小鳥の鳴き声
弥生
オープニング
第1話 今日も一日
「じゃあ、誰がぶつかってきたの?」
手を挙げるよう促すが、誰ひとり反応しない。
「誰もやってないって。本当はただ落としちゃったんでしょ?」
「……ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げた。
次の日から慎重に移動した――みんなにぶつかるかもしれないから。
手助けはしなくなった――みんな他人に興味がないから。
喋らなくなった――みんな嫌いだから。
昔はよく騒いでいたなあ。平気に肩を組んで、一緒に歩いていたのに。歩くたびに友達を見つけて、共に遊んだ。元気で活発だった。
授業の鐘が鳴る。少し起立が遅かったせいで、変な人と思われたかもしれない。ところで、英語のペアワークは本当に意味があるのだろうか。読めない単語にハローをするとアイドンノーと帰ってくる。わけがわからないよ、と相手に伝えて会話が終わる。先生に説明せよと命令させられても、もじもじしている合間に次の人に当てやがる。おかげで理解度が下がり、先生にも友達にも質問できない。これだから、自称進学校はと言われるのだ。このことを考えていると、いつも腹が立ってしまう。
しかし友達がいなく、先生のことが嫌いだと、僕は自分のためだけに勉強することとなる。つまり、自分の心ゆくまでの点数さえ取れれば良いのだ。打率は三割を超えられれば強打者と呼ばれるが、勉強もそうあってほしいものだ。自由放任主義の先生は再試をするはずがない。僕の成績は、今回もナンバーワンだった。
僕は解き直しをしない派であるから、もう同じ問題が出ないことを祈ることが多い。ノートに先生の愚痴を書くことが多い。首が直角に折り曲がっている人の絵を描くことが多い。特に今日の下校中は、ゾンビであったに違いない。自分の意識に関わらず、体が防御反応として僕を発狂させた。雄叫びをあげた。行きどころのないぱんぱんの気持ちをどこに逃せばいいかわからなかった。
はっとすると、路地裏に座り込んでいた。ここでチンピラが登場してぼこぼこにされる気がした。
「………」
頭を撫でられた。指定暴力団ほげ組は頭を撫でるのだろうか。まさか、まいごの子犬のように接してくれるはずがない。
ぎゅっとされた。目の前には三人衆がいるはずなのに、自分ひとりだけのことを思って優しくされている気がした。そういえば、頭がおかしい時には暑いのに寒いことがある。今回はもはや五感のひとつまで冒されてしまったというのか。
我に返ったのは、それから十数分経ってからだと思う。てくてくと拙い足取りで自宅へと帰った。さりげなく胸ポケットに手を入れてみると、
「一緒にがん張ろう」
少し紙が濡れていた。
小鳥の鳴き声 弥生 @ccn
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