第1137話 敵意を感じないボスワイバーン
ボスワイバーンに映えている小さな角、他のワイバーンで額に角が生えているのは見た事がない。
もし角がこの群れ? のボスだという証明なら指揮官とも言えるわけで……指揮官機?
なんとなく頭の中で、量産機とは違うカラーリングに指揮官を示す通信機能を強化する角を持った、ロボットが浮かんだ。
うん、どうでもいいね俺の逸れた思考。
「……えっと、さっきは頭を下げていたけど、こちらと戦う意思がない……という事でいいのかな?」
「ガァッ! ガァガァウ!」
さっきよりも激しく首を縦に振るボスワイバーン。
肯定って事だろう。
「それじゃ、私達に襲い掛かってきたワイバーンは、どう説明を付けるのだわ? 危うく怪我をするところだったのだわ! どうやって償うのだわ!」
「ガァッ!? ガ、ガァゥ……」
威嚇するように口を開けながら、ボスワイバーンに向かって言い放つエルサ。
償うとかなんだとか、当たり屋か!
ボスワイバーンは口を大きく開けて驚いた後、力なく項垂れて体を震わせている……怯えさせてしまったじゃないか。
というか、先に戦闘を仕掛けたのは、俺達の方なのに……。
ん? そういえば、ワイバーン達は恐慌状態になって反撃なのか、襲い掛かって来るのもいたけど、基本的に逃げようとしている方が多かったっけ。
「もしかして、最初から戦う意思はなかった?」
「ガァッ、ガァウガァウ!」
俺からの問いかけに、何度も頷くボスワイバーン……そろそろ、首が取れるんじゃないかってくらい勢いがある。
「これは、早まったかな?」
このワイバーンが、魔物を運んでいたのは確かだろうけど……ワイバーンに戦う意思がなかったのなら、俺がここまで来て戦闘を仕掛ける意味はあまりなかったかもしれない。
サマナースケルトンがもういない以上、魔物を集める速度はかなり遅くなるからね。
それに、危惧していたセンテの空から襲撃されたら、という事もないわけだし。
……信じていいのかわからないけど、ボスワイバーンの意思が本当なら放っておいても良かったのかもしれない。
ここに来る前にエルサから聞いた話によると、指示を出していた人物達も、もういないみたいだし。
改めて別の命令をする人物がいない以上、魔物を集める以外の事はしないのかも。
「と、とりあえず地上に降りようか。こうして飛んでいても、エルサの魔力を消費するだけだから。詳しく話が聞く……はできないけど。でも、こちらからの一方通行でも、話しをしておかないと」
頷くという意思表示ができるし、肯定と否定ができるなら少しくらいは話せるだろうし。
「ガァゥ。ガァァァァウ!!」
「GYAGYA!?」
「GRUUUA!」
俺の言葉に頷いたボスワイバーンは、体をクルっと後ろに向けて、他のワイバーン達に伝達するように吠えた。
なんだか、ワイバーン達から驚いている様子が伝わって来る気がするけど、何を言っているのかは当然わからない。
でも、ボスワイバーンにはおとなしく従うようになっているのか、他のワイバーン達が次々に地上へと降りて行った。
うぅむ、本当に戦う意思はないみたいだね……。
一旦地上に降り……もう一度エルサに乗って少しだけ場所を移動してから、ボスワイバーンと向かい合う。
真っ直ぐ降りたら、地面の上で俺やエルサが倒したワイバーンだらけだったからね。
バラバラになっているワイバーンもいたし、そこらに血やら破片やらがまき散らされていたから、さすがに落ち着けない。
しかし……ボスワイバーンも他のワイバーンも、仲間がそんなにやられている場所なのに、特に気にした様子はなかった。
ボスワイバーンに従っている様子を見れば、仲間なのは間違いないはずなんだけど……。
もしかして、魔物だから仲間がやられている姿を嫌ったりとか、そんな感覚はないのだろうか?
だとしたら人間とは価値観が違うかもしれないし、そこは注意しておかないといけないと思う。
いや、人間でも仲間をどうとも思っていないのだっているけどね……帝国の組織とか。
「さて、ここなら落ち着けそうだから……というかもうリラックスしているのもいるけど」
「ガァッ!」
「GRA!?」
「GURUU……」
場所を移して、ワイバーンが逃げたり何かを仕掛ける事がないよう、警戒しつつ開けた場所で落ち着く。
森の中とかだと、木の陰に隠れて何かされるかもしれないから……さすがに、まだ完全に信じたわけじゃない。
でも、そんな俺の警戒心をあざ笑うように、数体のワイバーンは地上に降りた後地面に転がって寝ようとしたり、穴を掘って遊び始めたりしているのがいた。
俺がそちらに視線をチラッと向けると、ボスワイバーンが叱るように吠え、ワイバーン達が項垂れた。
うん、まぁ、特に変な事をしないのなら寝ているくらいは、気にしないんだけどね……。
さすがに穴掘りは……エルサが睨んでいるけど。
「さて、話をと思ったけど……何を話そうか?」
「考えていなかったのだわ? リクが降りろって言ったのにだわ」
「そう言われてもね……なんか、拍子抜けしちゃって。それに、向こうの言葉は当然わからないし、改めて考えるとどう話したらいいのかなって……」
さぁいざ話を、と構えてみると何を話していいのか迷ってしまった。
聞きたい事があるはずなんだけど……通じるか微妙だし、双方向で意思の疎通ができないから難しい事は聞けないからね。
エルサからは、呆れたように言われてしまう。
「まったくリクは。はぁっ……仕方ないのだわ……」
盛大な溜め息を吐いたエルサ。
いつでも飛べるように俺の隣にいるんだけど、みるみるうちに小さくなって俺の頭にドッキングした。
「エルサ……?」
「魔力節約なのだわ。小さくなっていればほとんど魔力を使わないし、リクからもまだ少し魔力が来ているのだわ。だから、私が通訳するのだわ」
「通訳?」
大きくなっているより、小さい方が魔力消費が少ないのは当然ながら、俺からの魔力が少ないとはいっても流れているので少量ながら回復できるんだろう。
俺も魔力を使わずに節約しないとと思い、頭にくっ付いているエルサに聞きながら、剣を鞘に納めた。
……斬れ味抜群、丈夫で刃こぼれをしない頼もしい剣だけど、抜いているだけで魔力を消費する仕様だからね。
「契約と少し似ているのだけどだわ、私とそこのワイバーンとの魔力を少しだけ繋げるのだわ。そうする事で、完全じゃないけどある程度言っている事や考えている事がわかるのだわ。魔力も使うし、相手が受け入れないといけないからあまり使う機会がないし、あまり使いたくなかったのだわ」
「へぇ~そんな事が……相手が受け入れるか。それなら、エルサが通訳できればボスワイバーンが本当に敵意がないかとかもわかるか」
エルサと俺の契約は、魔力が繋がっているから考えや記憶なんかも繋がっている……らしい。
まぁ、エルサに魔力が流れるばかりだから、俺はエルサの記憶とかは流れて来ないんだけど。
ともかく、それなら俺達への敵意や企みを本当に隠していないかどうかもわかるはず。
向かい合って、こちらを害する気配があるかどうかがなんとなくわかるようになって来ているんだけど、それも完全じゃないからね――。
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