0章 第2話 ここは王都の冒険者ギルドらしい


「眩しい!!」


 僕はじいちゃんに罵声を飛ばした後、目を開けられないほどの光に飲まれ、目を閉じた。


 暫くすると、光が止んだのか、目を開ける事が出来た。

 目を開けると、見た事のない暗い部屋の真ん中で立っていた。

 部屋には、薄明かりを放つ魔宝玉。これは、室内を照らす魔宝玉だろう。

 室内を照らす魔宝玉は、小さな魔力でも使えるのだが、魔力の全くない僕には使う事は出来ない。


 目が暗さに慣れてきて、部屋を見回す。

 僕の足元には薄っすら光る魔法陣がある。これが転移魔法陣なのだろう。

 この部屋には、魔法陣以外には、魔法陣を囲むように置かれた、照明用の魔宝玉があるくらいだ。


「殺風景な部屋だなぁ……」


 この部屋には、僕しかいない。

 クジ引きの様な、鬱陶しい方法で、勝手に転送して来たのだから、出迎えくらいはあってもいいと思うんだけど?

 ……まぁ、いいか。


「どこか、出口はないのかな?」


 僕が、周りを見ると、とても頑丈そうな扉がある。

 まるで、封印・・されているようだ。

 ……開くかな?

 僕は扉を押してみる。……が、びくともしない。


「開かないか……」


 当然といえば当然なのだが、カギは外側からかけられている。

 マジか……。転送されていきなり締め出しか……。

 大声出したら聞こえるかな?


「誰か―!! この部屋に閉じ込められているんですけどー!!」

 

 …………。


 反応は無いか……。


 ここが地下ならば、僕の声が届かないのも分かる……。というよりも、このまま気付かれないと、僕は餓死してしまうんだが……。

 それは嫌だ……。


「開けてー!! ここに閉じ込められているよー!!」


 何度叫んでも、反応はない。


 このままでは餓死してしまう……。何とか出ないと……。

 むぅ……。この扉、壊せるかなぁ? 

 僕は、扉を少し叩いてみる。

 軽い音だな。

 これなら蹴破れるかな?

 僕は軽く蹴ってみる。


 ……ゴン!!


 扉が凹んだ。

 これなら、破壊できそうだ。

 僕は助走をつけて扉を蹴る。


 ドゴォオオオオオオオオン!!


 大きな音をたてて、扉が開いた。


「良かった……。これで餓死は回避できる」


 部屋から出てみると、廊下は薄暗く、まるで地下牢獄のように見えた。

 まぁ、地下牢獄なんて見た事ないんだけどね。


「さて……誰かいるかな?」


 僕は廊下を歩く。

 しかし、こんなに長い廊下なのに、光の一つもないなんて、転送されてきた人をどう思っているんだろうか?

 扉が脆く・・なかったら、本当に餓死していたのかもしれない。

 そう考えると、このクジ引きシステムは本当に恐ろしいものだと思う。

 暫く歩いていると、前方から明かりを持った何かが近付いてきた。

 暗さにも慣れてきたし、目を細めれば見えるかな?

 

 んー。

 女の人と筋肉だるま?


 僕は明かりが近付いてくるのを待つ。

 あっちから近付いてくるのに、僕からわざわざ近付く必要もないからね。

 

 立ち止まって少し待つと、遠目で見えた通り、綺麗な女の人と、筋肉だるまのおじさんがやって来た。


「お、女の子!? どうしてここにいるの!?」


 女の人は、僕を見て驚いている。

 クジ引きみたいな、ランダム要素の高い方法で勇者を集めているのなら、こういう事態を想定するものだと、僕は思うな。


「こんにちわ」

「あ、こんにちわ。お嬢ちゃんはどうしてこんな所にいるの?」


 どうして? って、下らないクジ引きを引いた事くらい、分かると思うんだけど……。

 ん? 筋肉だるまが、僕の出てきた部屋を見に行くようだ。

 あ!! 扉を壊した事を、怒られるかなぁ?

 嫌だなぁ……。

 

 女の人は、僕を落ち着かせようとしているのか、優しい言葉を使って、僕を宥めようとしている。

 この人には、僕が恐怖で怯えているように見えるのだろうか? 

 ……体が震えているね。怒られると思って怯えてるよ? それが何か?

 暫くすると、筋肉だるまが帰ってくる。


「り、リリアンさん。勇者の間の扉が破壊されています!!」


 あ、はい。壊したのは僕です。ごめんなさい。


「な!? 嘘でしょ?」


 え? どうして驚いているの?

 あれくらいの脆い扉なんて、簡単に壊せるでしょ?

 女の人は、ちょっとだけひくついた笑顔で、僕に問いかけてくる。


「ね、ねぇ。お嬢ちゃん、どうやってここに来たの?」


 どうやってって……。

 そんな事、普通はわかると思うんだけど?

 はぁ……。僕の口から言わなきゃダメなの?


「クジ引き引いたら、ここに転送されてきたんだけど? 王国が勇者を選ぶためにクジ引きを引かせているんじゃないの? 無理やり連れてきたにもかかわらず、あんな部屋に閉じ込めるなんて酷くない?」


 うん。こうやって、逆に相手に罪悪感を植え付けて、僕の罪を忘れて貰おう。


「え? 今なんて言ったの? クジ引きで選ばれた? ゲイルさん。上から勇者が転移されてくるといった報告はあったかしら?」


 筋肉だるまはゲイルというのか……。


「いえ。ありませんね。もしかして、アレじゃないんですか?」

「アレか……」


 アレ? アレってなんだろう?


「ねぇ。お嬢ちゃん。私についてきてくれない?」


 まぁ、このままここにいても仕方が無いから、僕は素直に頷く。


 僕が連れてこられたのは、冒険者ギルドの受付の奥にある応接間。そこで僕への尋問が始まった。

 まずは、女の人が自己紹介をしてくる。


「さて、私は冒険者ギルドのサブマスター・リリアンよ。お嬢ちゃんの名前と年齢は?」


 明るいところで見ると、本当に美人な人だ。緑色のサラサラの髪の毛が美人さんをさらに引き立てている。

 目は少したれ目だけど、芯は強そうな目をしている。

 一番の注目点は、胸が大きい。これは、嫉妬してしまうくらい大きい。

 それに比べて、僕は貧乳だ。

 ……悔しい。

 おっと、容姿に対して考えている場合いじゃない。ちゃんと答えないと。


「僕の名前はみつき。年齢は十六歳」


 僕の年齢を言うと、リリアンさんは驚く。

 はいはい。僕はどうせ背も低いし、年齢よりも幼く見られますよーっだ。


「十六歳!? もう少し幼いのかと思ったわ……。で? 出身はどこ?」


 ハッキリ、幼いと言われた。……ハッキリいわれると、傷つく。

 しかし、出身か……。あの村って名前あったけ?

 うーん。考えても名前が出てこないなぁ……。

 そう言えば、王都の人達が勝手に名付けていると言っていたなぁ。何て名前だっけか?

 えっと……。あ! 思い出した。


「出身は名もない村なんだけど、ここは王都なんだよね?」

「え? あ、そうよ。ここはアロン王国の王都『ナイトハルト』よ」


 王都の名前はナイトハルトと呼ぶのか……。

 リリアンさんに詳しく聞くと、初代国王の名前だそうだ。


「えっと、王都の人は、僕達の村をこう呼んでいると聞いた事があるよ」



『絶望の村』と呼んでいると……。

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