第1060話 ようやく見つけたカイツさん



「ほぉ、なる程。改良したクールフトは役に立っているのですね。作った甲斐がありました。王都に到着したら、もっと素晴らしい研究に携われると考えると、心躍ります」

「いやいや、今はそういう事じゃないのよ。確かにクールフトは役立っているけれどね。とにかく、リクが倒したワイバーンを調べて欲しいの。魔法の痕跡や、誰かが何かを施した跡とか、調べられるでしょ?」

「不自然に再生するワイバーンなんです。あ、カイツさんは以前見ていましたね、俺が治癒魔法を使った時みたいに、なくなった翼や足とかも生えて来るんです」


 一応報告しておく必要があると思い、ハウス化した農地でクールフトが使われている事も話すと、自分の研究成果が実ったと少年のように顔を輝かせて喜ぶカイツさん。

 研究成果であるクールフトに意識が行くのは、研究者として当然の事なのかもしれない。

 とにかく、今お願いしたいのはワイバーンの事でクールフトに関してじゃない、助かってはいるけども。


「ふむ、ワイバーンが再生ですか。リク様の奇跡の魔法は確かに見ましたが、それと同様な事が可能とは。いえ、再生をする魔物もいますが……」

「でもそれは、時間をかけてでしょ? 私達エルフや人間が怪我をした際、しばらくして治るように。でも……」

「ワイバーンは、その場で即座に再生させていました。まぁ、さすがに一瞬でというわけではないですけど、通常の怪我が治る速度とは全然違います」


 尻尾など、部分的に斬り取って致命傷にならなければ、そのうち再生する魔物というのはいるらしい。

 怪我をしたら自然治癒で治る……という事でもあるけど、それは時間をかけてこそだからね。

 俺やユノが倒したワイバーンのように、斬った先から再生を始めるなんて事はない。

 少なくとも、ワイバーンがそんな異常な再生能力を持っていないはず。


「……話を聞く限りでは、確かに異常なワイバーンと言えますね」

「はい。そこで、フィリーナの代わりにワイバーンを調べて欲しいんです」

「魔物を調べるのは私が主にする研究ではありませんが……他ならぬリク様の頼み。畏まりました」


 眉根を寄せて考えるカイツさんにお願いする。

 クールフトとかの魔法具研究をしているカイツさんは、確かに魔物の調査とかは専門じゃないかもしれないけど、今は他に頼める人がいないからね。

 少し考えて、了承してくれたカイツさんにフィリーナと一緒にお礼を言って、センテへと戻った。



「そういえば、どうやってセンテから出たんですか? 門の衛兵さん達はカイツさんが出るところを見ていない、って言っていましたけど」

「どのように……王都へ行こうとしたら、壁に阻まれたので乗り越えたのです。研究でもそうですが、何かしらの壁に遮られるのはよくある事ですから。ですので、そういった物は乗り越える事にしているのです」

「いやいやいや、だからって外壁を乗り越えちゃ駄目でしょ。なんのために門があると思っているのよ……そもそも、王都と方向も違うし。はぁ……」


 センテへ戻る道中、ふとカイツさんにセンテの外に出た方法を聞くと、単純に街を囲む外壁を乗り越えたかららしい。

 ……魔法か何かを使ってとかだろうけど、壁があるからって真っ直ぐ乗り越えようと考えるのが、ある意味凄い。

 研究で煮詰まったり、先に進めない状態と同じように考えているのも同様だね。

 フィリーナが溜め息を吐きたくなる気持ちも、少しはわかるかな。


 ちなみに、センテへと戻ろうとした時、何を思ったのか馬を連れて南へ向かおうとしていた。

 遠目にも山が見えていて街なんてあるはずがないのに、どうしてそちらを目指そうとしたのか……慌ててフィリーナとカイツさんを止め、俺が手を引いてセンテまで行く事に。


「というか、カイツを一人で村の外へ出したら、こうなる事はわかりきっていたのに……なんでエヴァルトは許可したのかしら?」

「何を言っている、フィリーナ。私は別にエヴァルトから許可をもらっていないぞ? そもそも、リク様やアルネと王都へ行く話をしていたのだ。エヴァルトから許可をもらう必要はない。というかだな、集落で合って村ではないぞ」


 カイツさんは、エヴァルトさんと王都に行く事を話し合ったりはしていなかったみたいだ……エヴァルトさん自身は知っているだろうけど、案内役だとかの話をする前にカイツさんがさっさと出発したって事らしいね。

 俺達がクールフトを持って、王都へ向かった数日後にはカイツさんも出発していたとか。

 エルフの村にある研究所とかはほとんどそのままで、適当に旅支度をして急いで出たらしいけど……どれだけ研究をしたいんだと思わなくもない。

 あと、よくわからない方向音痴で、ヘルサルやセンテまでよく辿りつけたなぁとも……センテの外に出た方法を聞いて、フィリーナが別の国に迷い込む事すらありそうと言っていた意味がよくわかったからね。


「カイツはまだ知らないだろうけど、エルフの集落は正式にアテトリア王国の村として認められたわ。女王陛下が直々の決定よ。でも……はぁ……だから一人で案内役がいないのね」

「なんと、そのような事が。エルフ達も、国民として認められたのだな。ならばこそ、王都での研究も成果を出さねばならんな」

「まぁ、先にワイバーンの事を調べてもらうんだけどね」


 エルフの集落が村として認められた事を伝えつつ、カイツさんが一人でいる事を納得するフィリーナ。

 国に認めらた事を喜び、研究への意気込みも見せていた。

 フィリーナが付け加えたように、まずはワイバーンの調査になるけど……俺達の用やセンテに拘わる様々な事が片付いたら、カイツさんも一緒に王都へ連れて行く方が早いだろうから、その間の暇つぶしも兼ねてになる。

 まぁ、調査が終わっても一人でカイツさんに旅をさせられない、というフィリーナからの提案だけどね。


 エルサに乗る人には余裕があるから、カイツさんを乗せるのは構わないし、迷っていないかを心配したり誰か案内役を付けるより手っ取り早いだろう。

 ……問題は、魔物関係の調査が五男ごろ終わるかわからない事だけど……一応、ワイバーンを倒した後にセンテへ戻るまでの調査で、ちょっとした事がわかってはいる。

 けどそれが、すぐに解決するための答えじゃないからなぁ……。



 カイツさんを、モニカさん達のいる冒険者ギルドに連れて行き、見つけるのに苦労した話や遅くなった事を謝った後、ギルドの方は任せて俺とフィリーナは東門へ。

 そちらでも、待たせてしまったシュットラウルさん達に謝りながら、ハウス化をする農地へ出発。

 農地はセンテから真っ直ぐ東へ行った場所で、先日ハウス化をした農地よりも少し距離があった。

 とは言っても、エルサに乗ればすぐだったんだけどね。


 センテ付近で最大の農地らしく、ヘルサル農園の倍以上……かなりの広さで、合間に複数の農村もあった。

 シュットラウルさんの話によると、アテトリア王国でも有数どころか一番大きい場所らしく、ここをハウス化して安全に作物が作れるようになったら、国全体に大きな影響がもたらされるみたいだね。

 複数の農村があるため、それらへの説明などで少し時間がかかっていたため、俺達には先に新しい農地をハウス化してもらっていたんだとか。



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