第31話 幻のジャーマニーパジェロ

「え!?AK45マグナムうううう!?!?!?」


流石の私も驚きを隠せず、目を丸々とさせながら叫んでしまった。


それもその筈、AK45マグナムなんてものをまさか日本で見られるとは思っていなかったからだ。AK45マグナムとは、ドイツでリムジンなどを手掛けるカスタムビルダー(架装メーカー)AK社が2代目パジェロをベースにカスタマイズしたコンプリートカーである。外装は若干パジェロの面影を残しつつも、アヴァンギャルドな雰囲気のエアロパーツに身を包み、中身もゴッソリ手が入っていて3リッターV型6気筒エンジンは中身もしっかり手が加えられている上、更にツインターボ化され、最高出力はなんと320馬力(なんと更にオプションで450馬力仕様もあった。)、最高時速は232キロというスポーツカー顔負けのスペックを誇っていた。新車当時のお値段もド級の2600万円で1992年から1998年ごろまで生産されていたらしい。販売されていたドイツ本国でも殆ど目撃例がない超希少車なだけにまさか日本で見られるとは思ってもいなかったから、只々驚愕していた。


「よく手に入れましたねえこんなの・・・・・。縁があったんですねえ・・・・。」


「はい!たまたまわたしの絵の個展がドイツで開かれることになって、その時初めてドイツに行ったんですけど、そしたら偶々向こうの中古車屋さんの片隅にこの子を見つけたんです。・・・値段は明かせませんが、とにかく気に入ってしまって・・・・・ほぼ即決で買っちゃいました。 私も小さい頃雑誌で見てかなり強烈な印象を持っていて、ずっといいな~と思ってたので、見たときすぐに買おう・・・ってそう思ったんです。」


とふうみん先生はAK45マグナムを撫でまわしながら嬉しそうに言った。 きっと、彼女にとってはそれだけ印象に残る一台だったのだろう。ちょっと前にパジェロエボをほぼ即決で買った私もある意味同じような感じだったから、なんとなくわかる。 やはり憧れのものが目の前にあると手を出したくなってしまうものだ。

せっかくこうして知り合えたんだ、折角だから一緒に走りに行きたい・・・・そう思った凛子は思い切って提案してみることにした。


「そうだ、折角ですしこの後一緒に走りに行きませんか?私のパジェロエボとふうみん先生のAK45マグナムで!」


しかし、ふうみん先生は予想外な回答をしてきた。


「いえ・・・・そのお・・・・・ごめんなさい。ドライブは無理なんです・・・・・。」



「え!?そうなんですか!?・・・・ご迷惑でしたかね・・・・。」


「いえ、違うんです。私の所有してるパジェロ、実は1台もナンバー登録してなくて・・・・元々コレクション目的だけで買ったので、このガレージに搬入だけしてもらってそれっきりだったし、それに・・・・。」


「それに?」


少し間を開けてふうみん先生がこう言った。


「わたし、実は・・・・・免許取得してから一回も公道走った事がなくて・・・・・その・・・・恐くて、運転できないんです・・・・・。所謂、ペーパードライバーってやつです。一応、免許の更新は必ず行ってますけど、それくらいで。あと普段はあまり家からも出ることがないですし、そもそも外に出るのもちょっと恐いですし・・・・・教えてもらおうにも頼れる人もいないですし・・・。私としてもパジェロたちを動かしてみたいのは山々なんですけどね。」


俯きながら、ふうみん先生は残念そうな口調でそう言った。 確かに免許を持っていても何年も運転していないとなると、相当恐いであろうことは私にも何となくわかっていた。しかし、ふうみん先生は自慢のコレクションを本当は運転したそうな感じがしていたし・・・・。何か、ふうみん先生に私ができることはないのか・・・・・。少し考えこんで、私はふうみん先生にある一つの「提案」をしてみることにした。


「ね、先生。折角ですから、AK45マグナムでも車検取ってナンバー登録させて、運転の練習でもしてみましょ!私、運転教えますから!」


「え、いいんですか?そんな事して頂いても・・・・迷惑じゃないですか?それに、AK45マグナムの車検なんて・・・どこで取るんですか?」


「全然大丈夫ですよ!手取り足取り教えます! あと、車検も私の馴染みのお店をご紹介しますよ! 多分取ってくれると思います!」


そういうとふうみん先生の顔がぱあっと明るくなるのが見えた。


「うう・・・ありがとうございます。こんなに親切にして頂いて・・・・・。お言葉に甘えさせて頂きます。 今度、何か奢りますね。」


「いえいえ、そんな・・・・礼には及びませんよ!折角こうしてパジェロ好き同士で出会えたんですから・・・協力できることがあればどんどん協力しますよ!」


私がそう答えると、ふうみん先生は、ちょっと目に涙を浮かべながらも嬉しそうな様子で「ありがとうございます!」と何度も繰り返して言ってくれた。



後日、私は志熊社長にこの件を話し、車検の件も快諾してくれた。なので、そこから更に数日後の金曜日、一応自走できることが分かったAK45マグナムに仮ナンバーを取り付け、仕事終わりに私が運転して群馬の志熊自動車の元へ自走で持っていくことにした。



ふうみん先生から鍵を預かり、AK45マグナムに乗り込む。内装は、メーターが社外のメーターユニットに変えてあるのと、配色が変わっているのと、ハンドルが左にある以外は、まんま私のパジェロエボと同じであった。キーシリンダーに鍵を差し込み、回すとバッテリーが弱っているのもあって若干長めのクランキングをした後、AK45マグナムの心臓に火が入った。専用マフラーが入っているのもあって、「ドルっドルっドルっ」とかなり野太い音がしていた。ガレージのシャッターも事前に開けておいてもらっていたので、私は窓を開け、ふうみん先生に一言言ってから出発することにした。


「それじゃあ、いってきますね。ばっちり車検通してきますから!」


「はい!こちらこそお願いします・・・!本当に本当にここまでやって頂いて、ありがとうございます!」


またふうみん先生が深々と頭を下げた。 私もそれに応えるように、軽く頭を下げた。


私はそのままギアを1速に入れ、重たいクラッチをリリースし、AK45マグナムを発進させ、ふうみん先生の家を出発し、志熊自動車へ向かった。


続く。

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