第14話 朕の魂の演説会



決断してからはそれはもう早かった。

マリアは自分の持っているありとあらゆるコネや

金や権力を総動員して兵士や街の子分をかき集め

我が家がある森はすっかり軍のキャンプ地と化していた。いやほんと何人、、、何万人いるの??



「帝国潰しますわ!正義はわたくしにあり!勝ち馬になるなら今しかないですわ!!」



勝手な事を高らかに唄うマリアを横目に、シグマはオロオロとしながらもその目には何か力強い気持ちが篭ってるようにみえた。さすがは逃げ出したとはいえ皇子だな。俺もできる限りサポートをしてやるぞ!!



「そんな雰囲気だしても後衛には回しませんわよ?貴方は私と一緒に最前線を切り拓いてもらいますから」




またドリルが何か言ってらぁ、、、



「兵士でもない俺に最前線とか無理だから!!

すぐ死んじゃうから!!」



「大丈夫。王都でみせたあの輝かしい貴方を思い出してごらんなさい。あれから私の心が鳴り止まないんですの。あのお姿をもう一度みたい、、、という訳で前線にlet's goですわ」



「いや理由にもなってないから!!

そんなニヤニヤされた顔で言われても「良し行くぞ!」ってならないから!!絶対嘘だもん!そのニヤニヤ顔がもう嘘ついてる顔だもん!」



「観念なさい!!シグマも前線に立つのです!!

貴方だけ仲間はずれは良くないですわ!私の脇で旗持ちでもやらせますから!!」



「ふざけろドリル!!バンティス家の旗持ちなんかしたら直ぐ魔法打ち込まれて死ぬに決まってるだろ!こちとら狩が出来るくらいのほぼ一般人だぞ!!」



「ムキー!往生際の悪さは相変わらずですわね!!

私の誇り縦ロールを捌ける者が一般人なわけないですわ!!」



「いっ 痛い!止めろ!高速は止めろ!

せめて見えるスピードで、イッ!痛い!やめてぇ」



マリアに泣かされて俺も渋々前線で旗持ちをすることになった。







「皆のもの!よく集まってくださいましたわ!

私達はこれから、この世の正義を帝国に知らしめに行きますわ!これは征服ではなく奪還!悪徳を敷く皇帝を打倒し帝国に安寧を、王国との融和を実現させる為の戦い!!」



「「「オオォォォオォー!」」」



マリアの号令に周りの公爵軍に街の冒険者や元ギャング達が一斉に声を上げた。流石に迫力があり気圧されるが、マリアはウンウンと嬉しそうに頷き続けた。



「私達の元にはプレス帝国第3皇子!深紅の誇りブラッドプライドを受け継ぐシグマ・マルティスティン・パミラミ・ガナバヤタバサ・ロードラン様がいらっしゃいますわ!!深紅は勇気の血証!過酷な進軍に激しい戦いになるでしょう。しかし私達は負けることはありませんわ!!正義の名の下にシグマ様についていきますわよ!!」



「「「オオォォォオォー!オオオー!」」」



一回もシグマの事を様とか呼んだことないくせに

ここぞとばかりに神輿を担ぐマリアを見てると自然にため息がもれる。本当に大丈夫かな?



「それでは出陣まえにシグマ様に一言激励の言葉をいただきますわ!」



マリアは予定通りにシメをシグマに託した。

ガチガチに緊張したシグマの体をほぐす為か、

すれ違い様に縦ロールが目にも止まらぬ速さで

シグマのケツをはたき上げた。恐ろしく早い縦ロール、俺でなきゃ見逃しちゃうね。



ケツしばかれたシグマは一瞬間抜けな顔をしたが、

「頑張りなさい!」と俺たちだけに通じる縦ロールドリルサインを見て、少し笑ったあと皆に向けた顔は独特な威圧感と疑いようのない高貴なオーラが混じり合う皇子の顔になっていた。



さすマリ。さすマリですわ。

しかしそれで良いのか公爵令嬢?

なんかもうちょっと叩くところあったでしょ?

そんな事を考えている間にシグマが皆の前に立ち

演説を始めようとしていた。



帝国式の挨拶なのか右腕を胸に掲げて、

シグマは一息だけ息を吸った。

そのたったの一息でざわめいていた兵士達がまるで

シグマから放たれる言葉を聞き逃さないように黙り込んだ。マリアの時でさえ少しざわめいていた兵士達がだ、、、。正直驚いだぜ、、、!すげぇ!

たった一息でシグマはこの空間を支配しやがった!



「皆の者!よく集まってくれた!朕こそがプレス帝国第3皇子シグマ・マルティスティン・パミラミ・ガナバヤタバサ・ロードランその人である!!」



「「「ヴォォォオォォオ!!」」」



たった一言

張り詰めていた緊張が一気に解放された。

兵士は皆一様に声を張り上げ腕を上げる。

何故だか解らない。だが声を出さずには、腕を天に振り上げずには居られなかったんだろな。



もちろん俺も、なんならマリアも腕を振り上げていた。シグマの声にはそう言うパワーがあった。



「皆も知っているであろう帝国の今のあり様を!無辜の民を虐げ殺し、一族でも殺し合う皇族を!!誰かが変えねばならぬ!立ち上がればならぬ!恥を忍んで話そう!朕は一度逃げ出したのだ。嫌悪し恐怖し目を瞑った。胸の中で間違っていると叫ぶ声に自分可愛さで蓋をし、最も信頼する人を帝国を変えることが出来るかもしれない人を置いて逃げたのだ!そして朕は逃げた先で友に2人巡り合った。」



俺とマリアはお互いに目を合わした。




「1人は何でもかんでも物を拾ってくる変人であった。拾ってくるなと言っても拾いたいのだと言って聞かなかった」



マリアがこちらを煽るように笑っている



「1人は1人はたいそうワガママで常識知らずの者であった。考えて行動しろと言っても自分の道は自分で決めると言って聞かなかった」



俺はマリアを煽るように笑ってやった。




「朕は友と暮らし思ったのだ。この2人は自分に正直に生きていると。良くも悪くも本当に正直に生きていると。間違ってると思いながら逃げだ自分が途端に恥ずかしくなった、、、変わりたいと思った!!置いてきたあの人を救いたいと思った!!

だからこそ今言おう!!帝国は間違っている!!

皇族は間違っている!!誰も正せぬと言うのであれば朕が正す!!民を救い悪虐皇帝を玉座から引き摺り下ろして見せる!!皆のもの!!シグマ・マルティスティン・パミラミ・ガナバヤタバサ・ロードランの正義を共に示してくれぬか!!共に戦ってくれるか!!」




「「「ヴォォォオォォオ!オオォォォオォー!」」」



兵士が唸り声を上げ剣と盾を打ち鳴らし音を立てる

任せておけ!!そう言っているかのように聴こえる音にシグマはほんの少し威厳のある顔からいつもの緩い顔に戻った。良かったなシグマ。

お前の蓋した気持ちは間違ってなかったんだよ。

あぁ!王国でも出来たんだ!

やってやろうぜ帝国でも行くぜクーデター!!




「皆のもの!!出陣ッ!!」




「「「オオオオオオオオォォオ!!」」」



シグマの号令の元に俺たちの帝都攻略が始まったのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る