夜桜
「ふー、疲れた」
休憩時間になりスマホを触るとシャインのアイコンの上に数字がついている。開いてみるとまだ見慣れていない可愛らしい犬の画像のアカウントから返信が来ている。
「ありがとうございます!」
「ぜひ今度お店に伺います!」
その下には可愛らしい犬がサムズアップしているスタンプが届いていた。
(律儀な子だこと…)
こちらこそありがとうと返信し、感心しながらスマホを閉じると、少し身体から疲れが取れていた気がした。
――――――――――――――――――――
遅番の日は家に帰るのが大体22時ごろになる。今の時期は桜がライトアップされており、ベランダから眺めるのが夜の日課となっている。帰りがけに寄ったコンビニで仕入れた焼き鳥数本と9%のチューハイを持ってベランダへ出る。缶を開ける爽快な音が闇に響いた。
「…お仕事お疲れ様です」
馴染みのない、だけどいつまでも聞いていたような優しい声が耳に届いた。声のする方を向くと隣の部屋との仕切りの向こうに人のいる気配がした。
「ああ、びっくりした」
「驚いてこぼしちゃったよ…」
「え!すいません!」
「迷ったんですけど声かけようかなと思って…」
「迷惑ですよね、ごめんなさい」
仕切りからひょいと顔を覗かせて申し訳なさそうにしている須藤さんが見えた。
「うそうそ!本当は何事もないよ!」
「からかってごめんね?」
「もう…ひどいです…」
頬を膨らませているが本気で怒っているようではないみたいだ。
「まさか昨日の今日で声をかけてくれるとは思わなかったよ」
「折角なら仲良くできたらなと思ったんです」
「桜を見に出てきておいて正解でした」
ぎこちない笑みを浮かべて彼女はそう言った。どうやら俺と同じように夜桜を堪能していたらしい。
「なんだか…えっと……三浦さんは話しやすいですね、服屋さんで働いてるからですかね?」
「うーん、どうだろう」
「コミュ障なりに平静を取り繕って話してるからかも」
「ぷっ…なんですかそれ」
「須藤さんが男性と話すのが苦手なのと同じで俺も女性と話すのは基本的に少し抵抗があるんだ」
「だから今も必死だよ」
「…それ絶対嘘ですよね」
「嘘ついたことありません」
「ほら、嘘つきです」
「「………………」」
一時の静寂が続いた。そしてそれは急に終わりを迎える。
「「…ぷはっ!あははは!!」」
3月の終わり、それは春という出会いの季節の訪れを告げる。隣り合うベランダで眩しいくらいに咲いている二人の笑顔。そしてそんな二人を静かに花開く桜が見守っていた。
社会人2年目、モテ期到来中!? mojya @tattun564
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。社会人2年目、モテ期到来中!?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます