第1106話 東門は閉じられない状況



 マックスさんやマリーさん、それから魔法の指示を出していた兵士さん……中隊長らしい……その人も混じって今回の魔物が押し寄せた時の話を聞く。

 まぁ、モニカさん達とは違って、途中から応援要請に応じて参戦したマックスさん達は、魔物が来た時の状況までは聞いた事らしいけど……中隊長さんも、別の場所にいた侯爵軍の兵士さんらしく、途中参戦だ。


 ただ中隊長さんは魔法の指示をするために、この場での戦況を把握する必要があるのと、マックスさん達はモニカさん達からも話を聞いているので、ある程度は補完して説明できるみたい。

 それによると、俺が消えたという日……破壊神に隔離された時だね。

 その時に、ワイバーンに追いかけられながらも、複数を討伐しつつセンテに戻ってきた侯爵様の部下……アマリーラさん達の事だね。

 その報告から俺が忽然と姿を消した事で、モニカさん達を含めて最初は色々混乱したらしい。


 けど、そんな中でユノだけは落ち着いていたとか……もしかしたら、破壊神の存在やら何やらを、感じていたのかもしれないね。

 絶対に戻って来ると信じて、待つしかないと周囲に言ってくれていたらしい。

 それでも、二日ほど経っても戻ってこない俺に、そちらの調査をしなければと見当を始めた時、それどころではなくなったと。

 早い話が、そのタイミングで魔物が集まって一斉にセンテを取り囲んだのだとか。


 どうして取り囲めるだけの魔物が集まるで、察知できなかったのかというと、複数のワイバーンが魔物を空から輸送したらしいとの推測。

 ……もしかして、そのために魔法を使った攻撃力をなくしてでも、輸送を確実にするために再生能力を強化したのかな? と思った正しくはわからない。

 ともかく、センテは完全に魔物によって封鎖されて取り囲まれたらしいんだけど、シュットラウルさんの指示で街の外壁を越えられないように耐えつつ、モニカさん達の手によって西側の魔物を倒してヘルサルへの道を切り開いたんだとか。

 そうして応援要請を届け、ヘルサルの協力を経て西側の魔物は殲滅、そこから北、南、東の三か所での本格的な防衛が始まった。


 北は門がないので、最低限の防御で良く、南側は冒険者達が散々魔物の討伐をしていたので、少し押し返しつつも一進一退が続く……南側が一番魔物の数が多いらしい。

 南側には、モニカさん達やルギネさんを含めた人達も行っているとか、ヤンさんや元ギルドマスターもそっちだね。

 そして、東側では侯爵軍の頑張りで少し押し返して、俺が作った土壁を外の拠点として奪還、頑丈な土壁を防御の要に。

 ただ、兵士を始めとした戦っている人達の疲労や士気の低下、いくら倒しても追加されてあまり数が減らないため、こちらも膠着状態に陥っていたみたいだ。


 土壁を使った拠点を魔物達に奪われたら、東側が一気に突破される恐れがあるため、マックスさん達もこちらの応援にきて、しばらくすると俺が戻ってきた……という状況なんだとか。

 膠着状態で、にらみ合いになっているのもあって、士気が戻れば俺が休む時間くらいはなんとかなる、と改めて太鼓判を押してくれるマックスさん達。

 周囲の兵士さん達も頷いてくれているのが頼もしい。


「でも、壁を使っての防衛はわかりますけど……門を閉じて防衛した方がやりやすいんじゃないですか? 外壁の上から、弓や魔法で迎撃もできますし」

「戦況が押されて、俺達もそうした方がと考えたんだが……数日前にエルサが戻って来てな」

「エルサが?」


 何やら言いにくそうなマックスさん。

 エルサはちゃんと戻って来てくれていたようだ……というのは少し安心したけど、それでも数日の間が空いているのか。

 脱出させた後、一時間も隔離されていなかった共うけど、随分時間差ができてしまったようだ。


「そのだな……膠着状態どころか、押され始めていた東側を見たエルサが、巨大化してな?」

「まぁ、多少魔力が残っていたら、エルサなら魔物相手に巨大化した方が戦いやすいでしょうね」


 魔力の効率はわからないけど、踏みつぶしたりとかの物理的な攻撃ができる分、魔法を使うだけよりも少ない魔力でもなんとかできるんだろう。

 でも、門の中に入らない事と、エルサの巨大化がどう関係しているんだろう?


「リクが言っているように、魔力の残りが少ないらしくて……途中で目を回したんだ。それでも、頑張ろうとしたんだろうが……それが裏目に出てな」

「裏目に?」

「足を滑らせたのか、魔物による攻撃が原因か、巨大化したエルサが閉じさせていた東門に頭を突っ込んだんだ」

「え……まさか……」


 巨大化したエルサが、門に頭をって……それって……。


「多分、リクが考えている通りよ。エルサちゃんの頭がぶつかってね、門が破壊されたわ」

「……すみません」

「リクが謝る事でもないさ。エルサのおかげで、再び押し返してここを拠点に膠着状態にすることはできているんだからな」


 まさか、エルサが原因で門を使っての防衛ができない状況になっていたとは……。

 破壊されているって事は、閉じる事はできないわけで、油断したらすぐ街の中に入られてしまう。

 少しの魔物なら、内部で倒せるだろうけど、その分外への意識が薄れるし建物などへの被害も出る……そりゃ、ここを起点に耐えるしかなくなるわけだね。

 とはいえ、マックスさん達に謝ったけど……破壊神から隔離された空間の中でも頑張ってくれていたし、魔力の限界が原因でもあったんだろうから、エルサはさすがに責められない。


「同時に門を守らなきゃいけない難しさはあるが、魔物が人を見ればそちらに行くのが幸いしているな」

「そうなんですか?」


 あの魔物達は、おそらく誰かに命令というか指示を出されているはず。

 それなら、作戦行動っぽい事だってできる気がするんだけど。


「フィリーナともう一人のエルフの……」

「カイツさんですか?」

「そうそう。エルフ二人がね、そういった指示を理解できる魔物がいないからでは? と言っていたわ。私もその意見に賛成よ」

「成る程……」


 高ランクの魔物になれば別だけど、魔物は破壊神に創られてその破壊衝動というか、本能に従って動く……というのが基本的な見方だ、破壊神云々は俺やモニカさん達くらいしか知らないけど。

 ともかく、指示を出すにしても単純なものしか実行できないのであれば、徒党を組んだところで作戦らしきものも実行できないってわけだね。

 一応兵士さん達が守っているんだろうけど、破壊されて開いた状態になっている東門を見れば、通常はそこになだれ込むように攻撃を集中させた方が良さそうだけど、ここにいる土壁を利用して拠点化し、マックスさん達や兵士さん達が囮になっているんだろう。


「そういうわけだから、リクが戻ってきた今兵士達の士気も上がるだろう。安心して少しはやす……」

「リーーーークーーーー!!」

「ん?」

「なんだ?」

「この声って……」


 大まかに話を聞いて、マックスさんが締めようとした言葉を遮り、遠くから俺を呼ぶような叫び声が聞こえた。

 ようなって言うか、まんま俺の名前を叫んでいるなぁ――。



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