第12話 朕と友情の石投げ





外に飛び出していったシグマを探しに来たのは良いが一体どこに行ったんだあいつ??

川から降ってきたならこの森初めてだろうし、魔獣も出るから早めに見つけないとやばいかもな。

しかもいま夜だし、、、暗くて怖いし。



とりあえず家の前のでかい道をまっすぐ行けば川のほうに着く。そっちをまずさがしてみるか!反対側は街への道だが、メンタルブレイクされてわざわざ人の多そうな所には行かんだろう。



男はひっそりと泣きたい筈だ。



俺は魔術で光の球を出して川へ急ぐ

走れ俺、風の様に!そして川の方に光の球が浮かんでいるのを見つけた。予想が的中!

俺は運良く川で上流を見つめ黄昏ながら座っているシグマを見つけることに成功した。



広い川原にちょこんと座り、川に石を投げているシグマにどう話しかけたもんかと散々悩んでみたものの、「落ち込んでるなら何にも言わずにそっと寄り添ってやるのが1番。それは男も女も変わらないさ」と街1番のモテ男のモテオーが言っていたのを思い出しそっと寄り添ってやることにした。



そっ



「何を唐突に隣に座っているのだ、、?気持ち悪いからちんのそばから離れるのだ」



そっ



「人の話を聴いているのだ?ジリジリと寄ってくるのはやめるのだ!!ノールックで座りながら、にじり寄って来るのをやめろと言っているのだ!!」



そっ そっ ジリジリ



「や、やめるのだ、、体を押し付けて来るのをやめるのだ!!あの家は変なやつしかいないのだ!!

散々なのだ!!ドリルに変態なんて神は朕に酷い試練を与えているのだ!!」



「ちょっと待て。鬼畜ドリルには賛成だが俺が変態とはどんな了見なのか言ってみろ。事と次第によったら、、、酷いことになるぜ??」



「いきなり隣に来て、男に身体を押し当てる男が変態ではなく何と言うのか教えてほしいのだ!?

反論があるなら行ってみるのだ!!」



全く人が心配して寄り添ってやってるのにコイツは、、、男に身体押し当てる男とか変態じゃん。街なんかでやったら即刻牢屋行きのボコボコの刑だわ。ここ川でよかった。おのれモテオー!俺に嘘を教えやがったな!!しかしこの話を続けるのはあまり良くないな。 話を逸らそう。




「そんな事よりシグマ、あんまりマリアが言ったこと気にすんなよ」



「なんなのだこの人もう怖いのだ。帝国に帰りたいのだ。いや帰っても殺されるだけだから帰れないのだ、、、あんな国滅んでしまえ!!」



隣で独り言を繰り返しては川に石を投げるシグマ。何度か喋りかけてみたものの反応はあんまり良くなったので仕方なく一緒に川に石を投げることにした。



平べったい石を勢いつけて回転させながら投げると水面をピチャっと跳ねて前に進む。俺はこれが結構得意だ。やばいやってるうちに楽しくなってきた!暫く遊んでいるとシグマもこちらを真似して石を投げてピチャピチャっと上手く投げた。



結構やるじゃん。しかし見た所シグマはこの石投げは今日が初めての様だ。そのおざなりなフォームを見ればわかるぜ!!ならばこの川の主である俺の勝利は揺るがんぞ!石投げが一朝一夕では無いことを教えてやる!!



俺は研究に研究を重ねた完璧なフォームで石を投げる。光る水面を石が踊る様に跳ねてかなり遠くまで進んだ。ふぅ、こんなもんかな?

どうだいシグマ君?君にあれが出来るかな??

と俺が勝ち誇っているとシグマも石を投げた。



ダメダメ、そんなフォームじゃ全然ダメ。

少しは勝負のできる人間かとおもったが、所詮はぬるま湯育ち。トレーニングして出直してきな!!



シュ!! ピチャチャチャチャチャッ!!



「!?」



なっ!なんだと!!なぜあんなに跳ねるんだ!!

フォームは良くなかった、、、であれば、、、

そっ!そうか手首!!手首のスナップだ!!

なんてやつだ。スナップに注目するとはコイツ才能がある!



