第4話

だらしない下着姿のおっさんが4人、全裸のおっさんが4人、あまり良い絵面ではない。

しかしそれ以上に事態は深刻だ。


さすがに8倍に膨れ上がったおれと俺達は素直に喜ぶことができなかった。

今後の展開が予想できたからだ。

このペースで増えていくと来週には16人、再来週には32人になる。

一人の俺がスマホの電卓を立ち上げて計算する。

64人、128人、256人、512人、1024人、2048人、4096人、8192人・・・。

やばいな、これ。

脳裏に浮かんだのは敬愛する藤子・F・不二雄先生の『ドラえもん』に登場するバイバインのエピソードだ。ロケットにくくりつけられて宇宙に放り出されるおれと俺の絵面が8人の脳裏に同時に広がる。

どうする?どうしよう、という表情。

偉い先生に訊く?誰に?人間が分裂する研究なんかしてる科学者がいたらまともじゃない。

発想が古いせいか謎の研究施設に連れて行かれる可能性をおれも俺も否定できなかった。

どっちかというと行政の仕事の気もするな、これ。

さすがにおっさん8人の食費と光熱費は共同生活するにも少しやばい。

おれたちの仮説が正しければ2週間後には32人だ。

祖父の家が広くても限界がある。


一番の古株である最初の俺がいった。

「とりあえず、しばらくは俺と俺と俺と俺で仕事に行ってくる」

おれと俺の2人が事態の対策員として調べることになった。

ネットで検索したり匿名掲示板や質問箱で聞いてまわった。

残りの2人のおれは緊急時に備えて待機という名のゴロゴロ生活を続けた。

他人に怠惰に寛容なのがおれの性格である。受容大事。


とりあえず区別がつく現時点でオリジナルのおれが、当面の代表と最終決定権を担うことにする。「オレジナルだな」と俺がつぶやく。おれと俺達の失笑があたりに響いた。


とりあえず16人になるであろうタイミングで、おれがどうやって増えるのか観測することにした。

かなり基本的なことだが、今まではそんなことに無関心であったのは仕事と生活があまりに辛かったからにすぎない。


仕事行く組の半分が寝て半分が寝ないという方向で月曜の朝が来るのを待つ。

日付が変わると同時に奇跡?は起きた。


寝ている組はポンと飛び出るように、増えて4✕2の8人の俺になった。

全裸であるが、もう今後はこのへんの描写は省く。


しかし、おれも含めて寝ていない組は増えなかった。

「これで増えるのを防げる、のか?」

「安心して眠れる」

そういって眠りにつく俺。その瞬間にポンと全裸の俺が飛び出てくる。

「あー、なるほど。そういうことね」「寝ないで過ごしても、すこし延長できるだけなのね」「死ぬまで徹夜する?」「ごめん無理」


翌朝。

12人のうち4人の徹夜組の俺が倒れて16人のおれと俺たちが誕生した。

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