第30話マニアなお隣さん
ある日の朝の事。私はちょっと首都高までドライブに行こうと、自宅アパートの部屋を出て愛車パジェロエボの止まる駐車場まで向かっていたのだが・・・・。何やらさっきから後ろの方に人の気配を感じる。・・・・・が振り返っても人影はない。何だか気味が悪いなあ・・・・早くパジェロエボに乗り込もう・・・と思った次の瞬間、
「し、篠塚さんっっ!!」
と、唐突に後ろから私の名前を呼ぶ声がしたので、ビクッとなりながらも振り返ると、そこには片目に髪の毛が被さった茶髪ロングで緑縁の眼鏡、マスクを身に着けた女性がそこに佇んでいた。 やたらと息が荒いし、見るからに雰囲気がヤバい。
目が合うと、そのままこちらに向かってツカツカツカと早歩きで迫って来るや否や、
「ぱ、パジェロエボカッコいいですね!!い、いつも家の窓から眺めさせてもらってました・・・・!!」
「そ、そうなんだ・・・・あはははは・・・・・」
車の事を褒められるのは嬉しいし、パジェロエボって車名がわかるくらいだから多分車好きなんだろうが、どうにも『いつも家の窓から見てました』という言葉が引っかかる。今まで車乗る時とかずっと凝視されてたんだろうか・・・・・ってかそもそもなんで私の名前がわかるのか・・・・なんて考えてるうちに少し気味が悪くなってきたので
「じゃ、私はこれで・・・・」
と立ち去ろうとしたのだが、その後のセリフに私は思わず引き付けられてしまった。
「あ、あのっ、わたしもパジェロ大好きで・・・・・持ってるんですっ!!パジェロ・・・・よかったら、あの、私の家でお茶していきませんか??」
「え!?貴方もパジェロ乗りだったの!?そういう事なら早く言ってよ~!! で、家はどこ?」
チョロすぎんだろ私・・・・・・・。 でもこんな近所にパジェロ乗りがいるなんて思ってもみなかったし、さっきまでの気味の悪さより好奇心が勝ってしまい、私は彼女の家までお茶をしについて行ってしまった。
彼女の家は私が普段パジェロエボを止めてある駐車場の本当にすぐ向かいで、確かにこれなら目に入っても仕方ないな・・・と思った。
家はコンクリート打ちっ放しの無機質な感じで、周りの雰囲気から少し浮いているように見えた。
じゃっ、どうぞ。と彼女が玄関を開けてくれたのでお邪魔することにする。廊下を抜けて居間のようなところに通された。部屋に入ると、この女性はマスクをスッと外していて、素顔が見えたのだが、薄化粧がパチッと決まった、中々の美人さんであった。ちなみに内装も外装と同じく打ちっ放しコンクリートで、広い部屋にドンっと大きいデスクがあって、その上にモニター3機と液晶タブ、キーボードが設置してあった。所謂イラストとかそういう仕事をやっている人なんだろうか。気になったので聞いてみることにした。
「あ、あの・・・・ちなみにご職業って何されてるんですか?」
「あ、まあ見ての通り絵のお仕事をしていまして・・・・・・。あ、申し遅れました!わたし、イラストレーターのふうみんこと、福井将美といいます。」
「ふうみん・・・・・ってあのふうみん先生ですか!?本当に!?」
ふうみん先生は、イラスト界隈では言わずと知れた超大御所と言われるイラストレーターの一人で、様々な有名ライトノベルの表紙や、ゲームのキャラクターデザインを手掛けているその筋では有名な人だ。
私も昔よく買ったライトノベルのイラストを描いていたのがふうみん先生で、いつもその美しいイラストにハッとさせられていたし、画集を買ってもいたので、まさかこんな形で会うことになるなんて思いもせず感激した。
「いやあ~!!先生の手掛けた作品やら画集をよく買ってたんで、本当にびっくりしてしまって・・・・・。あの、サインとか頂けますか?」
「ええ、もちろん!色紙に書いてお渡ししますよ!・・・・・・と、まあ、それもそうなんですが、先ずは、私のパジェロたち見てからにしませんか?」
「あ、そういえばそうでしたね・・・・。ぜひぜひ見せてください!」
