第1032話 突撃に備える



「六の矢準備……五の矢撃てぇ!! 右翼はそのまま前進、六の矢が放たれたと同時に突撃せよっ!!」

「「「おぉぉぉぉ!!」」」

「突撃か、さすがにいつまでもこのままじゃいられないよね。迎え撃つには……」


 兵士さん達の方を見据えながら、大隊長さんの号令を聞く。

 前進し始めた部隊がいるためか、先程までよりも降り注ぐ矢の数が減って来ている……とは言っても、さすがにまだ動けないけど。

 こちらに前進する兵士さん達は、降り注ぐ矢の隙間からなんとなく見える。

 速度は速くないから、大隊長さんの言う通り六の矢が撃たれるのを待っているんだろう……って、馬に乗ってる!?


「騎馬かぁ……これは、思ったよりも速く俺の所まで来そうだ。さすがに次は隠れて過ごさず、迎え撃つ準備をしないといけないかな」


 当然ながら、馬は人間が走るより速い。

 次の矢が撃たれて突撃されたら、矢をやり過ごしている間に到達されて、向こうに有利になるだろう……しゃがみ込んでいるから、咄嗟に動くのは難しい。

 なら、やる事は一つ……騎馬が六の矢のすぐ後に来るのを迎え撃つために、降り注ぐ矢をなんとかしないと。


「右翼前進!! 騎馬の突撃に備えろ!! 左翼後列、遅れるな!!」


 遠くから聞こえる、大隊長さんの叫び声。

 ……魔法で被害を与えて視界を奪い、その間に矢を放ってさらなる被害と相手の釘付け……その後騎馬で突撃、さらに他の兵士さん達も動かすと。

 準備が万全で向き合って、合図で戦闘開始という条件というのもあるけど、休む暇もない戦闘になるのが、集団戦なのかもしれないな。


「なんとなく、模擬戦の延長のような気がしていたけど、全然違うんだな」


 頭の中では、突撃してきた兵士さんと戦い続ける……みたいなイメージだったから、タイミングを見計らないながら、模擬戦との違いを実感しつつ呟く。


「六の矢、撃てぇ!! 続いて騎馬隊突撃!! 右翼、騎馬隊に続け!!」

「おっと、そろそろだね。よし……」


 六の矢と騎馬隊の突撃の号令が下された。

 次の弓矢準備の指示は出ていなかったようだから、やっぱり味方が突撃する際に弓矢を撃つ事はしないようだ。

 味方に当たっちゃいけないから、当然だろうけど。

 ともかく、騎馬隊が来る前に先に降り注ぐ矢を何とか凌いで、備えなくちゃね。


「前の矢が終わって数秒程度で次の矢が来る……ここだ!」


 五の矢が終わってから、六の矢が放たれて俺に届くまで、これまでを考えれば大体数秒程度ある。

 その隙に立ち上がり、砂煙を上げて突撃して来る騎馬隊を見据えながら、山なりに騎馬を飛び越えて飛来する六の矢に対応。


「くっ! この! いててて……でも、備えていたらなんとか……っ!」


 来るのを待つだけでなく、最初の爆発の矢で散乱した木剣を一つ拾い、両手にそれぞれ一つずつ持って降り注ぐ矢を叩き落す。

 俺の正面には結界が張られているので、その結界に守られていない部分に当たりそうなのを狙ってだ。

 とはいえ、魔法じゃないため探知魔法が役に立たないので、目で見て判断する必要がある……矢が降り注ぐ速度が速すぎるため、さすがに全てを叩き落すのは不可能だけど、いくつかは防げた。

