第56話 泥を飛ばし舞うヤマネコ 

ある日曜日の早朝。私はある場所に相棒のパジェロエボと佇んでいた。白く淀んだ空、前日から降っていた雨の影響で湿った土と森林の匂いが漂い、そして幾つもの闘志みなぎる車とそれを操るドライバーたちが集うこの場所は、そうダートランド赤城である。今日は以前も参加したNXCDシリーズの第4戦にまた、スポット参戦するためにここに来ていた。


実はこの前の第3戦も参加予定だったのだが、仕事の関係でスケジュールが取れず、結局行けずじまいだったのだ。 今回は準備が万全に取れたので、パジェロエボを入念にセッティングと整備を行い万全を期してエントリーした次第だ。・・・とはいえ、今回は前日雨が降った影響で路面がドロドロになっているのがとても気がかりなのだが・・・・。


車検前に涼の元にも挨拶に行く。


「涼ちゃーん!おはよー!!」


「お、凛子とうとう来てくれたね! 前回来てなかったから、あたし寂しかった。 ・・・今回は負けないよ!」


「こっちこそ、今回も全身全霊でやらせてもらうよ。今回も、楽しんでこうね!」


私と涼はガッチリ握手を交わし、互いの健闘を祈った。



その後、前回と同じように車検とゼッケンの装着を行い、練習走行に挑んだ。


車列に並び、暫くの間自分の出番を待つ。そしていよいよ出番が来た。


スタート地点に車を合わせ、スターターの合図を待つ。


「スタート五秒前!」


カウントに合わせ、私はパジェロエボの心臓を歌わせる。


4、3、2、1、・・・スタート!!


旗が振り下ろされると同時に私はクラッチミートを決め、パジェロエボの手綱を解き放った。


四つの足でぬかるんだ地面を力強く蹴り上げ、パジェロエボは猛然とダッシュし、勢いよく1コーナーに突っ込んだ瞬間・・・パジェロエボはズルズル滑りながら外にはらみ、狙っていたラインを外しはじめた。


「おっとっと・・・やべ・・。」


私は冷静にステアリングを修正し、何とかパジェロエボの姿勢を立て直し、一コーナーを切り抜けた。


(思ったより手ごわいコンディションだなこれ・・・)と思いながら、私は慎重にまずコースを一周回り切ることに専念することにした。


前日に降った雨の影響でぬかるんだ路面は思ったよりも手ごわく、普段以上に感覚を研ぎ澄ませて慎重な動作を心がけた。 ラリーの現役時代も、こういうコンディションはちょっと苦手だったなあ・・・と思いながら、何とかコースを一周回って戻ってきた。


今回の本番は恐いなあ・・・。私はステアリングに突っ伏しながら、そうぼやいた。



続く。

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