第59話 オーバーヒート
先ほどの凛子のアタックを見た涼は、何やら涼はスイッチが入ったのかまだ順番も遠いのに、突然愛機V87Wパジェロの元へと歩きだし、そのまま乗り込んだ。
涼は車内でステアリングをギュッと握って突っ伏し、ゆっくりと息を吸い、そして吐く。精神を研ぎ澄ましていく。 そして、鍵をゆっくりと捻りその心臓に火を入れる。
ターンヒャッヒャッヒャ・・・ドルルルーーンという低く地に響くようなV6エンジンのサウンドが響き渡る。 そのまま走り出していこうとした時エンジニアさんが吹っ飛んできた。
「おい、涼。まだまだ順番は先じゃねえか。まだ降りて待っとけよ・・・・。」
「ごめん、ちょっと落ち着き無くなってきちゃってさ。 ・・・ちょっとその辺流して頭冷やしてから、そのまま並ぶわ。」
涼はそう言って、そのまま走り去った。
そして、とうとう涼の2走目が始まろうとしていた。凛子は固唾を飲んでコースサイドで見守っていた。 さっきの私のアタックを見て涼は相当スイッチが入っていたと涼のチームのエンジニアさんが言っていたから、どんな走りを見せてくるのか、おっかなびっくりしていた気持ちであった。
いよいよその時がやってきた。 スターターが旗を構えカウントを始める。
5、4、3、2、1、・・・スタート!!
フラッグを振り下ろすと同時に、涼のパジェロは猛ダッシュをはじめ、そのまま1コーナーに勢いよく突っ込んでいった。
「ありゃりゃりゃ・・・・曲がらないんじゃ・・・・。」
と、思うも束の間派手にスライドさせながら向きを変え、恐ろしい勢いでコーナーをクリアしていった。
そこからは本当に涼は熱が入り切った全開アタックをしていた。ぬかるんだ路面をものともしない勢いでアクセルを開け、豪快に泥を巻き上げ走り抜けた。一見すると、1走目に比べてラフにも見えるドライビングであるように見えるが、要点要点を先ほどよりキッチリ詰めた所謂本気走り状態になっていた。相当火が入っているらしい。
ありとあらゆるコーナーをあっという間に走り抜け、最終コーナーも華麗にパスし、ゴールへと流れ込んだ・・・!!
タイムは・・・なんと、私の叩き出したタイムを更に1秒も上回るものであった。
いやはやここまでやってきたか・・・と私は驚嘆していた。私もさっきはかなりノリノリで走っていたが、それを更に上回ってくるところは流石プロである。
・・・よーし、じゃあ私もここまで来たらもっと勢いよくやってやるか・・・・と俄然やる気が湧いてきていた。
私は勇んで相棒パジェロエボの中に駆け込んだ。
2走目に出るため、列に並んで待つこと幾分・・・。とうとう私の出番がきた。もはや私は、緊張よりも完全に闘争心と高揚感が勝っていた。私はもっと速く、そしてもっと心を通わせて美しく舞ってみせる・・・!! 力がみなぎってもいた。
スタート地点にパジェロエボをつける。 スターターが構えだした瞬間に、クラッチを踏み込み、ギアを1速に入れ、臨戦態勢に入る。
「それじゃあ、カウント始めまーす!!」
5、4、3、2、1・・・・スタート!!
旗が振りあがると同時に、クラッチを上手にリリースし、パジェロエボは獲物に飛び掛からんとした勢いでダッシュを決めた。
あっという間に最初の直線を抜けて1コーナーへ。 ヒールアンドトーを決め、1走目より高い車速でコーナーに飛び込んだ。ズズズと流れだそうとする車体をステアリング操作と足元のペダル微調整で上手く収め、切り抜ける。1秒でも長く相棒を前に進めるために私は全身全霊で、沢山のカーブをすり抜けていく。 これはいけるんじゃないか・・・いってみせる・・・!! 血液が沸騰しそうなくらい私は昂っていた。
このコースで最もタイトなカーブに近づく。以前の大会の時のようなすざまじいターンを決めてみせる・・!気合溢れるそのままにターンインして、突っ込んでいたその時だった。
パジェロエボはリアを大きく流し、姿勢を完全に乱し始めた。
「ぎゃ・・・まずい・・・。」
一生懸命にカウンターステアを当てるも、時すでに遅し完全にスピンモードに入っていた。
クラッチを切りブレーキを思いきり踏みこむ。 暫くズズっと流れたパジェロエボはコースとは真反対を向いて何とか止まった。
「あああ・・・なんとかパジェロを傷つけずに済んだ・・・・。」
とりあえず、私は大好きな相棒を傷つけずに留めたことに安堵した。
私の2走目は、熱くなり過ぎた故の自爆でこうして幕を閉じた。
私は一応クラス二位に入るタイムをマークしていたらしく、入賞はしたがどうにもほろ苦い気持ちでいっぱいだった。
自分らしくないミスをして負けた悔しさをバネに、次は涼にリベンジしてみせるぞ・・! そう強く思った凛子であった。
続く。
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