第1031話 魔法の次は……



「よっほっはっ……うぉ!?」


 爆発の矢の隙間を縫って避けている途中、感知している魔力が急に加速。

 さらに、矢の軌道も不規則になる。


「もしかしてこれって、後から発動した魔法……?」


 俺を中心にして渦巻いているように吹き荒れる風。

 さらに探知魔法に意識を集中させ、軌道が予想できなくなってしまった爆発の矢を避ける……さすがに、全ては避けられなくて幾つかに当たってしまっているけど。

 どうしても避けられないものは、前面に張っている結界に当たるようになんとか動けている。

 一発の威力は大きくないから、これなら結界を張る必要もなかったかな? と一瞬頭をよぎるけど、すぐに振り払った……口の中や目に当たると危険だからね。


「っと……思った以上に避けにくい、これを狙って風を発生させたのか……。でも、さすがにそろそろ魔法の矢も打ち止めかな?」


 避けきれない爆発の矢を、眼前の結界で受けてから呟く。

 結界があるから安心だし、衝撃や爆風は一切感じないけど……目の前で爆発されるのは、精神的にあまり良くないなぁ。

 それはともかく、探知魔法で俺に向かって来る爆発の矢は、何度か追加発動されていたけど、今はかなり少なくなってきている。

 遠くの方にある兵士さん達の反応も、特に魔法を使う準備をしている様子には感じられない。


 さすがに、ずっと同じ事を繰り返しというわけではないようだ。

 開始直後のように、大隊長さんの号令は聞こえない……周囲で風が吹いて小規模爆発がそこかしこで起こっているため、何か叫んでいても俺には聞こえないだろう。

 近くの穴に隠れているはずの、ユノが何か言っていたとしても、多分聞こえないくらいだからね。 


「でも、本当に視界が悪いなぁ……まぁ、魔力の反応を見れば大体わかるけど。まだこちらに近付いて来ているって事はなさそうだねっと……!」


 周囲に吹き荒れる風の影響で、土埃や砂塵はさらに舞い上がり、俺の周囲を渦巻くようになっているせいで、視界が悪いどころかほぼ見えない状態。

 かろうじて、数センチ先が見えるかどうかくらいだ……口の中もジャリジャジして来ているし、終わったら服洗わないとなぁ……お風呂入りたい。

 探知魔法で調べた魔力反応では、兵士さん達は最初に陣取った場所から特に動いていない様子。

 でも、それならどうして追加の魔法を使わないのか……大人数の魔法なんて、味方が標的に突撃したら使えないのに。


 少なくとも、槍や剣が届くような距離に味方の兵士がいる場合、爆発の矢をばらまくような事はできないはず……。

 それなのに、魔法を使わなくなったという事は、他に何かをするつもりだからとか? 魔法をばら撒いて耐えただけで降参、という事はないはずだし。

 広範囲で大規模だけど、爆発の矢そのものは小威力なため、大型の魔物どころか人間の軍隊相手でも殲滅はできそうにないからね……鎧を着込んでいても、怪我くらいはするだろうけど。

 風の魔法はそもそも吹くだけで、標的を害するようなものじゃないし……。


「絶対、他にも何か……」


 そろそろ途切れる爆発の矢を避けながら考える。

 向こうは個人ではなく集団……絶対何かやってくるはず……。


「……とにかく、わからなくても避けきればなんとかなる。ふっ……っと。はぁ……って、え!?」


 風も緩やかになってそろそろ止まりそうで、まだどこにも着弾していなかった爆発の矢を避けて、一安心。

 風が止んで視界が晴れるのを待とうと一息ついた瞬間、それは届いた。


「……うおぉぉぉっ!! いた、痛い痛いっ!」


 最初に、俺の前に張ってある結界……それから木剣を持っていた俺の右腕や両足、さらに周囲に降り注ぐ何か。

 結界に当たって弾かれ、俺の体に当たって痛みを与えた物……。

 ドドドドドドッ! という音が周囲に響き渡る……さっきの爆発の矢程、音は大きくないけどそれでもその音は一瞬で俺を中心とした広範囲に響き渡り、降り注いだ。


「つぅ……って、これ……木で作られた矢だ。さすがに矢じりは金属だけど」


 降り注ぐ何かから身を守る……というか、痛みから逃れるように地面にしゃがみ込み、結界に体を隠す。

 真上以外にも、斜めに降り注いでいるのは少し厄介だけど、体を小さくしておけば、なんとか当たらないで済んでいる。

 先程の魔法とは違い、爆発はしないので衝撃や土が巻き上げられる事はほとんどないので、これで何とかやり過ごした方が良さそうだ。

 急な事、急な痛みで驚いたけど、結界に身を潜めて冷静に周囲を見てみると、晴れてきた視界に落ちた矢が目に入る。


 魔法で作られた矢なら、効果を発揮した後は消えるはずだから、周囲に落ちていたり地面に刺さっている物は、間違いなく兵士さんが撃った矢なのだろう。

 それにしても、あの距離で撃って来るなんて……ただ、魔法と違って命中率は良くないようで、爆発の矢よりも広範囲に降り注いでいる。

 おかげで、身を潜めておけば俺に当たる矢もそんなに多くない……ようやく見え始めた周囲の状況の中、爆発の矢で小さな穴が大量にできている中、ユノが掘った大きめの穴の方から、何か聞こえた気がするけど。

 あ、穴の中に矢が入って来たのか……まぁ、ユノなら大丈夫だろうけど。


 でもなんで、弓矢なんかを使ったんだろう? 確かに俺が痛みを感じるくらいの威力はあるけど、大人数がいるわけでも、本当に大型の魔物というわけでもない。

 それなら、命中精度の高い魔法を使った方が良さそうなのに……まぁ、魔法を使える人は限られるし、放ち続けるにも限度があるけど。

 ……もしかして、俺が探知魔法で魔力の反応を調べられるから、とか? 魔力を使わない純粋な物理の弓矢は、探知魔法で細かく調べる事はできない。

 加工された矢は、自然の木とかと違って魔力がないからね。


 実際、俺に到達するまで探知魔法ではわからなかったし……爆発で土や砂を巻き上げ、風で渦巻くようにして視界を奪っている間に、今度は気付かれないように弓矢。

 奇襲とか奇策とも言えるのかもしれないけど、ちゃんと考えられているようだ。

 まぁ、俺が探知魔法を使えるなんて、今日初めて会った兵士さん達が知っているとは思えないから、おそらくシュットラウルさんあたりが教えたんだろう。

 離れた場所で様子を見ながら、ニヤニヤしていそうだ。


「三の矢準備……二の矢、撃てぇ!!」

「げっ、また来るのか……!」


 爆発がなくなり、風も止んだおかげか、大隊長さんの叫び声が聞こえた。

 考えて結界に身を潜めさせている間に、降り注ぐ矢が終わったと思っていたら、さらに追加で撃つらしい。

 命中率は魔法より悪いとはいえ、当たって痛みを感じるのは嫌だから、しばらくこのまま結界に頼るしかないか……。

 標的をその場に釘付けにして、自由に行動させないという意味では、ひたすら矢をばらまくのも有効なんだなぁ。


「五の矢準備……四の矢、撃てぇ!! 右翼前進!」


 しばらく矢に当たらないよう、結界に隠れてやり過ごしていたら、大隊長さんの号令に別の内容が入った。

 ようやく、向こうが動き出すようだ……とは言っても、まだ矢が降り注いでいるから、俺は動けないんだけどね。

 右翼って事は、俺から見て左の人が少ない方か――。


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