第1130話 魔物殲滅プラスアルファ完了



 四大元素のスピリットの力が発揮された後の地上。

 元は草原、踏み荒らされていたはずの草花はフレイちゃんの火によって燃えたのはわかるけど、魔物の死骸すら一つもない。

 ただ、リネルトさんが言っているように、何も残っていない地面は荒れ果てた様子はなく、むしろ整備されているようにすら見えた。


 つまりウォーさんの役目は、魔物を倒すのではなく倒した後の後片付けって事か。

 まぁ、今回はそうだっただけで、戦闘もできるんだろうけど……むしろ、勢いのある喋り方や性格からは、そちらの方が得意そうですらある。


「さすが、見事だわね。それじゃ、元に戻すわね~……あらぁ?」

「どうしたんだ、アース?」

「うーん、少し面白いのを見つけたのよね。多分だけど、これが魔物達が大量にいた原因だと思うのよ。私達が呼び出される事はないと思うけど……あまり気持ちのいい物じゃないわね」

「アースも気付きましたか」


 アーちゃんが舞台に向かって手をかざすと、ズズズ……という音と共に沈んでいた舞台や、囲んでいた穴に突然土が現れて完全に覆われ、何事もなかったかのように塞がれた。

 さすがに、なくなった草花は元に戻っておらず、周辺の景色と比べてそこだけぽっかり土の地面が見えているけど……広範囲なので空から見なければ、特に気になる事はなさそうだ。

 土の状態も悪くなさそうだし、しばらく放っておいたら元に戻るだろう。

 それはともかく、巨大な顔を横に倒して首を傾げるアーちゃん。


 ウォーさんの問いかけに、困ったように返していた……土でできた顔だからか、表情の違いはないけど声の感じからなんとなくね。

 ウィンさんは、アーちゃんの言葉に訳知り顔で頷いた。


「チチー?」

「フレイムもわかんねぇか、俺もわかんねぇんだが……」

「私は大地でもあるから、遠くの事までわかるのよね」

「風も似たようなものです。広範囲に広がっているので。まぁ、取るに足らない存在ですから無視してもいいのですが……アースの言う通り、確かに気分のいいものではないですね」

「そうねぇ。じゃあ、土に還しておくわ。残して主様が困ってもいけないからね」

「そうですね、私も協力しましょう……」

「「??」」


 何やら集まって話しているスピリット達。

 アマリーラさんやリネルトさんは、声が聞こえていないようなのでどうして集まているのかと不思議顔だ。

 俺には皆の声が聞こえているけど……アーちゃんとウィンさんが何を話しているのかわからず、フレイちゃんやウォーさんと同じように首を傾げるだけだ。


「……ふむ、こんなもんでしょうね」

「はい。では……」

「はぁ……ウィンドとアースが何をやっているのかわからねぇが、まぁ細かい事は気にしないでいいか」

「チチ!」


 頷き合うアーちゃんとウィンさん、見た目はともかく喋り方は細かい事を気にしない、豪快な感じなウォーさんは考える事を止めたようだ。

 フレイちゃんも同意して頷いている……あんまり、考えるのは得意じゃないのかな? 俺も人の事は言えないけど。


「というわけで、御命令通り魔物の殲滅は完了したわよ、主様!」


 アーちゃんがこちらを見上げてウィンク……したような気がした。

 実際には無表情な土の顔なんだけどね。


「チチー!」

「おっと。ははは、ありがとう。すごかったよ」

「何言ってんだい、俺達を一度に呼び出せるんだ、その気になりゃもっとすごい事ができんだろ?」

「いや……まぁ……」


 フレイちゃんが俺に飛びついて来たのを受け止め、お礼を言いながら褒める。

 ウォーさんの言う通り、やろうと思えばゴブリン達相手の時のようにできなくはないけど、センテへの影響やらその後の後始末とか、大変だからね。

 魔力も無駄に多く使うだろうし、スピリット達のように綺麗なやり方はできないと思う。


「召喚主様、あちらの方に余計な魔物がいましたので、アースと共に片付けておきました」

「余計な魔物?」


 もしかして、アーちゃんとウィンさんで何か話していた事だろうか?


「召喚を得意とする魔物……スケルトンなんちゃらって魔物よ」

「サマナースケルトンですよ、アース」

「サマナースケルトン!?」


 ウィンさんが示した方向は、今いる南門から東側……東門からだと南の方角だった。

 高く飛んでいても、遠いのもあってわからないけど、そんなところにいたのか……。

 そこから魔物を召喚して、ワイバーンで魔物の大群に追加していたって事なんだろう。


「私達も召喚される側だけど、誰にでもっていうわけじゃないわ。ただ、とにかくなんでも召喚ってのは、気に食わないのよねぇ」

「目的を持って、溢れる魔力で呼び出されるのならまだしも、命令に従う従属召喚はされたくありません。そんな事をしなくても、私達は基本的に召喚主様には従うと言うのに」

「そ、そうなんだ……」


 とにかく、無差別に召喚して従わせるサマナースケルトンは嫌いって事だね。

 確か、魔物を召喚した際に一つ命令をする事ができるとかなんとか……スピリット達が召喚される事はないみたいだけど、召喚される側としたら気持ちのいい相手じゃないんだろう。

 アーちゃん達の言い方だと、魔物以外も呼び出せそうだけど……それらを検証する気にはならないな。


「そんな事をしていたのか、アースにウィンド」

「見つけちゃったからねぇ。まぁ、もう周囲には一体もいないから、安心していいわよ主様」

「私の風で体を壊し、アースが土に還しました」

「う、うん。ありがとう」


 サマナースケルトンが一体もいないって事は、もう魔物の追加はないと見ていいって事だ。

 まぁ、他にも何か画策していれば別だし、魔物が勝手に来たり集めたりする手段がないわけじゃないけど。

 とにかく、魔物の殲滅以外にも思わぬ成果を出してくれたスピリット達には感謝だ。


「それじゃ、私達の出番はこれまでね。また呼んでね、可愛い主様!」

「おう、今度はもっと俺が暴れられる状況で呼んでくれよな!」

「それでは召喚主様、失礼いたします。また出会える事を、そして上質な魔力が頂ける日を心待ちにしております」


 そう言って、それぞれの体が消えていくスピリット達。

 ウィンさんとウォーさんは空気中に溶け込むように、アーちゃんは地面に溶け込むようにして、形作っていた魔力が霧散して行った。


「チ!」

「ん、どうしたのフレイちゃん?」


 唯一残ったフレイちゃん、何やら思い出したように声を出した。


「チチ、チチチチー」

「え、そうなの!?」

「どうされましたか、リク様?」


 フレイちゃんから伝えられ、驚いて声を出した俺に、アマリーラさんから声を掛けられる。


「いえ、ウォーさん……ウォータスピリットが、最後に水で全てを流して集めて空で散らせた際に、あの魔物達やスピリット、精霊が使った魔力を全て消し去ったらしいんです。この周辺全ての魔力をというわけではないですけど……」

「それは、どういう……?」

「意味というか効果は、また後で説明します」


 アマリーラさんの言葉を遮り、詳しい事は後回しにする。

 そういえばアマリーラさん達には、南側で魔力溜まりを発生させようとしているのを、まだ伝えていないんだった。

 話したのはシュットラウルさんとだから。

 つまり、今回魔物を殲滅するにあたって、魔物が持っている魔力も俺やスピリット達が使った魔力も、魔力溜まりになるきっかけにはならないし、空気中に滞留する事もないって事だ。



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