第4話 対決!ポルシェキラー

この小説に登場する人物名、地名、団体名は実際に存在するものと一切関係ありません。


法定速度を守り、安全運転を心がけましょう。






「カッコいいでしょ、あたしのFK8。ただ派手なだけじゃなくて、空力とか冷却を最大限考えて作られたエアロパーツがお気に入りなの。 もちろん、運動性能だって抜群よ。 最高速度270キロ、ニュルブルクリンク北コースで当時のFF量産車最速の7分43秒の実力は伊達じゃないわ!」


なんてユリが誇らしげに語っている中、凛子はそれを話半分に聞き流しながらユリのFK8の観察をしていた。

フロントバンパーに付いている飛び石による傷跡、タイヤの表面の溶け具合やブレーキの状態を見て、このユリという子がどんな走りをしているのか、考えを巡らせていた。また、このFK8はチューニングもされているようで、ホイールはヨコハマのアドバンRZⅡ、タイヤは同じくヨコハマ アドバンネオバAD08Rを装着していて、マフラーも社外のものが入っているな・・・・なんて思いながらまじまじ見ていると


「・・・ってか、話聞いてる?」


「あ、うん・・。もちろんよ! そ、それにしてもマフラーとかそれなりに弄ってあるんだね!」


適当な事を言って誤魔化したが、やはり気づかれていたらしい。 ふくれっ面をして私のことをじっと見ている。


そしてふっとため息をついてから


「まあ、それなりにはね。 タイヤ&ホイールを18インチにしてネオバ履かせて、あとマフラーもJ‘sレーシングのチタンにして、知り合いのショップに頼んでコンピューターのセッティングを書き換えてもらったくらいね。ざっと400馬力は出てると思うわ。」


そう言い残すとユリは、じゃ、とりあえず30分後ね、とだけ言い残し、トイレのある方向に歩いて行ってしまった。

「(なんだ、ちょっと態度に難があるだけでなんだかんだ彼女もかなりの車好きな感じじゃないか、なのになんであんな真似を・・・)」と凛子は思った。

とりあえず、トイレも身支度も済ませてある凛子はエボXのボンネットに腰かけてコーヒーを飲んで黄昏ていると、申し訳なさそうな顔をして莉緒がこちらに来た。そして


「なんかあたしが熱くなってしまったばっかりにごめんね・・・。こんなことに巻き込んじゃって・・・。」


「別にそんな気にしなくていいよ。私も話聞いてこれはちょっとお灸据えてやらないとダメだな~と思ったしさ。それに単純にあの子の腕前も気になるしね~。」


「でも本当に大丈夫なの?あんな物騒なのと勝負なんかして・・・そこだけがどうにも心配で・・・。」


「大丈夫大丈夫!! まあ、任せときなって。」


そう言って凛子はフフっと笑ってみせた。


そして、約束の30分後、再びユリが現れ


「じゃあ、そろそろ行くわよ。さっき言った通り江戸橋JCTでスタートね。できる限り並走してスタートしましょ。」


そう言い残し、シビックの中に乗り込んだ。


そして凛子も

「それじゃあ、とりあえず行ってくるね。あ、莉緒はここで待っててもいいよ!」


「え、あ、うん・・・と・・・あ、あたしも一応後ろから付いていくから!!」


 くれぐれも無茶しないでいいからね・・・そう言って私はそのままランエボXの方へ向かった。


ランエボXの鍵を開けて乗り込んだ。そして、深呼吸を3回した。 なんてったってこうして誰かと思いきり車で勝負をする事は久しぶりだから、ちょっとばかりの緊張感と高揚感で落ち着かなくなっていたからである。そして、コーヒーを一口飲んで、眼鏡を指で押し上げた。 凛子なりの精神統一のルーティンだ。


「よし、行ってくるか。」


凛子はランエボXのエンジンスイッチを捻り、その心臓に火を入れた。 低い低音の効いたエキゾーストノートがPAに広がる。


ユリのシビックが動き出したのを確認すると、凛子もエボXのSSTをマニュアルモードに入れ、そのまま動き出した。



そして、ユリ、凛子、そして少し遅れて莉緒の車が次々とPAを後にした。


凛子は運転しながら、独り言をぼやいていた。


「パワー的にはこっちの方が40馬力上回ってるけど、車重自体は向こうの方が100㎏以上軽いし、ざっくばらんに考えても車の性能的にはほぼ同等と思ってもよさそうね・・・後はあの子がどのぐらいの腕前を持ってるか・・・そこだけね・・・・」