そう言うと、じゃ、こっちに来て♪と言いながら、また廊下に一度出て、併設しているガレージの方に通された。そこには、想像にもしえなかった、凄い景色が広がっていた。
「うわあああああ・・・・・凄い・・・・・博物館かなんかみたいですねこれ・・・・・。」
「でしょ!これ、全部わたしのコレクションなの!」
胸に拳をポンっと当てて、ふうみん先生はそう言った。
ガレージ内には4台のパジェロが鎮座していて、初代パジェロの特別仕様車「ロスマンズスペシャル」、2代目パジェロのキャメルトロフィー仕様、3代目パジェロの特別仕様車「パリダカレプリカ」、4代目パジェロのファイナルエディションとパジェロファンにとっては垂涎のモデルと言われるような特別希少な個体が揃えられていた。
あまりに壮観すぎて、私は小さな声で「すげえ・・・すげえ・・・」を連発していた。下手な博物館顔負けな並びに圧倒されっぱなしだった。
「ほら、見てるだけじゃなくてドア開けて乗り込んだりとかもしていいですよ!鍵も開いてるんで!!」
と、言ってくれたので、一台ずつ触らせてもらいながら、ふうみん先生とパジェロ談義に花を咲かせていた。
そこで私は、彼女がパジェロ好きになったキッカケを聞いた。
「わたしもね、昔親がパジェロ乗ってたの。2代目中期ロングボディのスーパーエクシード。それでよくキャンプとか行って思い出を作ってるうちにパジェロがどんどん好きになっていって・・・。あと、パリダカも当時見てましたし。」
「ふうりん先生もやっぱ親が乗ってたんですね~。うちも父が2代目前期型ロングボディのVRに乗ってて・・・・。それにやっぱりパリダカもご覧になってたようですし、やっぱどこも似たような経緯辿ってるんですね~。」
「ですね(笑) あと、実は篠塚さんからも影響受けてるんですよ!」
「え?そうなんですか??」
私は少しギョッとした。
「ええ。・・・・わたし、18の時に上京してきて、昔から大好きだったイラストをずっとやり続けてきて、それは本当に夢中になれる事だったし、ずっと好きでがむしゃらにやってきて、気づいたら大きなお仕事も頂けるようになって、毎日充実してたんですけど、ある日少しスランプになって、ストレスで好きだった絵も描けなくなったりしたんです・・・・・。
そんな時、窓の外を眺めてたら駐車場に止めようとしてる篠塚さんのパジェロエボを見て、ビビっときたんです!小さい頃あれほど好きだったパジェロの事を思い出したんです!」
「ああ~、それで私の事を知ってたんですね(笑)どうりで・・・・。」
「はい!その後、回覧板にあった名前とかから、篠塚さんの事を知って、いつか話しかけようかと機会を伺ってたんですが中々なくて・・・・・。 で、まあそれから溜まってた貯金で思い切って好きなのをどんどん買いそろえていった結果がこれです(笑)」
これだけ短期間の間に、こんな台数を揃えられちゃう余裕・・・・。 ふうみん先生は一体どれだけ稼いでるんだろう、っとつい下世話な事を考えていると
「実はですね、篠塚さん・・・・。この4台の他にももう1台パジェロがあるんです。」
と、不敵な笑みを浮かべてふうみん先生が語りかけてきた。ふうみん先生が指さす方には、何やら一台ボディカバーを被った車があった。
パジェロのどのモデルだろうか・・・?なんて考えこみながら見ていると
「じゃ、ボディカバー外しちゃいますね!」
とふうみん先生はカバーをサッと取り外し、その『もう一台』が姿を現した。
眩いばかりのイエローのボディに、アヴァンギャルドな外観を纏ったこの一台は、強烈な存在感を放ちながら佇んでいた。
驚愕しながら立ち尽くしている私を見て更に満足そうにニコッとしながら、ふうりん先生はこう続けた。
「そう、もう一台のコレクションは、ドイツのAK社が2代目パジェロをベースに創り上げたコンプリートマシン、AK45マグナムですっ!」
ふうりん先生はこれまでにないくらい、エッヘンとした表情を浮かべていた。
続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます