荒野の讃歌
紫蛇 ノア
荒野の讃歌
陽の光がまるで焼夷弾のように身体に降りそそぎ、風がその身を嬲るように吹き荒ぶ。
荒れ果てた大地。名もなき地。住まう者など誰一人としていない。もちろん、緑生い茂る木々もない。
そう、ここは寂れた荒野。
そんな枯れ果てた地を涙で濡らす女がいた。
女は元は豪奢な晴れ着だったのだろう、所々に金糸が残っているボロボロのドレスを見に纏い、傷だらけの体を持ち上げて、声もなくただ涙していた。
視線の遠く先には、それそのときまで彼女が居たのだろう国が、城が、街が、巨人のような大きな炎に飲まれバラバラと焼け落ちている。
母は、父は、家族は既に荒れた時代の露となって消えた。
女はただ独り、その忠義心溢れる騎士によって逃がされた。
国民のクーデター。
後の時代にはよくある話であった。
どさりと絶望に押し負けたように彼女は膝をつく。
陽が傾き始めていた。
祖国が日に照らされる。
夕焼けの強い光が彼女の目に突き刺さった。それでも彼女は万物を照らす宙の彼方に存在する天球から目を離さない。
瞳が潰れてもお前だけには屈しないと、感情など持つはずもない恒星を恨みがましげに睨みあげる。
「強くあれ強くあれ
我が胸で高鳴るこの鼓動のように
いつか鳴りやむ日まで
強く気高い心でいよ
さあれば報われん
強くあれ強くあれ……」
掠れた声がその薄く開いた唇から溢れた。
焼け落ちる祖国と、眩い栄光の光を放つ銀河の王を同時にその目に写しながら、亡き父王の讃歌を口ずさむ。
細く、細く……、細く…………、細く……長く。
膝の力も無くなり、座っている力も無くなって……。彼女は屑折れ、それでも目だけは爛々と光らせ、乗っ取られた祖国を睨みつけた。
その視線に。その声音に。
慈愛と悔しさ、恨みと悲しみ。
様々な色を重ねて。
その命尽きるまで。
荒野の讃歌 紫蛇 ノア @noanasubi
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