そこからしばらく行くと、程なくして江戸橋JCTが近づいてきた。少しずつ緊張感と高揚感が高まってきた。 ステアリングを握る手にも力が入る。上の標識を潜った所でスタートだ。 ユリはシビックのギアを2速にダウン、凛子はパドルを操作し3速にダウンして備えた。

白い2台が並走して標識に徐々に近づいていく・・・・・

200m、100m、50m・・・・・・・


潜った瞬間、2台のエキゾーストノートが、首都高に響いた。


凛子はわざとアクセルをワンテンポ遅めに踏み、ユリのシビックを先行させた。 ユリの様子を探るためだ。 そうとはいざ知らず、ユリはフヒヒヒと軽蔑したような笑いを浮かべながら走っていた。


「申し訳ないけど、このままとっととちぎらせてもらうよ。あたしも今日は早く家帰りたいしね!」


そう言いながら、ユリは3速にシフトアップしアクセルを思いきり踏んだ。


「結局あのエボの人も結局大したことなさそうね!! さあ、とっとと帰ろう!FK8!!」


C1のコーナー群をまるでダンスステップを踏むように、シビックは駆け抜けていく。


後ろにピッタリ付きながら虎視眈々と凛子は様子を見ていた。


「なるほどね・・・まあ、確かにそれなりに上手いわね。『ポルシェキラー』と呼ばれるだけの車を扱えるだけはある。・・・・でも、ステアリングの舵角はちょっと深すぎるし、ブレーキングを開始するポイント、リリースするポイント、どこか雑だし甘い・・負ける相手じゃないわ。」


凛子は、口元をキュッと締めた。


「ポルシェキラー、仕留めさせてもらうわ。」


凛子はそれまでよりペースを上げて、ユリのシビックを猛追した。


ランエボXと上手く呼吸を合わせ、無駄なくしなやかに速く駆け抜けていく凛子は、さながら名馬を従える名騎手のようだった。


バトルももうすぐ中盤に差し掛かろうという頃、なかなか後ろに突く凛子の駆るエボXを引き離せず、ユリは焦っていた。


「畜生!なんで引き離せないのよ!! こっちだってほぼマージンゼロで攻めてるっていうのに・・・・ランエボってあんなに速いの・・・? ってかあの女一体何者なのよ!? このペースに付いてこれるなんて絶対素人じゃないわ・・・。」


苛立ってきていたユリは、徐々にレコードラインを外し気味になってきていた。 感情がそのままドライビングに出てきていたのだった。


その様子を凛子は見逃さなかった。 冷静沈着なまま、シビックを抜くタイミングを探っていた。


「あの様子じゃフロントタイヤもそろそろタレてきてる頃でしょう・・・・ 銀座区間で抜きにかかるわ。」


首都高C1の銀座区間は元々川だったところを埋め立てた関係で、橋げたがそのまま残っている上に、なんとかなり角度のキツいS字カーブが連続しているという、普通の高速道路に比べて特異なところの多い首都高の中でも、極めて特徴的な区間になっている。

 

リスキーな区間ではあるが、凛子は敢えてここで勝負をかけることにした。



ユリのシビックが一瞬グラついた隙に、一つ目のS字で凛子はユリのシビックに並びかけた。


「しまった!! はらんだ隙に並びかけられた・・・っくしょおお・・・・」


ユリは顔を歪めたまま、どうにか抜かれまいとシビックを必死にコントロールしていた。しかし、この時点で完全に凛子の方に分があるのは明白だった。そして直線を過ぎ、並んだまま次のS字に入る。 ユリはタイヤを消耗しているのもあり、少し早めにブレーキングをして侵入したが、凛子はブレーキングをぎりぎりまで遅らせて飛び込み、そのまま前に出た。

