる。そんな存在って中々ないと思う。
そして、彼女もそんな一台と今日も来ていたのだった。
「で、アレサも随分と凄い子と来てるじゃない・・・なんてやつなの?この子?」
フッフン・・・とアレサは自慢気な顔をして、待ってましたと言わんばかりの勢いで話始めた。
「よくぞ聞いてくれました・・・・そう、この子はつい3日前に納車になったばかりのアタシの相棒『MINIジョンクーパーワークスGPです!!』」
艶やかなダークパープルのボディはその時、一瞬光沢が深まった気がした。
続く。
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