第1108話 マックスさんとマリーさんの部隊



「でもこの状況で、本当に俺が休んでも大丈夫ですか?」

「なに、さっきも言ったが一日や二日程度は耐えて見せるさ。リクが戻ってきた、それだけで兵士達も表情が変わった。応援に来ただけで、部外者とも言える俺が言うのもなんだがな。一歩引いた立場だからこそ、わかる事もある」

「なんなら、発破をかけてリクやエルサちゃんがもっと休めるくらい、頑張ってもらうよ」

「ははは……ありがたいですけど、さすがにそれは」


 俺という存在が、どこまでの影響を与えているのか自分ではよくわからない部分もあるけれど、それでも士気上昇に繋がっているのなら嬉しい。

 こちらを見ている兵士さんの中には、模擬戦や演習で見た顔も混じっているし……だからこそ期待を寄せられているという事もあるかもしれない。

 まぁ、マリーさんが言うように無理をさせたりは、さすがにかわいそうだから止めて欲しいけど。


「それじゃ、お言葉に甘えて……一日くらい休めば大丈夫だと思いますから、エルサ起こしてくれるか?」

「私もリクと一緒に休むのだわー。リクが魔力を回復させたら、それをもらうのだわー」


 それじゃ、俺の魔力回復が遅くなるじゃないか……エルサの魔力もかなり厳しいっぽいから、断ったりはしないけど。

 というか、魔力ってどれくらいで回復するんだろう? 以前ヘルサルで倒れた時は大体一週間くらいだったし、ルジナウムの時は二日……三日だったかな。

 それくらい寝込んでようやくって感じだった。


 今回はこれまでよりも魔力を使っているから、エルサに持っていかれる分も考えると、それなりの時間が必要そうだ……意識を失っていないだけ、以前までよりマシだけど。

 でも、センテ周辺にいる魔物を一掃……とまではいかなくとも、大半を殲滅するくらいは一日分でなんとかなると思う、感覚的に。

  

「エルサまで休んだら、起こしてもらえないじゃないか」

「それなら、別の誰かに頼んだらどうだ? そうだな、モニカ達にでも頼めばいいだろう。まぁ、少々リクが寝坊しても大丈夫なくらいは、持たせて見せるさ」

「多分リクは起きないのだわ。だから先に私を起こすのだわ。そうしたら、リクを蹴ってでも起こすのだわー」

「蹴ってって……もう少し穏やかに起こして欲しいけど」


 少し寝過ごすくらいなら大丈夫かもしれないけど、起きないのなら確かに蹴ってでも起こして欲しいとは思う。

 けどエルサだからなぁ……どれだけの衝撃が来るのかを考えたら、ちょっと怖い。


「モニカさん達は、南側で頑張っているんですよね? それじゃ……」

「そちらには、こちらから伝えておくわ。リクはできるだけ早く休みなさい。ちょっと顔色が悪いわよ?」

「そ、そうですか? それじゃ、お言葉に……」

「伝令! 伝令!」


 モニカさん達にエルサを起こしてもらうのを頼もうと考えていたら、マリーさんに止められた。

 顔色は自分でわからないけど、ちょっとフラフラして来ているのは確かだ……何もしていないのに魔力を減っているようで、限界が近いんだろう。

 多分、エルサが吸収しているせいだ、いつの間にか俺の頭にくっ付いてお風呂に入ったような声を漏らしているし。

 モニカさん達とも会いたかったけど、マリーさんの言う通りまずは休む事を優先させようと頷いて答える俺の言葉を遮って、兵士さんが土壁の内側に飛び込んできた。


「どうした、何があった!」


 伝令と叫びながら、こちらに駆けてきた兵士さんはかなり焦っている様子。

 近くで俺やマックスさん達の話を聞いていた中隊長さんが、すぐさま対応した。


「門に向かって魔物が進攻! 数が多く、抑えきれません!」

「くっ! 標的を我々から門へと向けたか……」


 土壁を用意した場所は、門からは離れている。

 兵士さんを配置して鉄壁の守りで囮になっているといっても、全てがこちらに注目するわけじゃない。

 全体の標的を変えた、というよりは一部の魔物が遠いこちらよりも、近い門に向けて動き出したんだろう……ある程度単純な指示を受ける魔物だから、他の群れが一定方向に向かっていると、そちらへ一緒に流れるようだけど、今回は違ったようだ。


「門を抜かれたら……俺が行ってなんとか」

「リク、大丈夫だ。これくらいは想定済み、というより何度かあった」

「そうよ。門とここが、どれだけ離れていると思っているの? それでも囮の役目をこなしているんだから。――魔法部隊集合!」

「「「「はっ!」」」」

「こちらも集合だ!」

「「「「はっ!」」」」


 センテへの魔物侵入はできるだけ防ぎたいし、入られたら俺もおちおち休んでいられない状況になってしまう。

 そう思って、力が入らない体に気合を入れ直し……たところでマックスさん達に止められた。

 考えて見れば、演習も含めて軍隊が訓練しても街に影響がないくらいの距離があるため、こういった事も俺がいない間にあったんだろう。

 全ての魔物が、今いるこの場所に意識を向けるわけじゃないからね。


 マリーさんとマックスさんがそれぞれ、鋭く叫びすぐに集まって来る兵士さん達。

 マリーさんの下には、軽装の兵士さん達……魔法を使う部隊なんだろう、剣などの武器ではなく魔法具らしき杖を持っている。

 魔法具の杖は、ほんの少しだけ魔力を増幅させる効果があるらしく、魔法で戦う人達にとっては重宝されると聞いた事がある。

 モニカさんのように武器を使っての戦闘もこなしたり、エルフのようにそもそも微々たる魔力増幅が必要ない種族は使わないみたいだけど。


 純粋に魔法のみに集中する状況や、長期戦ではその微々たる魔力増幅でもあった方がいい。

 他方、マックスさんの下に集まった人達は、魔法部隊と違って重装備。

 全身鎧に、人が隠れられる程の大きな盾を持っていた……スクトゥムとかいう盾だったっけかな。

 さらに一部の人は、接近戦想定なのかラウンドシールドと呼ばれる丸い盾を、両手に持っていたりする。


 相手を打ち倒すよりも、ただひたすら攻撃を受け流し、耐えるための装備なのかもしれない。

 まぁ、盾だってシールドバッシュというのがあるように、一切攻撃できないわけじゃないけどね。

 なんとなく、スクトゥムを持った兵士さんが並んで魔物を押し留め、左右から回り込もうとした魔物に対しては、ラウンドシールドを持った人が対処……って感じっぽいかな?


「えっと……?」

「安心しろ、こちらに向かない魔物はいつもこうやって引き付けていた。――各自、装備に問題ないな?」

「はっ! 破損している物はありません!」

「よし、では往くぞ!」

「「「「はっ!」」」」


 集まった人達それぞれの見て、どうするのだろうとか首を傾げていたら、ポンと肩をマックスさんに叩かれ、号令を下して門へと向かった。

 重装備に盾を持っているから行軍速度は遅いけど、整列してザッザッザッザッと乱れずに進む姿は圧巻だった。


「こちらも向かう! 遅れるんじゃないぞ!」

「「「「はっ!」」」」


 続いて、マックスさん達の部隊に付いて行くのは、マリーさん指揮する魔法部隊。

 いつの間にか、鬼教官モードになっているけど、今はそれが頼もしい。



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