 まぁ、足に当たったりして突き刺さりはしないまでも、結構痛みを感じているんだけど。


「つぅ……結構当たっちゃったなぁ。爆発の矢よりも、密集しているから隙間を縫えないし……そもそも速度が速くて目で見るだけだから、避けにくい……」


 木剣を振っている腕や足などに、それなりの数の矢が当たってしまっていた。

 痛いだけで済んでいるのは、魔力のおかげだろう……勢いや深々と地面に突き刺さっているのを見るに、通常なら貫通してもおかしくないくらいだっただろう。

 改めて、自分が普通の人間と同じ規格で考えない方がいいんだと自覚……でも、人間だという主張は捨てないでおこう。

 さすがに、漫画やアニメのように自分に降り注ぐ矢を、全て叩き落すなんて事ができないのを歯がゆく思いながら、それでも数を減らすために木剣を使って痛みに耐えながら、数を減らし続ける。


 ……最初から、ずっとこうしていたら疲労もそれなりにしただろうし、痛みで根を上げる事はなくとも、怪我をしたり続く兵士さん達の突撃には耐えられなかったかもしれない。

 大隊長さん、結構やる事がエグイ。

 でも……それももう終わり……だ!


「っと! よし、次は……」

「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」


 降り注ぐ全ての矢をしのいで、気勢をあげる騎馬隊の突撃。

 遠くから攻撃されたら、魔法が限定されている俺はただ耐えるしかないけど、直接戦闘になれば話は別。

 ここからは、俺の反撃……。


「リク、お馬さんは狙わないの! 乗っている人間を狙うの!」

「うぇ!?」


 近づく騎馬隊を見据え、まずは機動性を奪うために馬を狙って……なんて考えつつ、左手の木剣を地面に捨てて、右手に持った木剣を構えていると、穴の中にいたはずのユノから止められる。

 急に静止がかかったので、驚いて声を上げてしまった。


「お馬さんにリクの攻撃が当たったら、可哀そうなの!」

「いやまぁ、それは確かにそうだけど……俺だけ、気を付けなきゃいけない事が多過ぎない!?」


 一部以外の魔法の使用禁止、結界の限定使用、さらに兵士さんと戦う時も命を取ってはいけないので、全力で戦ってはいけないなどなど……加減をしなければいけない事が多過ぎる。

 ……そりゃ、例えこれが実戦であっても、相手の命を奪うくらい全力で戦いたくはないけど。

 そこからさらに、馬も狙っちゃだめだなんてなぁ……。


「お馬さん、防具を付けていないの。きっとリクの攻撃を受けたら、痛い痛いなの!」

「はぁ……わかったよ。というかユノ、喋り方が本当に幼い女の子みたいになっているぞ?」

「気のせいなの!」


 確かに、向かって来る騎馬隊の、乗っている人達は完全武装だけど、馬には鞍や鐙が付けられているだけだ。

 軍馬には金属製の専用武具を取り付ける事がある、と聞いたから、あれらは間に合わせとかなんだろう……それとも、そういった軍馬は一部にしかないのかもしれない。

 ともかく、そんな馬が俺の振る木剣に当たったら……突撃して来る勢いもあるし、良くて骨折、悪ければ……まぁ、そういった事をユノは心配しているんだろう。

 俺の心配よりも、馬の心配かと思わなくもないけど。


「……狙うのは騎乗している人間、狙うのは騎乗している人間」


 仕方なく、馬を狙わないように兵士さんだけを狙うよう、自分に言い聞かせるために小さく呟く。


「リク様、ご覚悟!!」

「……覚悟するのは、貴方の方ですよ! はぁっ」

「っ!? ぐあ!!」


 真っ先に突撃してきた一騎、その人が正面から俺に向かいながら、槍を突き出す。

 馬の上だから、剣よりも槍の方がリーチが長くて使いやすいんだろう……模擬戦で何人かの兵士さんが使っていた槍よりも、さらに長いから馬上槍とかそういう物かな?

 ともかく、俺を狙ったその突きは、前もって備えていたので簡単に避けられる。

 真っ直ぐ突撃する騎馬兵を、体を横に動かして避けると同時、軽くジャンプして木剣を振るって腹部に当てた――。



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