「スナップをうまく効かせるとはな、、、見所があるぜ。だが、あの跳ね力。それだけじゃないな?」



「見抜かれてしまった様なのだ。スナップと同時に指先に神経を集中させたのだ。朕は指先だけは誰にも負けないほど器用な自信があるのだ。絶妙なコントロールで石に高回転を与え跳ね力を爆発的に増大。あとはそのフォームを盗めば朕に誰も敵わないのだ!!」



「へっ!そう簡単に盗めるかよ!!逆に俺がそのスナップと指捌きを盗んでやるぜ!!」



「負けないのだ!!」



こうして俺達は夜の暗闇のなかひたすらに石を投げた。魔術の光の球の微かな明かりの中目を凝らし、どこまで跳ねたとか、こう投げた方が良いとかお互いコツを言い合って投げまくった。

石投げをする俺達2人にもう言葉は必要なかった。




シュッ パチャパチャパチャパチャパチャッ!



「やっ!やったのだ!ついに川の半分まで跳ねさせる事ができたのだ!見たか友よ!!」



「あぁ、、、見たぜ。しかと見た!やったなシグマ!!」



「こんな達成感初めてなのだ」



気づけば暗かった空が明るくなり始めていた。

石を投げ続けた結果。俺とシグマの合間に言い知れぬ友情が生まれた。シグマは俺のことを友と呼ぶ様になり「と、友達が出来たのは初めてなのだ」と頬を染めながら笑った。イケメンの癖に少し垂れ目でカワイイ系の雰囲気もあるシグマ可愛いぞ!!

ハッ!!危ない危ない。シグマのギャップに俺の心の乙女が目を覚ましてしまう所だったぜ。



「友よ、朕は考えていたのだ。これからの事やこれまでの事。朕がやらなければいけない事を。マリア嬢の言う事はもっともなのだ。それをマリア嬢の口から言わせてしまった事を、朕は謝らないといけないのだ」



「そうか。シグマがそう決めたんなら俺は応援するよ。石投げ友達だしな」



「感謝するのだ、、、じ、実は友に話したい事があるのだ。帝国から朕を逃してくれた人を朕は助けなければいけな、、」



シグマがこちらを向いて真剣な顔で何かを打ち明けてくれようとした時、澄んだ空気の中に美しくも怒気を含んだ声が響き渡った。



「あなた達こんな時間まで何をしていますの!!」



その声の主はマリアさんでした。いつも寝てる時間なのになんで起きてるんだ?



「どうしたマリア」



「どうしたもこうしたもありませんわ!!あなたにフォローをお願いして待っていれば、全く家に返って来ない!!心配になって探してみればこの川で2人で石を投げてるなんて!!」



「石投げという友情を育んでいた」



「そうなのだ!友と朕は2人の良いところを掛け合わせ、ついに川の真ん中まで石を跳ねさせれる様になったのだ!そして朕も覚悟が決まったのだ」




俺とシグマが石投げの素晴らしさを熱弁し怒っていたマリアをなだめた。俺達の熱意にマリアも「そんなに言うなら私も一つ投げてみましょうか」と言い石を選び始めた。



「石投げはそんな簡単じゃないぞマリア?」



「そうなのだ。マリア嬢、これはコツと才能と努力がいるのだ。一朝一夕ではないのだ」



「そうなんですの?とにかく勢いと回転が必要なのですよね?行きますわ!! フンッですわ!!!」



ブン!!



パチャチャチャッチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャチャ



マリアの右腕が文字通り空気を切り裂く勢いで振られ、射出された石は高速スナップの回転に任せ水面を踊り狂った。俺とシグマはその石を呆然と眺めてついに石は川の向こう側に消えていった。

マリアさん、本当マリアさんだよなぁ、、、。



「あら!結構上手にできましたわ!!見てましたか!?って2人ともどこに行きますの!!わたくしを置いていくつもりですの!?」




俺とシグマは肩を組んでマリアに背を向けた。

俺達のあの時間は無駄じゃない。だから泣くなよシグマ。えっ?俺も泣いてるって?バカ言えこれは目汁であって涙なんかじゃないやい!!



「私を置いていくなんてどう言うつもりですの!」



「ちくしょう!これで勝ったと思うなよ縦ロールドリル令嬢!!いつかギャフンと言わせてやるからな!!」



「そうなのだ!!友と朕は負けないのだ!!

首を洗って待っているのだ!!」



「なんなんですの!?不快ですわ!!不敬ですわ!!ギルティですわ!!」



マリアの縦ロールドリルの攻撃を必死に避けながら、俺とシグマは泣きながら家に帰ったのであった。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る