第1059話 カイツさん捜索
「え、この子がホルザラなの!? てっきり店番を任されたお店の子供だとばかり……」
「ほぉほぉ、リク様が来られた事は驚きましたし、光栄な事ですが……この失礼なエルフは客と見なさなくて良さそうですね? あ、お久しぶりです」
俺が挨拶をすると、カウンターの向こう側にいる女性がホルザラさんだとは思っていなかったらしく、フィリーナが驚いてしまう。
その際、ちょっとどころではなく失礼な事を言ってしまい、眉の端を上げたホルザラさん……背後に黒い何かの気配がモヤモヤしているような気がするのは、気のせいなのだろうか?
「まったくカイツはぁ! 遅くなってしまったけど、街から出るまでに捕まえないと!」
「……フィリーナが変な事を言ったから、遅くなったんだけどね」
あれから、チクチクとフィリーナの事を責めるホルザラさんに、謝り続けるフィリーナの図がしばらく展開された。
実際のホルザラさんは見た目に騙されてはいけない……確か、マリーさんと同年代と聞いた。
偏見かもしれないが、本来なら女性は若く見られる事を喜びそうなものだけど、昔からずっと子供のような見た目のままのため、年相応に見られたいのだとか。
そんなこんなで時間を取られた後、なんとかホルザラさんに落ち着いてもらって、カイツさんの情報を入手。
俺達が来るほんの少し前に、店から出ていたらしい……入れ違いだね。
ちなみにカイツさん、まさかと思っていたけど、本当に旅の途中で食べるからと木箱に入った野菜数箱分を注文しようとしていたらしい。
さすがに、馬車や荷車すらないカイツさんを見て、運べそうにないためそれは無茶だと断ったらしいけど。
その際、フィリーナと同じような反応をカイツさんもしたため、絶対に売らないと怒ったのだとか……その時の怒りが収まらないうちに、フィリーナが来て先程の発言。
小言を言う時間が長くなってしまうのは無理もなかったのかもしれない。
ともあれ、思わぬ時間を取られてしまったけど、カイツさんを追いかけるため俺達は西門に向かって走っている、というわけだ。
「いえ、数日前にエルフが街に入った事は確認していますが、出て行った事は確認していません」
「そうですか、わかりました。ありがとうございます」
「いえ! リク様と話せて、光栄です!」
「はははは……」
西門に津到着するまで、カイツさんらしき姿は見えなかった……目立つだけでなく、注目も集めるだろうから、近くにいれば人が集まっていそうなのに、それもなかった。
既に街の外に出たのかな? と思って衛兵さんに話を聞いてみたら、エルフは来ていないと言われたところだ。
衛兵さん、いい笑顔で俺に敬礼をしてくれている……時間を取らせて悪かったかなと思ったけど、楽しそうだからいいか。
「おかしいわね。私達は真っ直ぐ西門に来たはずなのに……途中でカイツと会う事もなくここにきた。なのにカイツは門の外に出ていないなんて……」
「うーん、そうだね……」
カイツさんが外に出ているならともかく、まだ街の中にいて、西門を目指しているのなら途中で見つけてもおかしくない。
もしかして、追い越す時に俺達が見逃した……とか?
あ、いや待てよ……?
「フィリーナ、カイツさんって方向感覚がないんだよね?」
「今更どうしたの?」
「いや、カイツさんってもしかして、西門に来るまでにどこかで迷っているんじゃないかなぁ? って……」
「そんなまさか……宿からホルザラさんのお店、そしてこの西門まで、一本の道よ? 迷ったりするわけが……いえ、そうよね。私がカイツはすぐに迷うって言ったんだったわね」
カイツさんの泊まっていた宿屋から、大きな通りを真っ直ぐに移動するだけで、ホルザラさんの店を通って西門まで来れる。
多少の方向音痴であっても、真っ直ぐ歩くだけなので本来は迷いようがないはずではあるけど……筋金入りどころか、よくわからない域にまで達している方向音痴っぷりなら、それでも迷子になっておかしくない。
「って事は、カイツさん。この街のどこかで迷っているって事にならないかな? それなら、まだ西門に来ていないのも頷けるよ」
「そ、そうね。……はぁ……自覚がほとんどなくて自重しない迷い人を探すのって、中々難しそうね……」
そうして、俺とフィリーナによるカイツさん捜索が開始された。
街のあちこちを駆け回り、時々通行人に聞いてみたりもして……カイツさん、西門に向かっているはずなのに、何故か北側の武具店近くで見かけた、なんて情報もあった。
「はぁ……はぁ……色んな所に目撃情報があり過ぎて、本当はどこにいるのか全っ然わからないわ!」
「さっきは、目立つと情報が入りやすいって言っていたのに……でもまぁ、本当にそうだね」
「目立つから居場所がわかりやすいのは、ちゃんと目的に沿って行動できている相手に限られるって、今回よくわかったわ」
「まったくね。……でも、どうやってこんな所に来れたんだろう? 門から出た形跡はなかったのに……」
一応目的は西門から出る事のはずなのに、無軌道に動く人を探すのがこんなに困難だとは思わなかった。
荒い息を吐きながら、叫ぶフィリーナ。
どうしても見つからなかったので、最終手段として探知魔法を使ってカイツさん捜索網を広げる事にした。
街中だと、人や物が多過ぎてエルフの反応も見つけづらいんだけど、あまり時間を取っていられない……モニカさん達やシュットラウルさんを待たせているから。
昼前には、農地に向かって出発したいからね。
ともかく、探知魔法を使ってみると、雑多な反応からエルフらしき反応を見つけるよう集中する必要もなく、あっさりとカイツさんのものと思われる魔力反応があった。
それは、何故かセンテの外で、何故か街の東南だった。
「あ、あれね! ちょっとカイツ、待ちなさい!」
「はぁ、ようやく見つけた……」
門を出て、走る俺達の先で、荷物を持たせた馬を引き連れて悠長に歩く人の姿……俺から見ればただの旅人で、本当にカイツさんかはわからない。
けど、特別製の目を持っているフィリーナには、カイツさんと同じ魔力が見えたんだろう、走る速度を上げて叫びながら近付いて行く。
ようやく発見できたカイツさん……足が棒になる、という程ではないけれど、街中を歩きまわったのだから思わず溜め息が出てしまう。
「おや、フィリーナ? と、リク様も。こんな所でどうしたのだ? 私は王都に向かっている途中なんだが」
「いやいや、王都はこっちじゃないから。反対方向に来て、またさらに反対方向に突き進もうなんて、どういう事なのよ……はぁ……」
「あははは……カイツさん、ちょっとした事情があって、俺達は今ここに来ているんです。えっと……」
フィリーナの声が聞こえたからか、カイツさんが振り向き俺達に気付いて声を上げる。
カイツさん、街道ですらない場所、馬の轍や馬車の車輪跡、獣道すらない草原を、さらに王都とは別方向に進んでいるのに、それでも王都へ向かっているつもりだったのか。
なんの疑問もなく突き進めるのは凄い……褒めてないけど。
溜め息を吐いて座り込むフィリーナとカイツさんに苦笑しながら、とにかくこちらの事情を話した――。
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