第1138話 ボスワイバーンとの会話



「ガァ!? ガァウガァゥ!」


 俺の言葉に、ボスワイバーンは本当に敵意がないと言うように吠える……抗議するような声音だったから、多分だけど。

 当たっていたら、本当にこちらの言葉はほとんど理解しているみたいだね。


「それじゃ行くのだわ。変に抵抗せずに、受け入れるのだわ。面倒だから、抵抗されたら繋げられないのだわ。もし繋げなければ……隠している敵意ありと判断するのだわ」

「ガ!? ガァ……ガァゥ……」

「項垂れちゃった……」

「観念したようだわ。さてそれじゃ……だわぁ」


 エルサから、魔力が流れて行くような感覚……それがボスワイバーンに接触し、体内へと入って行く。

 細い糸のようなもので、エルサからボスワイバーン、ボスワイバーンからエルサ、双方向に魔力が流れ始める。

 探知魔法を使っていないのに、なんとなく感覚でとらえられるのは、俺がエルサと契約して繋がっており、エルサが使っている魔力も俺から流れたものが多いからだろうか。


「成功したのだわ。ふむ、本当に敵意はないようなのだわ」

「そうなんだ。えっとそれじゃ……とりあえずよろしく?」

『ヨ、ヨロシクオネガイスル。ソラノハシャヨ』

「お?」


 成功したからか、ホッとしたような雰囲気のエルサ。

 考えも流れて来るらしいから、ボスワイバーンには本当に隠している敵意とかはないようだ。

 まずは試しにと、声を掛けたらボスワイバーンの口から言葉が聞こえた……いや、さっきまでのような「ガァゥ!」とかって吠える声も聞こえるから、二重音声みたいになっているけど。


 片言というか、おぼつかない言葉に聞こえるのは、エルサが言っていた完全じゃないからか。

 って、ソラノハシャって……空の覇者とか? どういう事?


「空の覇者って……もしかして俺やエルサの事?」

『モチロンデ、ゴザイデス。ワレラ、ワイバーンヲ、カンタンニ、ホンロウデキル、アナタガタハ、ソラノハシャ、トイウニ、フサワシイ……トオモイ、デス』


 若干言葉の端々が怪しかったり、途切れているわけじゃないけど何度も区切っているように聞こえるのは、通訳が完全じゃないからだろう。

 それにしても、空の覇者って……英雄に続いて、また変な称号とか呼び方をされてしまっている。


「空の覇者って言われても、飛んでいたのはエルサだし……俺は飛べないからなぁ……エルサの方が相応しいかな? ドラゴンだし」

「ふふん、まんざらでもないのだわー。やっぱり空中戦闘機動が良かったのだわー。もっと磨きをかけるのだわ」

「いや、あれは俺が酔っちゃうから、もう止めて欲しいんだけど……」


 エルサは空の覇者と呼ばれる事に対して、まんざらでもないらしく、俺の頭にくっ付いたままでも誇らし気にしている様子がよくわかった。

 ボスワイバーンの方も、あの空中戦闘機動を見て空の覇者と言い出したのかもしれないけど……せめて俺が乗っている時は止めて欲しい。

 磨きがかかってしまったら、今度は空で込み上げる物を抑えられなくなるかもしれないし。

 そうなったら、俺は空の覇者ではなく空の汚者だ……内容物をまき散らしながら華麗に空を飛び回る、なんて嫌すぎる。


「とにかく、呼び方はともかく……俺達はボスワイバーンの仲間を散々倒したけど……」


 これは聞いておかないといけない事の一つだ。

 ボスワイバーンが何を考えているのかはこれから聞くとして、仲間を倒した仇! とか急に考えられても面倒だからね。


『アイツラハ、タダヨワカッタ。ソシテ、ソラノハシャニ、マケタ。ワタシ、ハ、トウリョウ、トシテ、ノコッタナカマ、ヲ、マモラネバナラナイ、デス。ヨワイモノハ、トウタサレ、ツヨイモノガ、ノコル。タダソレダケ、ノコトデスマス。アノママ、ダト、ミンナヤラレテ、イタ。カラ、ニゲルノモ、タタカウノモ、アキラメタノ、マス』


 えーっと……つまり、俺達にやられた仲間は弱かっただけで、恨みに思ったりはしないって事かな。

 でも頭領、ワイバーン達のリーダーとして、残った者達を全て倒させるわけにはいかなかった。

 とかそういう感じかな? 片言だし繋がっていなかったりよくわからない部分もある気もするけど、それがエルサの言っていた完全な通訳ではないって事なんだろう。

 ある程度言っている事がわかるだけでも、大助かりだけども。


 とにかく、魔物としてワイバーンとして、弱肉強食的にやられた仲間の事は仕方ない。

 気にしている様子もないし、本当に気にしていないけど、リーダーとしては全滅させないように俺達と戦わずに降伏するのを選んだってとこか。

 まぁ逃げるワイバーンは追いかけて倒したし、襲い掛かって来るのも当然倒した。

 ボスワイバーンとしては、俺達が退却を考えていた事なんて知る由もないし、もう降参するしかないって思ったんだろう。


 ……逃げる相手も容赦せず追いかけて倒してとか、俺達って結構魔物から見たら残酷な相手なんだろうなぁ。

 まぁ、魔物の方も基本手には容赦なく襲って来るし、今更だけど。


「それじゃ、仲間の仇討とかを考えていないのはわかった。あとは……」


 そうして、不完全な通訳ながらなんとか意思疎通を図り、色々とワイバーン側の事情を聞いて行く。

 一番はまず、どうして魔物達を集めていたのかという事や、それを支持した人間の事などだ。

 とは言っても、ワイバーン達は皆気付いたら俺がアマリーラさん達と捜索しに入った、センテ北側の洞窟で目を覚まし、魔力の縛りで人間の言う事に逆らえなかったらしく、詳しい事まではわかっていなかったみたいだ。

 ……魔力の縛りというのは、多分核から復元する時に施されていた何かだろう。


 それで、疑う事どころか反抗する事もできず、諾々と魔物を運ぶ作業などをしていたと。

 ちなみに、センテ南に魔物の死骸を放り込む事も支持されてやっていたらしい……それでも一部では食べ物にありつけるため、ワイバーンの中では喜ばれている部分もあったとか。


「でも、その指示していた人間はもういない……はず。それなのになんで魔物を運んでいたんだ?」


 エルサから聞いた話だと、魔物達がセンテを囲んだ時点で指示を出していた人物達は亡くなっていた。

 新しく指示を出す人間がいない状態なのに、魔物を運ぶ作業を続けていたのはどうしてだろう?


『マモノヲツカマエテ、ハコベ。テイコウシナイ、マモノガイルカラ、ソレヲハコベ、トダケイワレテイタ』

「つまり、指示した人間がいなくなっても、一度下した命令は有効って事か」


 まぁ、センテを囲む魔物達が一切引く様子を見せないから、わかっていた事か。

 核から復元した時、指示に従うような何かを魔力の中に仕込んだってところだろう……モリーツさんが話していた時には、一部の人間を襲わないようにというくらいだったけど、そこから発展させたのかもしれない。

 多分だけど、復元するための魔力を注ぐ事に関わった人には、強制的に従うって事かな。


 聞いてみると、ボスワイバーン自身にもよくわからないけど、とにかく従わなければ……と考えてしまうようになるらしい。

 ただ、魔力的な繋がりがあるのか、指示ができる人間がもういないって事もわかるらしいけど――。



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