ユリは激しく動揺した。今までバトルで抜かれたことなどなかったのだから。


「えっ・・・嘘っ・・・抜かれた・・・このアタシが・・・・」


凛子はルームミラー越しに見えるユリの顔を一瞬フッと笑った。


「・・・せっかくだし、ちょっと久々に『あれ』かましてみようかしら。」


そういうと次のS字コーナーに敢えてオーバースピード気味にアプローチして侵入した。


「ちょっ、あのスピードじゃ曲がりないわよ・・・ くれぐれもアタシの方につっこ・・・」


と言いかけた時だった。凛子のエボXはリアタイヤを鮮やかにスライドさせながら、最小限のカウンター量で華麗にS字を駆け抜けた。所謂慣性ドリフトと呼ばれるものだ。

凛子はしてやったりな表情を浮かべながらも、そのまま近くまで迫ったゴールの江戸橋JCTに向かってフルスロットルで駆け抜けていった。

ユリはその小さくなっていくエボXのテールランプを眺めながら、只々茫然自失としてしまった。


勝負はそのまま凛子が逃げ切り勝った。


その後、また辰巳パーキングに三人が集まった。


莉緒は結局殆どついてこれなかったようで、かなりゼエハアしていた。 無理しなくてもよかったのに~なんて、声をかけていると、ユリのシビックからドアの開く音が聞こえた。

ユリはシビックから降りると、悔しさが隠せない様子ながらも、私に


「・・・アタシの負けよ。あなた、本当に速かったわ。約束通り、ああいう勝負の掛け方はもうしないわ。」


と、言ってきた。


「別に、分かってもらえればそれでいいわよ。 でも、あなたも上手かったわ。一つ一つの動作はまだ乱雑だけど、センスはあるわ。多分私より若いだろうにここまで走れるんだから、大したもんよ。ま、今度は人様に喧嘩吹っ掛けるようなことはしないで走り屋してなさいな。」

そう言った後、じゃ、いこっかと莉緒に言ってそのまま立ち去ろうとした時、


「待って!!」


とユリが叫んだ。 そしてもじもじしながら


「その・・・あの・・・・せっかくだし、連絡先とか交換したいな・・・なんて。アタシ、上京して暫く経つけど、友達・・・というか、知り合いがあまりいなくて・・・。それに、あなたのドラテクにも凄く興味あるし・・・。もちろん、こんなことしたばかりなのにこういうこと言うのはおかしいかもしれないけど・・・・・。」


と言ってきた。


私と莉緒は顔を合わせて、フフっと笑った後、


「もちろんいいわよ!!ね、凛子」


「ええ!車好き同士、これからは仲良くしていきましょ。今度会うときはゆっくり車並べて語り合えたらいいわね。」


と言った。 ユリはよかったあ・・・本当にありがとう!と涙交じりの鼻声でそう言った。


そうして連絡先を交換した後、三人はそれぞれ帰路に着いた・・・・・・。


そして、数週間後。

志熊社長から、パジェロエボが仕上がったよ~!という連絡がきたので急いで向かった。


代車のエボXを返す時、社長がタイヤの状態を見て、随分とお楽しみだったね~なんて言われて、ヒヤッとしたが、笑って見過ごしてくれた。


そして、肝心のパジェロエボに今までつけたかったパーツ諸々が付いていた。



「まず、吸排気系はマフラーと等長フロントパイプはパドック製のやつにして、脚もビルシュタインのショックとオリジナルのスプリング、後は前後のLSDも機械式に変えたぞ。ダート競技用のタイヤ&ホイールもOZのクロノにタイヤはBFGのオールテレーンにしたぞ。あ、元々の純正ホイールとタイヤは外したのをそのまま車に乗せてあるから。あと、シートはRECAROのフルバケ、シフトもショートストローク化してある。飛び石対策プロテクションフィルムも貼ったし、アンダーガードも付けて置いたから、いつでもダートに行けるようになったぞ!」


白いボディに白のOZクロノ、そして迫力満点の新しいマフラー。ああ、なんてカッコいいんだろう。



「社長、部品の調達ありがとうございます! これでより理想の姿になりました・・・! 」


「ははっ、よかったな。 まあ、ダート競技もこれまで通り楽しんできてくれよ!」


そう言って社長はVサインをした。



私もあまりに綺麗な車だったからそのまま大事に持っとこうとは思ってたけど、やっぱり大好きなパジェロで、ダートをガンガン走ってみたかったから最低限対策をしたうえで、コンディションと走りを両立させてみた次第だ。


やはりせっかくのパジェロエボ、そのポテンシャルをフルに味わってみたい。 


パジェロエボと始まった新たな日々。これからも楽しみなことだらけだ。

 


続く。




 



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