第1061話 広大な農地は必要な物が多い



「大量ですね」

「リク様到着後に、遅れて運ばれてきた物もあるからな。まぁ、様子を見ながらでどれだけ必要かわからんからな」


 いくつかの村を回って、村長さん達や村の人達からの挨拶を受けた後の俺達の前には、複数の幌馬車が停まっている。

 幌馬車に詰まれている物は、もちろんクールフトやメタルワーム、それからクォンツァイタだ。

 クォンツァイタは、先に作られている安置所に保管されている物もあるけど、広すぎる場所なので足りない分の補給みたいなものだ。

 温度管理のためのクールフトやメタルワームは、現在王都でアルネや研究者さん達の手によって急いで作られており、作った先からどんどんセンテに送られているらしい。


 幌馬車の向こう側にある、広大な農地……歩いて回るだけでも数日かかるのは間違いない場所だから、必要な数は相当なものだ。

 まだまだ始めたばかりなので、この広さに対してどれだけの数が必要なのか、わからいないからね。


「……わかったわ。あっちのクォンツァイタは北に。それから……」

「急げ! リク様を待たせているのだぞ!」

「数が多いから、フィリーナも大変だなぁ……何も手伝えないけど」

「これに関しては仕方あるまい。私も同様だ。しかし、何故アマリーラは私ではなくリク殿なのか……いや、理由はわかるがな」


 フィリーナが、幌馬車がずらりと並んでいる場所の近くで、兵士さん達に指示を出す。

 それをさらに、アマリーラさんが檄を飛ばして急かしている……という状況を、少し離れた俺とシュットラウルさんが見ている状況だ。

 クォンツァイタ、クールフト、メタルワームの配置や数などをフィリーナが仕切っているんだけど、こればっかりは温度管理効率の問題とかあるらしいので、俺やシュットラウルさんには手伝えない。

 まぁ、指示を出すならシュットラウルさんもできるんだろうけど、侯爵様がわざわざ声を荒げたり急かしたりするのはあまりよろしくないとか。


 今回も護衛として付いて来ているアマリーラさんは、兵士さん達に檄を飛ばす際俺を引き合いに出している。

 それを溜め息交じりで見ているシュットラウルさん……まぁ、兵士さん達との訓練後に散々雇い主云々と反咲いていたからなぁ。

 その影響なんだろう、雇う事は今のところ考えていないんだけども。

 アマリーラさんが優秀じゃないとか、雇いたくないわけではなく、単純に雇う必要がないんだよね。


「それにしても……リク殿、どう思う?」

「何がですか?」

「昨日話していた、ワイバーンの事だ。食べていた魔物に関してだな」

「あぁ……うーん、似ているというだけで必ずしもそうだと限りませんけど……俺は、繋がっていると思いますよ」


 準備が進められていくのを見ながら、シュットラウルさんが少し声を潜めて聞いて来る。

 内容は、昨日の報告会の最後の方に話した、ワイバーンが食べていた魔物について……カイツさんがセンテにいるという話の後に、話していたんだ。

 ワイバーン討伐後、皆を集合させて調べてみたんだけど、ここ最近センテの南で置かれていた魔物の死骸、その食い荒らされた様子と似ていたって事だね。

 空から、と考えていた俺の想像とも一致するし、周辺に何者かが置いたような痕跡がない事も、ワイバーンが空から落としたという事を裏付けてもいる。


「リク殿がそう言うのであれば、そうなのかもしれんな。だが……」

「やっぱり気になるのは、どうしてそんな事をしたのかですね」

「うむ。ワイバーンがわざわざ捕食している餌とも言える魔物を、空から落とす理由がない。そして、センテの南にだけ集中させる理由もな。そして同時に、誰かに指示されたのであってもそれをする理由もわからない」

「そうなんですよね……」


 結局、魔物の死骸がどうやって運ばれて来たのかは、確定とまで言わなくてもなんとなくわかった……その場面を見たわけじゃないから、状況を見てそうだと考えているわけだけど。

 でも、ワイバーンにも指示を出している何者かにも、そうする理由がなぜなのかがわからない。

 ワイバーンなら通常は、自分が食べるはずの魔物を落とすなんて事はしないし、空を飛んでいる時に食事もしないはず……捕食対象を途中で運ぶというのも考えにくい。

 それに、センテの南にだけに集中して落とす事に関しては、ワイバーンでも指示をしている何者かがいても、理由については全くわからない。


「まぁ、とにかく今は農地のハウス化をしながら、調査を進めるしかないんでしょうね。お、フィリーナが呼んでいますね、行きましょうか」

「そうだな……わからない事が増えていくというのは、どうも気持ち悪いが……仕方あるまい」


 溜め息交じりにそう言って、指示を出し終えたのか、フィリーナがこちらを向いて手招きしていた。

 シュットラウルさんも同様に、このまま考えても仕方ないと感じたんだろう、顔を振って気持ちを切り替えてフィリーナの方へ向かった。



 魔法具やクォンツァイタを各地に分配、配置を兵士さん達に任せた後、フィリーナ達と一緒に広大な農地の南側へとやって来る。


「ここは、クォンツァイタの安置所が一つなんだね」

「広すぎるからね。区画で分けようって事になったの」


 南側の農地では、中央にクォンツァイタを置いて管理するための、簡易的な建物が作られており、そこを中心に一部だけに結界を張る事になっているみたいだ。

 本当は、先日の農地と同じように、東西南北と中央に魔法具化したクォンツァイタを設置し、全体を結界で覆う予定だったらしいけど、農地が大きすぎるため温度管理の効率やクォンツァイタからの魔力供給を考えて、分ける事にしたそうだ。

 東西南北と中央の五か所以外にも、クォンツァイタの安置所を設置しないといけないので、今頃急ピッチで建設準備が進められているのだとか。


 安置所が一つだけだからか、結界で覆うように指定された範囲はこれまでより大分狭い。

 徒歩でも端から端まで一時間程度……といったところかな?

 ただし、その分十か所前後に分けられているみたいだけども。


「ここの出入り口は北側でお願いね。それじゃ私は、クォンツァイタを魔法具化して来るわ」

「うん、わかった」


 ここの安置所では既にクォンツァイタが置かれているため、フィリーナが魔法具化したらすぐに結界を張るだけで終了だ。

 他の場所……既に作られていた安置所にも、クォンツァイタが置かれていたり今運んでいる最中だったり……まぁ、一番最初に準備が整っている場所だったから、南側に来たってわけだね。

 安置所に入って行くフィリーナを見送って、指定された北側への出入り口のためや、その他結界のイメージをしながら、少し集中して待つ。

 出入口に関しては、各所で村がある方向や出入りの便利さを考えて、ある程度方向が決められるらしい……村が北にある場所で、南に出入り口を作ったら毎日の作物の世話をするのに、わざわざ迂回しないといけないからね。


 管理のし易さや温度管理のために、いたる所に出入り口を作るわけにもいかないし。

 大体数分程度だろうか、シュットラウルさんと外で待っていると、クォンツァイタの魔法具化を終えたフィリーナが出てきたので、結界を張るよう意識を集中させた――。



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