第1107話 顔に飛びつくモフモフ
「だわーーーーー!!」
「あ、これ……」
響く声に、周りにいる兵士さん達はざわざわとしているけど、特徴的な言葉というか語尾というか……それで誰がきたのかわかった。
まぁ、間違いなくエルサだろう。
「えっと……あ、いたいた。って……ぶっ!」
「リク! 無事だったのだわ! よく戻って来たのだわー!」
「あら、熱烈な歓迎ね」
「エルサも心配していたからな。リクを残して自分だけ逃げられたと言うだけで、要領を得なかったが……とりあえず、今の勢いを受け止められるのはリクしかいないな」
声は空から聞こえて来ていたので、見上げてキョロキョロしているとセンテの外壁がある方からエルサがものすごい勢いでこちらへ向かって来ているのが見えた。
迎えようと、手を振り上げた俺の顔に思いっ切りぶつかるように飛び込んで来るエルサ……マリーさんもマックスさんも、苦笑している様子がなんとなくわかる。
隔離されている空間からエルサだけ脱出させたんんだけど、その後の俺の事を心配してくれていたんだろうな、相棒だからと任せてしまったけど、負担をかけすぎてしまっていたかもしれない。
「エルサ、ちょ、ちょっと離れて……それと、心配をかけてご……」
「リクがいないと、魔力の補給ができないのだわ! 脱出した時点で残りの魔力は少ないし、魔物を蹴散らしていたら魔力が少なくなって目話回るしだわ! 早く魔力を寄越すのだわ!」
「……謝ろうとした俺が馬鹿だった……かな?」
勢いよくぶつかったのに、ピッタリと顔に張り付いているエルサ……お腹のモフモフと離れるのは残念に感じるけど、このままじゃ話せないと引き剥がす。
さすがに心配や苦労をかけすぎたかなと謝ろうとする俺に、引き剥がされた格好のエルサが叫ぶ。
俺の役目、エルサの魔力タンクか何かかな? 申し訳ないと思った俺の気遣いを返して欲しい……。
「ってか、エルサがいるのに膠着状態のままだったのか?」
「仕方ないのだわ、リクがいなければ私の魔力はほとんど回復しないのだわ。もうちょっとで、初めて会った時みたいな事になりそうだったのだわ」
「初めて会った時って……」
あぁあの、契約する人間がこの世界に現れた事が嬉しくて、飛び回った挙句に魔力切れて森に墜落していたあれね。
そういえば、俺が発見しなかったらあのまま魔力枯渇でヤバかった……みたいな事を言っていたっけ。
「……今更だけど、エルサとかドラゴンって、契約者から魔力を吸収しないと回復しないのか?」
「一定までなら回復するのだわ。けど、危険値くらいまで魔力がなくなると、回復しなくなるのだわ。契約してその契約者と魔力を交わす事で限界を越えて、魔力を維持できるのだわ。リクの場合は魔力量が異常だから、ほとんど私が譲り受ける感じだけどだわ。ただ、今回はリクと離れていたから魔力もこちらに届いていないのだわ。はぁ~これでやっと魔力が戻るのだわ~」
「早速吸収し始めたね……」
成る程、つまり一定以下の魔力になった場合は回復する手段は、契約者からの魔力を受ける必要があると。
まぁ、エルサのようなドラゴンが魔力を枯渇するくらいまで使う事自体、ほとんどないから稀な事なんだろうけどね。
通常は契約者と魔力を交わして高い魔力量を維持し、必要とあれば人間の契約者側に供与するみたいな事を以前聞いた事あるけど、俺とエルサだと魔力量に差があり過ぎて魔力を渡すくらいにしかなっていないらしい。
……契約って平等じゃなくて、俺が搾取される側だったかぁ……まぁ俺も、エルサのモフモフを摂取させてもらっているから、文句は言えないけど。
「だわ!? リク、魔力が回復しないのだわ!?」
「えぇ!?……って、多分それは俺の魔力が少なくなっているからだと思う」
「……本当なのだわ! いつもリクから漏れている無駄な馬鹿魔力が、今はほとんどないのだわ!」
無駄とか馬鹿魔力とか、その魔力を受けているエルサが言っていい事じゃないと思う。
俺からの魔力がなくて、がっかりしているから勢いで出た言葉だろうけど。
……この魔力のおかげで、これまでも、それから破壊神との戦いもなんとか切り抜けられたんだし……エルサには今回の事が終わったら、ちょっとお話をする必要がありそうだ。
「はぁ……せっかく、五日も我慢していたのにだわ。がっかりだわ」
「魔力が受けられないからって、そこまで言わなくても……って、五日!? ――マックスさん、もしかしてエルサが戻って来てから、俺がここに来るまで五日も経っていたんですか?」
「正確には六日だな。エルサが戻って、少し話をして……それからすぐ魔物相手に巨大化して……東門を破壊した」
「あぁ、戻って魔物相手に戦った日は数えられていないんですね」
巨大化したせいで、さらに魔力が危険域になり、俺が戻って来るまで我慢し始めて五日ってわけだ。
いやいや、そんな冷静に考えている場合じゃなく……エルサが脱出した後、俺が破壊神と戦っていた時間は大体三十分程度だと思う。
少なくとも一時間も経っていない。
そんな短い時間だったのに、六日も経っているとすればもしかして……。
「すみません、マックスさん。魔物達がセンテを取り囲んだ……正確には、俺が姿を消したってのはどれくらい前の事でしょうか?」
「えーと……」
「二十五……いえ、二十六日になるわね」
気になってマックスさんに聞いてみると、計算している途中でマリーさんが横から教えてくれた。
そういえば、こういった数字の計算はマリーさんの方が得意だったっけ……さすが獅子亭のお金勘定を取り仕切っているだけある、というのは大袈裟か。
それにしても二十六日……ほぼ四週間程度じゃないか。
エルサが脱出してから六日だから、あの時点でもう二十日が経っていた事になる。
破壊神は十日くらいと言っていて、それから脱出まで話したりして時間を取られたけど……それでも大袈裟な日数だと思っていたのに、実際はそれ以上だったと。
あのまま破壊神に時間稼ぎをされていたら、浦島状態とまではいわなくとも、もっと日にちが経過していたんだろう。
そうなった場合のセンテ周辺の状況は、あまり考えたくないね。
マックスさん達も、延々と続く戦いに士気が下がって来て、押され始めていたような事を言っていたし。
そりゃ、四週間とか一カ月近くも戦っていたら、士気も上がるわけがない。
目に見えて魔物の数が減っているならまだしもね。
むしろここまで耐えて、よく戦い続けていたと言えるくらいだと思う。
「まぁ、割とギリギリのタイミングだった……かな?」
よく見てみると、兵士さん達の中にも怪我をしている人を見かけるし、戦っているのだから汚れだってある。
ボロボロだとは言わないけど、色々と限界が近いんだろうなというのが見て取れる。
さすがに壁の近くではないけど、俺の作った土壁の内側にはテントなども設営されているし、今も兵士さんがバタバタと走り回っていたりもする。
地面にも戦闘したような跡が残っているのは、こちらに魔物が侵入して来る事もあったのだと窺わせる……本当に、ギリギリだったんだね――。
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