クジ引きで選ばれた勇者
ふるか162号
0章 第1話 クジ引き
ここは、アロン王国の領土の一番端にある村。
この村は魔大陸という魔王が支配する島に存在して、アロン王国の国民からは、この村の住民は全滅しているか、魔族に支配されていると思われていた。
しかし、現実にはこの村は平和そのもので、魔族の支配とは縁遠い程、長閑な村だった。
「みつきー!! みつきはいるかー!?」
「なに? うるさいなぁ……」
僕はみつき。
この名もない村で生まれた、ただの村娘だ。
僕はこの村の村長の孫娘で、僕のじいちゃんはいい歳こいて、勇者に憧れる勇者馬鹿だ。
「みつき!! お爺様に対してうるさいとは何様じゃ!!」
じいちゃんは、なぜか小汚い箱を持っている。
なに? ゴミはゴミ箱に捨ててよ。もうボケたの?
じいちゃんの体は、60代とは思えないくらい筋肉だるまで大きい。
僕もじいちゃんと何度か喧嘩をしているが、剣を使ってようやく互角に戦えるくらいだ。
純粋な殴り合いの喧嘩では、勝てるわけがない。
そんなじいちゃんが気持ち悪い顔でゴミを持っている。
「んで、なに? ゴミはゴミ箱に捨ててね。ゴミ箱はあっちだよ」
「いや、これはゴミではないぞ?」
「ゴミじゃなかったら何? この汚い箱」
本当に見た目汚いんだけど……。
「これは勇者を選ぶクジ引きじゃ!!」
「は?」
クジ引き? 何の?
「お前も知っているじゃろう?、アロン王国では勇者を選ぶのにクジ引きで決めるのを!!」
あぁ……。聞いた事はあるけど、あんなの所詮、馬鹿な噂でしょ?
これがそうとでも言うの? バカバカしい……。
そもそもね、勇者を決めるような、素晴らしい(笑)クジ引きが、こんな汚らしい箱なわけがないでしょう?
……でも、ここで否定すると、じいちゃん拗ねるよね。
ここは話を合わしておくかな……。
「知ってはいるけど……。もしかして、その箱がクジ引きなの?」
「そうじゃ。今朝起きたら枕元に置いてあった。これは間違いない!!」
ちょっと待って。
そんな汚い箱が枕元に会ったのなら、怒る事はあっても、クジ引きだと喜ぶ事はないよ?
僕なら、マジで怒って、犯人を見つけるけどね。
「はぁ? そんなの誰かのいたずらに決まってんじゃん。じいちゃん、そんなの信じているの? そもそも、国のお偉いさんがクジ引きなんて方法で勇者を選ぶわけないじゃん」
常識で考えたら当たり前だよね。
国がそんなランダムに勇者を作ってたら、悪人が勇者になるかもしれないじゃないか。
「むぅ。しかし、本物かもしれないじゃないか……」
60代の筋肉ムキムキが、泣きそうな顔をしないでよ。別の意味で悲しくなるじゃないか。
ふぅ……。
じいちゃんは頑固だからなぁ……。
「なら、引いてみれば? じいちゃんが勇者ならば、きっと当たるはずだよ」
僕がそう言うと、じいちゃんの顔が明るくなる。
どれだけ勇者になりたいんだか……。
「そうじゃのぉ。どれ、一つ引いてみるとしよう」
じいちゃんは汚い箱に手を入れる。
うん。
これが終わったら、じいちゃんにはしっかり手を洗わせて、この箱は捨てよう。
じいちゃんは、箱の中をがさがさと漁っている。結構クジが入っているのかな?
いたずらにしては、手を込んでるな。
「これじゃあああああああ!!」
じいちゃんは、大声をあげて手を挙げた。
「じいちゃん。うるさい!!」
僕はじいちゃんの頭を叩く。まぁ、全く効いた様子がないけど。
「ハズレじゃぁああああああ!!」
じいちゃんは、泣きながら膝から崩れ落ちていく。
そ、そこまで、ショックを受けるようなものか?
僕はじいちゃんを慰めてあげようと思ったのだが、じいちゃんの口から信じられない言葉が出て来た。
「みつき。お前も引いてみるが良い」
はぁ? 僕がなんで、こんな小汚い箱に手を突っ込まなきゃいけないのさ。
「ヤダ!! なんで僕が、こんな下らないいたずらに付き合わなきゃいけないのさ?」
僕はあからさまに嫌そうな顔をする。
すると爺ちゃんが僕の腕を掴む。
「離せ」
「嫌じゃ。お前はクジを引くんじゃ!!」
僕は腕を振り払おうとするけど、僕の力じゃじいちゃんの腕を振り払えない。
い、嫌だ。こんな汚い箱に手を突っ込みたくない。
しかし、じいちゃんの力で無理やり箱に手を入れられる。
「お前はワシの孫娘じゃ。まぁ、引いてみろ!!」
「ぎゃああああ!! きたないぃいいいい!!」
ちゃっちゃと適当に引いてこの箱から手を出そう!!
「これでいいよ!!」
僕が引いたクジは銀色に光っている。
え? 光る?
なに? 何か書いてある……。
アタリ
「え? アタリ? え? え?」
ちょっと待って? アタリって書いてあるんですけど?
じいちゃんの顔が笑顔になっているんですけど?
「ちょ……何か光ってるんだけど?」
僕の体が、なぜか光っているんだけど?
ちょ……。いきなり連れていかれるの?
「まさか、本物じゃったのか?」
あんた、今「まさか」とか言ったか? もしかして疑ってたのか!?
じいちゃんの気持ち悪い笑顔が更にきつくなる。
殴りたい……けれど、今はそれどころじゃない!!
「ちょ、ちょっと!! じいちゃん助けて!!」
僕が助けを求めると、じいちゃんは少しだけ僕に近付く。
「みつき!!」
た、助けてくれるの? 僕はじいちゃんの可愛い孫だよ? 当然、助けてくれるよね?
「じいちゃん!!」
「頑張って、立派な勇者になるんじゃ!!」
あぁ……。
なんて良い笑顔で笑うんだろう……。
ムカつくぅ――――――――!!!!
「このクソジジイ覚えてろよ――――――!!」
僕は叫びはじじいに届く事はなかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます