第57話 突破口

その後暫く練習走行を重ねたものの、私は今一つコツを掴めないままでいた。どうにか突破口はないものか・・・。そんな事を考えながら、パジェロエボに突っ伏し、思いにふけっていると涼がやってきた。






「ヤッホー、凛子!・・・・どうしたの?そんな魂抜けちゃったような顔して。」






「あ~、涼ちゃんか。・・・ちょーーっと引っかかるところがあるっていうかね。雨のグラベルって昔から苦手意識があってさ。久しぶりに走ってもなんかしっくりくる動きが出なくてね・・・。」




「なるほどねえ・・・。まあ、気を遣う路面だしねえ・・・。ってか凛子、相当力んでなかった? なんだか走りにらしさがないなあ、ってさ。」




「まあね~。正直凄く緊張してたからなあ・・・周りも結構苦戦気味だったしさ。」




今日は、路面コンディションが悪いこともあって他の選手たちもマシンコントロールに苦戦し、様々なアクシデントを目撃していた私は、ちょっと委縮している所があった。


そんな私に涼は、こう言った。




「まあ、濡れてる路面だとそりゃ緊張はするけどさ・・・・。むしろ、そういうコンディションだからこそ楽しんじゃう、くらいでいいんじゃないかな。」




「たの・・・しむ?」




「そうそう楽しむの。むしろ、相棒をもっと踊らせられるな~くらいな感じで。 ・・・まあ、ちょっとアタシの走り見ててごらんよ。」




そう言って涼は、不敵な笑みを浮かべたまま愛機V87Wパジェロに乗り込んだ。 暫く順番待ちをした後、遂に涼の出走順になった。




スターターがカウントをはじめる。






「カウント始めまーす!! 5、4、3、2・・・・・」




涼はブレーキを左足で踏みながら、右足で軽くアクセルを煽りスタートの構えに入った。




3.8リッターV6エンジンが今か今かというように獰猛な唸りを上げる。




1・・・・スタート!!




フラッグが上にあげられると同時に銀のヤマネコは、湿った大地に放たれた。




6気筒エンジンらしい軽快なサウンドを響かせながら、猛然と加速していき、1コーナーへ飛び込んだ。 涼は優しく減速しながら、荷重をフロントにゆっくり乗せ、綺麗にターンインしてコーナー出口に上手くアプローチし、キレよくコーナーを抜けていった。




1コーナー目から私は思わず驚嘆してしまっていた。雨が降ってズルズルの泥の上を、まるでダンスを踊るように軽やかな動きを見せて駆け回って見せた。一つ一つの操作はとてもゆっくりに見えるほど丁寧なのに、それでも涼のV87Wパジェロは鋭く向きを変えてコーナーを誰よりも美しく速く抜けていった。弱冠19歳とは思えない、スマートかつキレた走りを見せる涼に改めて驚嘆した。 並み居るコーナーを、華麗なステップを刻みながら涼のパジェロは駆け抜けていく。ドライバーズシートにいる涼は、目が微笑んでいた。








私だって・・・あれくらい綺麗に舞ってみせる・・・!!






涼のV87Wパジェロは、ゴールに向かってあっという間に駆け抜けた。






続く。


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