第5話


16人に増えたおれと俺たちは相談した。

今は貯金があるが、さすがに16人分の食費は限界がある。

32人ともなればなおさらだ。

それが倍々で増えれば貯金なんぞ一瞬で底をつくだろう。

それよりも増え続ける俺をどうにかせねばならない。

地球全部が俺に埋め尽くされて滅亡するのはあまりに不憫だ。

そうなる前になんとかしてもらおう。


色々考えて、なにかあっても恨みなしでいこう。

もしこれがどこかの悪の組織の何かの陰謀で社会に出た瞬間に抹殺されるかもしれない。

そう思うと恐怖しかなく一大決心になる。

せっかくの楽しそうな人生にも限界が来たと言うべきだろう。

その前に5日間、盛大に遊ぶことにした。


思い残すことにないように読みたい作品を読み食べたいものをみんなで一口ずつ食べた。

あとは作品について延々と話していた。

とくにガルパン最終章の今後の展開について語り合った。

そのまま10人ばかりの俺が落書きを始めた。おれは昔、絵を描いてたがここ数年は仕事が忙しくてほとんど描いていなかった。

数年ぶりに絵を描く楽しみを味わった。

一度に数十枚の落書きをpixivに投稿して遊んだりもした。


それにしてもガルパン最終章の2話を7回、観たあとで助かった。

もし未見であればそれぞれのおれが7回は見たいと言い張り費用がかさんでいただろう。


二日目以降は途中で止まっていて未プレイのゲームをクリアし、人生初の自分相手にTRPGのゲームマスターもやった。もっとも自分相手のゲームは考えることは、自分なのでだいたい想像がつくので若干やりにくい部分はあったが、それなりに楽しかった。

仕事にいく4人の俺の負担はとにかく減らしていくようにした。

この5日間をフルに経験したおれと俺達は幸せだった。


そしてくじ引きで選んだ一人の「俺」に当座の現金と車の鍵を渡した。

金曜日の午後に作戦を決行する。偶然にもその日は仕事が休みだったのも大きい。


おれたちは交通費節約のために徒歩である場所に向かった。

最後になるかもしれないということで散歩であるが各々が好きなコースで1時間ほど歩いた。

保険の「俺」を残して15人の俺が入り口にならんだ建物は市役所だ。

そして生活福祉課までぞろぞろと歩いていく。


代表のおれが言う。

「理由はわかりませんが分裂して倍になる体質になりました。このままでは食費が足りず生活できなくなるので生活保護を受給したいのですが」

同じ顔のおっさんが15人並んでいるのをみて受付の職員は目を回しながら言った。

「ちょ、ちょ、っとちょっとまって下さい。相談してきます」

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