第2話

「なぁなぁ、今度ここ行ってみないか?」

高校の仲良しグループ六人でファストフード店で話している時に、直人が突然言い出した。

「この間知ったんだけど、ここってこの町から結構近いみたいなんだ。来週から夏休みだし、皆で行ってみようぜ」

携帯の画面を俺達の真ん中に置いた。

そこには『#宇野橋うのばしの恐怖』と書かれたSNSのタイムラインが表示されていた。

「これ、どこ?」

「多分あの山」

好奇心旺盛な佳奈の問いに直人が指さして答えた先は、このあたりで一番高い山だった。

きのこや山菜がよく採れるとこのあたりでは有名な山で、毎年遭難者や行方不明者、最悪だと死者が出る山でもあった。

「多分ってどういうこと?」

少し勝気な五十鈴が直人に問うた。

「詳細な情報がないんだよ。あの山っていうことしか情報が分からなくて、細かい位置までは把握できてない」

「それじゃ、どこに行っていいか分かんないじゃん。それで『皆で行こうぜ』とかよく言えるわ」

「仕方ねぇじゃん。心霊スポットなんだから」

俺達を取り巻く空気が半分冷え、半分熱くなった。

「ちょっとその話聞かせてよっ」

「さっさと詳しく話しなさい」

佳奈と五十鈴は前のめりになって直人から詳細を聞こうとする。

「や、やめようよ」

「馬鹿馬鹿しい。非現実的過ぎる」

心根が優しく、控えめな性格の雪乃と現実主義者の透が直人に詳細を語らせまいとする。

正直俺自身もこういう類の話は苦手だから遠慮したい。

「じゃぁ、二人はこっちに来て」

今にも泣きそうな雪乃を見て、直人は佳奈と五十鈴を連れて席を立つ。

それに従うように二人も席を立ち、少し離れた所で話を始めた。

「やだな…行きたくない…」

「行く必要ないよ、雪乃」

「透君…」

雪乃と透は付き合っている。

一見相反する二人だが、だからこそ惹かれ合ったのかもしれない。

か弱い雪乃を支えるしっかり者の透。

理想的なカップルだった。

「いやぁ~、ぜひとも行きたいね」

佳奈が満足そうな笑顔で戻ってきた。

「かなり興味あるわ」

五十鈴も満更ではなさそうだ。

「涼も話だけでも聞いてみるといいよ」

「結構面白い話だよ」

「聞きたいなら話すけど?」

佳奈、五十鈴、直人が俺が拒絶しないのをいいことに迫ってくる。

「俺もそういう話苦手だから、聞かないでおくよ」

「なぁ~んだ、つまんない」

佳奈は玩具を買ってくれなかった子供みたいに頬をぷぅと膨らませて拗ねている。

「それでいつ行く?」

五十鈴はすぐにでも行きたいようで、もう日程を組もうとしている。

このグループでリーダー的存在なだけある。

「ちょっと待てっ!俺と雪乃は行かないからな」

「そんなこと言わずに行こうよ」

「わ、私は行きたくない…」

「自然のおばけ屋敷みたいなものだから一緒に行こうよ」

「でも…」

「大丈夫だよ。透はこういうの信じないし、怖くないはずだから、守ってもらえばいいよ」

「そりゃ俺は信じてないし、怖くないけど…」

「雪乃のこと守ってやれないっていうの?」

「そんなことない」

「なら決まりね」

売り言葉に買い言葉。

まんまと五十鈴の言葉に乗せられてしまって、結局雪乃も透も参加することになった。

最悪なことに、ここで『俺は行かない』と言える雰囲気ではなくなってしまったため、必然と俺も行くことになってしまった。

「夏休み入ってすぐだと宿題とかあるし、お盆は皆家の用事があると思うから、八月二十日とかどう?」

「いいよ」

「了解」

「分かった…」

「仕方ない」

「予定空けておく」

「決まりね」

皆携帯を出してスケジュールに入力している。

「直人、ちゃんと宿題終わらせておいてよ」

「分かってるって」

「そう言いながらいつも透や涼のを写しているじゃない」

「間に合わないんだから仕方ないだろう」

「仕方なくなんかないわよ」

やいやいと直人と五十鈴のやり取りが続いている。

俺を含めた他のメンバーはいつもの二人のやり取りが始まったと共に、各々ポテトを食べたり、ジュースを飲んだり、携帯を見ていたりして、事が終わるのを待った。

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